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昔アメリカでは脂肪と砂糖を天秤にかけて、脂肪を悪玉とする風潮があった。

どっちもとりあえず気をつけるという風にはいかんかったのは複雑な利権などもあったらしい。

それが、戦後の日本に入った。

敗戦国で植民地に地下鉄などという立派なものは作るなと言われてもなんとか誤魔化しながら作り、将棋は捕虜虐待だから禁止するというしょーもない理由をつけて文化破壊されそうになった時も棋士がGHQに怒鳴り込んで撤回させた。

しかし、回避できなかったものの方が多い。

おまけにそれをありがたり、GHQが去った後も利権や権威、そしてなによりもお偉いさんのメンツが複雑に絡み合い、撤回されず、修正されずにいるものは多い。


日本の糖尿病指導は、炭水化物で6割のカロリーを勧める。

健常者はともかく、糖尿病患者にこれは凌遅死刑宣告になりかねない。

でも、医者が悪いわけではないのだ。

医者は国家資格で、国の指導要領に従わなければならない。

それに従わなければ、何かあったときにまずいし、学会にバレると立場が悪くなる場合もある。


自分で自分を守るしかない。


俺は医者を憎まなかった。

頭がおかしい子供だと思われて、雑な扱いを受けていた身で、立場上どうにもできない人を憎むことはできない。


だけど、オメーらは許せない。


何度も食い下がった。

資料も持って行った、全く目を通してくれなかったけれど。

「でも糖質制限危ないってテレビで言ってたよ」

と言われて、もうダメだとわかった。

糖質制限は危ない側面もある。

それは、肉なら食べ放題などという宣伝に使われる。


ひとは信じたいものしか信じない。

米至上主義の人は糖質制限を否定する話を信じるし、肉食大好きな人は糖質制限を信じる。


見舞いの連中は、自分の見栄えが良くなるパターンを信じた。

花だけ、または無手でお見舞いなど、奴らには信じられなかった。



最近、日本でも子供に砂糖の入ったお菓子を食べさせない様にしている家庭がある。

程度によるが、ひとまとめにされて人々のサンドバッグにされている。虐待に見えるらしい。実際虐待でやる家庭もあるからなおのことややこしい。

だが、砂糖を摂った子供のの脳の状態や行動などから興奮状態になっているというのがわかっている。

おまけに依存性が出る。

甘いものがダメというわけではない。砂糖はやり過ぎなのだ。


子供に与えるのは危ないとされているものを、病人に与える。しかも、糖尿病患者に。


2012年。

アメリカの糖尿病学会は糖質制限を推奨する様になった。

実はアメリカでは元々糖尿病患者が糖質制限食を摂るとよくなるというデータが100年前からあった。

どこの国もこんなものなんだろう。

カロリー制限、糖質制限どちらも効果がある。

これを受けて、日本も2015年に方針転換した。

アメリカでも日本でも昔から糖尿病になる人はたまにいて、その際は甘いものを控える様に指導されていたのにもかかわらず。



おじさんは間に合わなかった。


いや、間に合っていても末端まで広がるのはいつになっただろうか。

おじさんは腎臓がやられて毒素が身体中を蝕んでいたし、病院の対応がかわっても、もたなかったかもしれない。


それに、おじさんはお見舞いを断りきれず、あいつらはきっと何度でもお菓子を持ってきただろうから。


2015年を過ぎた今でも、糖尿病患者に対するお菓子のお土産はどこかで続いているだろう。


おじさんが死んで、他がどうとかもう俺が知る機会はないけど。




「ヒト族の貴族はこんなものを食べているのか」

プウは俺の説明でビビっていた。

ヨーダに、もしもの時には頼む、とか言ってて面白かった。

落ち着いてきたみたいで、今度は眉を潜めている。

まだ言葉にはできないみたいだが、潜在的な問題に気付いているのだろう。


「貴族だけじゃないよ。これからは庶民も食べる様になる。むしろそれが大事だ。貴族の真似をしたがるのが庶民だし」


