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記憶の上書き

作者: 語彙力皆無


いつもと同じ帰り道。


幸い、退勤ラッシュの時間より数時間前なので、

車内はまだ空いている。




「ああ、私の人生ってこれでいいのかな」


窓の外に広がる、全く知らない街並みをぼんやりみつめながら、

解決のできない自問自答をしては、また一日が終わる。



なぜ人間という生き物は「疑問」という感情を抱いてしまうのか。



疑問が解決された瞬間に感じられるあのなんともいえない安堵感を感じるために生まれる感情なのか?

しかし解決されたにも関わらずネガティブになってしまう疑問だって存在する。

一概にそうは言えないはずだ。



例えるならば、


ーー なぜあの時、君は私に突然別れを告げたのか ーー




私はきっと、この疑問が自分なりに解決したとしても絶対に納得できないことを知っている。


もう考えても無駄ということはわかっている。


それなのに、

気が付けば考えてしまっている私がいる。


何か他のことをして気を紛らわせても、

ちょっとした油断の隙間にまた思い返している自分がいて、

落ち込んでしまう。



言葉では何度も前を向こうと切り替えたのに進めない。


心だけは正直だ。



傷付くことは自分自身が一番なんとなく心ではわかっている。


それでもまた覗いてしまうSNS 



「はぁ…なんで…」


自分だけがこの世界に取り残されたような寂しい空間。

目の前に広がる白紙のノートを眺めていると吸い込まれそうになる。




第三者からみたら生粋のマゾかと思われるような行動。

しかし誰もが一度は、

目を背けたくなるようなホラー映画のワンシーンを薄目でみてしまうような、心情とは全く別の行動を本能的にとってしまっている経験したことがあるだろう。



考え疲れた私は気付いたら勉強をしながら眠りについていた。



そして、また今日も一日がはじまる。

終わりのみえない長い、長い人生。

自分が一体どこに向かっているのかもわからない。


それでも前を向いて進まなくてはいけない。


根拠はないけど自分にそう言い聞かせて朝の満員電車に飛び乗る。



ついにテスト勉強と失恋の影響でなった寝不足のツケが回ってきた。



込み上げてくる逃げ場のない吐き気。

段々意識が遠退いて倒れそうになっていた。


そんなとき、目の前に座っていた青年が席を譲ってくれた。


「大丈夫?隣のクラスのやつだよね?」


私は目の前が真っ白になった。

体調の限界が来たわけではない。

目の前にいたのは、私がずっと憧れていた同じ学年の彼だったのだ。




この世にはどんなに賢く、偉い学者であろうとも、人類、誰しもが解決できない事の方が大半。正論は人を傷付ける。


だから疑問は無理に解決しなくてもいい。

忘れてしまえばいい。


忘れてしまえば、その疑問はもう「疑問」では無くなるのだから。




いつも毎朝、通学電車で考えいた、

あの私の悩み事も今日は自然と考えていなかった。

完全に忘れていた。



そして、あっという間に駅に着き、突然の出来事に動揺している私の足取りは、改札を抜けた彼に段々と遅れをとっていた。



「はやくしないと先行っちゃうよ?」



そう言って、私に向かってはにかむ彼の背中を、必死に追いかけた。


ただ前だけ、真っ直ぐみつめて。






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