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「頑張ってね」

との言葉とともに、顔を歪める人たち。

一般人というのは結構役者なもんだ。

悲しそうな、そして励ますような複雑な表情を浮かべ

相手に見せる。

私はこんなにあなたを気遣っているんです。

ほら、お土産も持ってきましたよ。

あなたのために!


お土産の定番といえばお菓子だ。

あなたのために、とか態度で示しながら、結局あいつらはおじさんのことなんて考えてなかった。

病人に優しく接する自分を演出したかっただけだ。

だから、小道具のお見舞い品も、お見舞い品だとはっきりわかる定番のものしかもってこない。

つまり、おじさんに対して、周りに対してのアピールだから、周りが見て、いかにも優しい人だと思うようなものを持ってくる。


俺はいくつもそんなお菓子をゴミ箱に捨てて、そのゴミ袋を縛って持ち出して、ナースステーションで捨てといて下さいとお願いして出した。

だから、お菓子の値段や珍しさがどんどん上がっているのを知っていた。


おじさんは入院患者としては若い。悲劇的だ。

おまけに人当たりも良くて人気があるから、そんなおじさんを気遣うのはさぞかしドラマチックだと思った事だろう。

ケータイ小説とか若くして難病になってうんたらかんたらで涙をさそうとかよくあるし。

見舞客はおじさんと仲良くなった看護師の人とかにもアピールしていた。

なんだおまえら。


だから連中はお菓子を持ってくる。

差し入れとか病院が制限すればいいのに、それも無かった。

俺がやるしかなかった。


糖尿病患者に、失明までいってる患者に砂糖のはいったお菓子を持ってくるなんて、自分の体面のためにおじさんを殺そうとするなんて、俺は絶対に許さない。


糖尿病から回復した例は結構多い。

だけどおじさんは、俺がいないところで、見舞客と一緒に語らい、笑い、お菓子を食べていた。

いや、お菓子だけではない。病院食からして既に危なかった。

俺は転院を勧めたが、この病院におじさんの友人が務めていて、その人に悪いから、と言うのだ。

おまけに人当たりが良いおじさんは看護師の人たちからも慕われていて、彼らにも悪いと。


俺は無力だった。






召喚されて3年が経った。

「小麦粉の値段かなり下がったな」

「はい。白パンが民衆の間でも食べられる様になったそうです」

「秘密口座の金も増えている。ま、連中には小麦の価格が下がるのを教えてたしな」

うちのお得意様に信用を売っておいた。今頃にっちもさっちも行かなくなった農家農地をホクホク顔で買い上げている事だろう。

この裏でどれだけの人間が首を吊ったのだろうか。

俺とロウは雑談混じりで資料に目を通していた。

「あと、肉の消費量も上がってる。こっちは俺何かしたっけ?」

「いえ。魔王様が指示された事の中には肉に関するものは特になかったかと」


勇者が何かやったのかな?

三食しっかりタンパク質たっぷりとか言ってやってくれているならありがたいけど。


「魔王様、本当にこれで良いのでしょうか」

絶対王政みたいな魔族の国だが、意見したら殺す!みたいな関係は昔から無く、俺も非常に助かっている。

雨でだるいから今日休むとかいうのんびり屋さんにはたまに手を焼くが。

種族的にそうならしょうがないけど、沼地のリザードマンがそんな事言ったもんだから、むしろ、こんなんでよく今までやってこれたなと感心した。


「なにが?」

「ヒト族は今急速に豊かになっています。確かに我が国への注意は薄れていますが、ヒト族が富み、増えれば戦争が再開した時厄介ではありませんか?」

戦争が終わって国内のアゲアゲモードに政治の方向が切り替わっている。

そしたら魔族の国への注意は明らかに薄れてしまった。

肉親を殺された個人とかのレベルだとまた違うんだろうけど、たった3年で、である。やっぱり魔族の国はただの政治的スケープゴートだったんだろう。

「まぁ、そうだろうね。その前に潰れてもらわないとね。20年戦争やってたわけだから、あと50年ぐらいで滅ぼしたいよね」

「はぁ……」

ロウは首をかしげる。


「戦争でも飢饉でもヒト族を根絶やしにするのは難しい。そもそも一つの種族を根絶やしにするなんて面倒なもんだよ。だから、コントロールする。ヒト族という種族を家畜にする」