大きな屋敷の掃除の手間を知らず、マイホームの対応年数を知らず、嗜好品の中毒性を知らず、収入に合わないものに手を出しては毎日の時間を削られる。

名家と成り上がりや庶民の間にはお金以上の格差があるのだ。


「完全に悪ってわけじゃないよ。急なエネルギー補給には使えるし、精製してちゃんと保存すれば数十年単位で保つんだ」

ウエディングケーキの上の段は元々砂糖漬けで保存し、出産後に食べるものだったらしい。

それだけ砂糖は長期保存が効く。

戦場のカレー粉の様に、食べれるけど味が酷いものにふと振りして使うという調味料的な道もあったかもしれない。

「でもまぁ、ヒトは欲望に忠実だから」


南国のサトウキビ農業に膨大な資金が流れ込み、現在大量生産中。

奴隷商売と手を切った分、俺の誘いに乗った連中は多かった。

元々砂糖産業は旨味があったが、サトウキビ自体が限られた地域でしかつくれないため、拡大がむずかしかった。

しかし、この世界にはもう肥料や土地改良の考え方が広まっていた。

いつのまにか家畜は増えていて、その増えた家畜の糞から作られた堆肥の売買が各所で行われている。

これによって、サトウキビの拡大生産が可能になった。

拡大しはじめて、まだ2年たっていない。つまり、2回目の収穫を待っている段階だというのにもう価格がおかしな動きをしている。

なんかやってる連中がいるんだろう。

北のビートも軌道に乗りそうだ。

現在魔法省に根粒菌のパワーアップをお願いしている。

大豆の根っこにいる菌を強くしてくれとか雑なお願いだけれど。

まだまだ工業化は先だろうから、空気中の窒素を肥料に変える方法がない。俺も知らない。


「魔王様……何と言いますか……感服いたしました……」

プウがやっと言葉をひねり出した。

「わかったか?」

「こう……上手く言えないのですが、これはつまり、ヒト族を奴隷にするというか、なんというか……」

「そんな感じ」


食を支配したものは命を支配する。

欲に縛られた者は命を差し出す。

自らの命を守れないものは食を持ってくる者の奴隷だ。

魔族達は自給自足9割助け合い1割で生きているので明確に認識できないのはしょうがない。


サトウキビの良いところは、土地を荒らすところだ。

数字は嘘をつかない。

カロリーの高い植物は必要とするエネルギーも大きい。

サトウキビは本来選ばれし土地のみが向いている作物。

さて、堆肥でいつまで地力を支えられるか。

沖縄のサトウキビ農家は、気候的には合っていても土地に肥料が必要で毎年頑張っている。太い方がいいし。

収穫後のサトウキビ畑の土を見てみればいい。

だが安価な肥料、というより、まだ肥料を大量生産できない状態ならどうだろうか。

カリブ海や西インド諸島、そしてエヴァグリーズがどうなったか。

土地だけではない。

そこで奴隷達がどれだけの地獄を見たか。



「なるほど。このビラも……」

ロウは俺が刷らせた大量のビラ(凸版印刷機と紙は作った。知識チート!)を見て唸っている。

米、小麦、砂糖、肉、その他。

それぞれに、健康に良い! という宣伝文句版と、身体に悪い! という宣伝文句版がある。

いろんなパターンのビラを大量に刷らせた。


イラストを交えてわかりやすく。

大文字で簡潔に良い悪いと書き、細かい補足は小さく端に。

細かい成分表示を見る人はあまり居ない。大文字で心に響く言葉だけ書いておけばいいのだ。それは地球でも行われていた事だ。

成分表示とにらめっこして気持ち悪がられた俺が、今はそれを利用している。

「ヒト族は信じたいものを信じる……こうしておけば、結局は全ての消費が増えるという事ですか……」

ロウが唸った。


食べ物の宣伝以外にも、

『よく食べる事こそ長寿の秘訣!』

というビラもある。

これも効果がある。

基本的に、胃腸が強い人は長生きする。

どれだけ食べすぎで死んだ人がいても、いっぱい食べたい人は、生き残った選ばれし大食漢を崇拝し、自分が大食する理由にするのだ。

おまけにこの世界は貧困で餓死する人間がザラにいるから、やったこともない大食を夢見る人々の心には響くだろうし、食べれずに死んだ人を見てきた人々は、極端な言葉なのにそのまま信じてしまう。


