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04



「なんて?」


 少年から返った言葉に、女は我が耳を疑った。


 朝ちゅん、などと少年の口からは聞こえていけない言葉が聞こえた気がした、と少年を凝視する。


「朝ちゅんから始まるゲームです」


 しかし、無情にも少年は同じ言葉を繰り返した。実に淡々と。


「最初に攻略対象を選び、その人と朝ちゅんから始まるゲームです」


 しかも更に丁寧に説明を付け加えた。


 ぺらり、と少年の手にした書類が捲られる。


「貴方は平民の女性。攻略対象は三人プラスシークレット一人。逆ハーレムなし。選んだ人と結ばれたらハッピーエンド、結ばれない場合は骨の髄まで嫌われるバッドエンド。ノーマルエンドはないようですね」


 じろじろと書類の端から端まで目をとおし、少年は一つ頷く。


「まぁ、あくまでそれはゲームの設定です。これから貴方が転生するのは、あくまでもその世界を元とした現実ですので、朝ちゅんから始まろうと、他の誰かと恋愛はできるでしょう。ただし、そこは貴女にとって現実です。どのような結末になろうと、貴方が選び、進んだ貴女の人生。全ては貴女の責任だということを忘れないように」

「は、はい……」

「物語は三年間。それを超えれば世界は安定します。別に恋愛を成就させようがさせまいが関係ありません。貴方が三年間生きてさえいれば、物語は完成します。ですが、大体は強制力が働き、強制的に恋愛イベントが発生しますし、貴女もそのように考えが捻じ曲げられることが多々おきます」

「はい……」

「説明は以上です。では、どの方を選びますか?」


 少年が言うと同時に、少年の後ろに四枚の巨大なパネルが現れた。


 女から見て右から三枚のパネルには、三人の男性。最後の一枚は真っ黒に塗りつぶされている。


「ちょちょちょちょっとまてぇえええ! 乙女ゲームじゃなかったのかぁああああ!?」


 動転し、敬語を忘れた女の叫び声が響き渡った。


 今までは大人しくしていた女だったが、パネルに表示されたブロマイド的なイラストに、怒鳴らずにはいられなかったのだ。


 しかし、少年は一切変わらぬ様子で女を見つめ、乙女ゲームですよ、とただ一言発した。しかし、女は納得いかない。


 これから行く世界なのだ。


 自分の人生なのだ。


 ここは絶対に確認しておかねばならない。そんな強い意思の下、少年にくってかかる。


「いやいやいや、どう考えてもおかしいでしょう!? 何!? 王子、伯爵、アイドル、シークレットってのはいいよ!? 筋肉、イケメンもいいよ!? なんなの!? なんでアイドル枠が相撲取りなのよぉおおおおっ」

「はぁ!? 貴方相撲取りを馬鹿にしているんですか!?」


 女の絶叫に、しかし、それまで冷静そのものだった少年が激怒する。手に持っていた書類を下へと投げ捨て、女をじろりと睨み付けた。


 ばさばさと書類が散らばるが、女も少年も気にしない。


「アイドルと言ったら相撲取り! 相撲取りと言ったらアイドルに決まっているでしょうが! その昔は神事と言われた相撲……それを行う神聖な男子……それがアイドルでなければなんだと言うのですか!? 相撲取りなら関所は一発芸で通してくれるほどだったんですよ!」

「はぁ!? 知らんし! 相撲とかおじいさんとかおばあさんが見る物でしょうがっ」

「かーっこれだから最近の礼儀知らずの若者はっ!!! そこになおりなさい! 神であるこの私が、相撲について教えてあげますよっ」


 どこから現れたのか、磨きこまれた机をばんばんと叩きながらキレる少年。幼児のお遊戯会の妖精の羽を造ろうとして、失敗してハエの羽になった、みたいな羽がその動きに合わせて揺れていた。


神様と女の会話は、実際にトドと家族の会話。

神様の方がトドです。


なんでダメなんだろう……。

いいじゃない、攻略対象のアイドル=相撲取り、そんな乙女ゲームがあったって……。

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