01
どこまでも真っ白な空間。
ああ、夢であってください。
女は強く願った。
女の眼前に、ふよふよと浮かぶ、しょんべん小僧にお遊戯会の妖精の羽を造ろうとして、失敗してハエの羽になった、みたいな羽をつけ、神だと名乗る子供が一人。
強く現実逃避をしていた女は、一度ぎゅっと目を閉じ、片方だけ薄く開く。
けれどああ、目の前の現実は消えてなくならない。
変わらない。
女の眼前には矢張り、ふよふよと浮かぶ、しょんべん小僧にお遊戯会の妖精の羽を造ろうとして、失敗してハエの羽になった、みたいな羽をつけ、神だと名乗る子供が一人。にこにこと笑いながら、手にしたバインダーに挟まる紙をぺらりと捲る。かりかりとどこか見覚えのある、オレンジ色の外装の鉛筆の裏、消しゴム部分で頭をこする姿が古臭く、異様にシュールな光景となっていた。
目のやり場に困る素っ裸少年は、書類らしき物体を捲りながら、女に説明をしていた。女の死因、現在の場所、現在の状況。
つらつらと淀みなく喋る姿はまさに役所職員。
腕には、今では殆ど見ない紺一色のアームカバー。素っ裸で書類を捲る彼の一体どこに必要なのか、アームカバーをつけるのならばまず服を着ろ、という言葉を飲み込みつつ、考える。
それは一種の現実逃避だった。
「――とこのように、世界は日々新しく創造されています。そして、その新しく創造された世界に、地球から溢れた魂の幾らかを転生させております」
「あ、あのぉ……」
女はようやく声を上げた。
声を上げて気づく。随分久方ぶりに声を出した気がする。女の記憶上、少年の説明はまだ開始して十分も経っていない。どれほど多く見積もっても五分。それなのに、何故だか女は自分が何年も声を出していなかったような気がしてならない。
掠れた小さな声だったが、少年にも問題なく届いたようだ。少年は説明を止め、顔を上げた。
「はい、何でしょうか?」
「あのぉ、新しい世界には魂がないんでしょうか? なんで地球から転生させるんですか?」
視線を逸らし、言葉を紡ぐ。
本当に聞きたいことはそこではなかった。何故自分は死んだのか――理由は聞いたが納得はしていない――とか、ここはどこなのかとか、色々と聞きたいことはあった。しかし、何故だかそのセリフが出てこなかった。
どうしてだろう、と考えようにも、頭の中に霞がかかったかのように思考が霧散していく。
少年がああ、と声を上げた。まるで、そんな問いかけ予想の範囲内だと言わんばかりに。
ぺらり、と少年の手の中の書類が捲られる。
「当然、新しい世界にも魂があります。ですが、これから貴方が行く予定の世界は、元はゲームの世界です」
少年は淡々と説明する。