ほどほどの少食にされると困るので、薬効のある植物の情報も作った。

『これさえ食べときゃ大丈夫!』シリーズだ。

『この病気にはコレ!』シリーズもある。

本当に効果があるものを載せているが、その時々で売りたいものを宣伝していくシリーズだ。


例えば、茸がガンに効くという話がある。アガリスクとかなんとか。

その有効成分はβグルカン。

βグルカンとは何なのか。

αグルカンが不溶性食物繊維で、

βグルカンは水溶性食物繊維。

この経緯は、食物繊維によって腸内細菌が増え、代謝系や免疫系に好影響を与えるというものだ。

そうやって、高い方の商品を売りつけてやる。


商品の調整は、お得意様との談合で。


日本では茸がガンに効くと昔から言われていて、実際に予防には一役かっていたかもしれない。

そもそも水溶性食物繊維を多量に含む食べ物がそんなに多くはないからでもある。


食べ物諸々のこういうビラはまだまだ早いのかもしれないが、この早さも大事だ。

やがて多くの民が三食食べる様になってきたとき『昔からそういわれていた』という刷り込みが大事なのだ。

それが10年でも5年でも、効果がある。



「ふぉふぉふぉふぉふぉ、魔王様、さすが魔王様として召喚されただけの事はありますな」

ヨーダは何か振り切れたっぽい。


「どんどん刷って、お得意先が指定したものをそれぞれの国に運べ」

お得意先にとって都合のいい宣伝ビラをそれぞれの土地で使うのだ。


だが、この宣伝ビラは微妙に出鼻をくじかれた。

戦後増え続けていたヒト族人口が、年末から翌年までで少し減少してしまったのだ。


この年、6年目の秋頃、とうとう勇者が奴隷解放のために戦争を起こした。


小競り合い程度で戦争は終結。

俺も同じ量の魔力を付与されているから分かるが、ヒト族に止められるものではない。

対魔族殲滅用決戦兵器である。

勇者に突っ込まれた南西の小国はすぐに降伏し、奴隷を解放した。

勇者は他国にも脅しをかけ、いくつかの国が奴隷を解放した。

この動きはどんどん広がり、南西諸国の殆どが犯罪奴隷以外の奴隷を解放した。

お得意先から感謝の手紙と粗品がいくつも届いたので、みんな上手くやったらしい。


結果、人口が減った。


年貢のための人口調査は毎年行われていて、俺のところに流れてくる資料もそれらの複製だ。

だが、奴隷は人口調査に関係ない。

色々な事情から多くの国が計算していない。


それでも人口が減ったのは、元奴隷が暴れたからだ。


食い物をやるだけだったのが、食い物分の代金プラスいくらかの賃金を与えなければならなくなった。

色んなところが連鎖倒産していて雇えるところはほとんどない。

雇ってもらっても奴隷の時より酷い食事になる程度の賃金しかもらえない。

結局奴隷達は食うのに困って暴れた。

本当に食べ物だけを奪ったり、逆恨みで平民を殺してまわったり、混乱に乗じで婦女、または少年を襲ったり。

もちろん奴隷のフリをした愉快犯もいただろう。

突然放りだされても、それを受け止める場所がどこにもなかったのだ。

主人の元に戻った奴隷もいる。

主人が破産してしまって、しかし戻った奴隷達と助け合って生活を立て直したりなどは美談だが、主人が食事を用意できないと知り、逆恨みして殺したという話も多い。

もちろん全ての奴隷が暴れたわけではない。

上手く就職できたり、そのまま餓死した者もいる。


剣闘奴隷達は兵士の働き口を期待したが、戦争が終わって給料は削減され新規募集もしていなかった。

傭兵になれたものもいたが、全体からするとごくわずかだった。

闘技場で粗末な飯を食べていたが、その粗末な飯さえなくなってしまった彼らはいくつかの剣闘奴隷グループと結託して国取りを画策した。

作戦などないに等しいただの力押しだったためすぐに鎮圧されたが、凄まじい数の市民が殺された。


叛乱した元奴隷達の首を晒しているという情報が入ってきて直ぐに、俺はその近隣のお得意達に密書を送った。

晒し首反対派に入っておくか、提出しなくてもいいから晒し首撤去の嘆願書をかいておけ。と。


こんなもん勇者に狙われるだろ。


実際、勇者の抗議が入って晒し首は終わった。

この程度では儲け話にも権力拡張にもつながらなかったみたいだが、勇者に睨まれるというのは避けられたという事で、また少し粗品が届いた。




6年目の冬。

魔族との戦争がなくなったヒト族は、同じヒト族同士で死体の山を積み上げた。



あぶれた奴隷達は、雇用契約という法的効力もあやしい書類で拾われた。

今度はサトウキビ畑で働く事になる。

奴隷ではなく低賃金労働者として。

つまり、奴隷のほとんどは奴隷のままだった。













※本作で上がっている情報は雑です。

現在そう言われているもの、今後変わるかもしれないものも含まれます。

善玉コレステロールと悪玉コレステロールぐらいの手痛い手のひら返しがあるかもしれません。

フィクションです。

自分の体は自分で大事に!民間防衛


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