「はぁ……」

やはりロウは首をかしげる。


「幸い、勇者も協力してくれているみたいだし」

「勇者が、ですか? ニホン、でしたか。情報によれば魔王様と同郷とは聞いていますが……いつの間に手を組んだので」

「いや、会ったことも無い、でもほら、コレ」

俺は一つの資料をロウに示した。

「これが……なんなんですか?」


その資料は西南の小国でお菓子が流行っているというものだった。

幾つかの絵も入っている。

そのお菓子には見覚えがある。


ヒト族の国各国に浸透している種族的中立魔族達の情報網はかなり役に立っていた。

やはり現代地球の様にメールですぐに、とはいかないが。


「このお菓子は日本、というか地球にあったものだよ。偶然でこの数を同時に発明はできないだろうし」

勇者は着実に異世界モノのテンプレを進んでいるらしい。

ハーレムも多分作ってるんだろうな。

俺まだ童貞なんだが。


他の資料によれば、勇者はいろんなところで事件解決とか魔獣討伐とかやっている。


「お菓子が先か。次は定食屋か居酒屋か。雑貨屋じゃないって事は、多分取り寄せ的な能力は無いな」

「はぁ…… でも、それがどうして魔王様の役に立って……」

「まぁ、そのうちわかるよ」

「はぁ……」

ロウは首をかしげてばかり。


と、少し地面が揺れている。

ロウは鼻がいいのでもうわかっているみたい。

俺にもだいたい予想は付いた。

「魔王様!一大事です!」

駆け込んで来たのはプウ。

冬眠明けてから東の密貿易港に行っていたはずなのだが。

そう、プウは冬眠をする。最も寒い2ヶ月ちょっと間は体がだるくてうとうとしている。危機を感じると覚醒するらしいが、今は戦争もやってないし冬眠を許していた。

熊かよ。いや、熊か。

そして寝覚めの仕事が、密貿易港の視察と防衛指導だったのだが。


「落ち着け。どうしたんだ」

この雑な乱入はプウだろうなと予想していたが、なんでプウが戻ってきたのかはわからない。

「我が魔族の、この魔王城の情報がヒト族に漏れています!」

「そうなの?」

「はい! これです!」

プウは机にドスンと箱を置いた。

平たい箱で、網目の模様が入っている。

プウの図体のせいでやたら小さく見えるが、B5ノートぐらいの大きさはある。

ああ、これは。

プウが割と器用な指先で、

開く。

ジャラジャラと音をたてて、中から白と黒に塗り分けられたコインの様なものが出てきた。

リバーシである。


これは俺が魔王城でたまに遊ぶものだ。

いかんせん魔族は個体差が大きいため、駒のサイズが合わなかったりこういったものを掴むのが難しかったりであまり広まらなかった。とはいえ、それぞれの種族が遊びやすいように自分たちで改良した変形版は広まっている。

そういうわけで、原型のリバーシは逆に魔王城の俺の周り、または器用な種族のまわりにしかないのだ。

別に機密ではないんだけど。


「それはどこから持ってきたものだ?」

「はい、ヒト族の商人が売りつけて来ました。おそらく監視しているぞという示威行為でしょう」

熊というのは足が早い。

最高速度はわからないし持久力もわからないが、少なくとも時速60kmの車と並走するぐらいには速いらしい。

二足歩行のプウはどんなもんかよくわからんが、魔力による肉体強化もある。一応実力もパワー系のトップではあるしかなり早いだろう。

とはいえ、魔王城から東の港まで馬車で5日の距離だ。

息はあがってないみたいだが、薄汚れていた。

なんともいじらしい奴である。

「これの出所は聞いたか?」

「いえ!」

ほんとお前熱いやつだな。惚れるわ。

「これなら心配するな。多分勇者だ。今頃利権でガバガバ儲けてハーレム屋敷でも建ててるだろう」

「ゆう……は? 勇者が……それはどういう」

「まず座れ、最初に言っただろ、リバーシは俺のいた世界の遊具だって、で、勇者が同郷だって話もしたよな」

「…………なるほど! 勇者がヒト族の間に広めたんですね!」

思いついたら即行動だが、馬鹿ってわけじゃない。

それも俺の心配をしての事だ。

お前ら本当になんでヒト族に嫌われてんだ?



なお、ロウや魔法省の連中は将棋をお気にめした様で軍属は「いや、捕虜が敵国のために戦うとかねーだろ」という理由でチェスの方が好みらしい。

どっちも俺なんかよりずっと強くなってしまっている。

実はこのプウも俺よりチェス強い。そらパワー系とはいえ軍のトップだし、強いのは理解できる。理解できるけど納得はできない。ちくしょー!




この年、ついに稲の品種改良版をロールアウトした。

病害虫に強いかは知らんが、とりあえず実は多い。

稲は回転が早いとはいえ、魔法で植物の成長を促進できるのはよく考えたら凄い。やってくれたのが魔法省の植物系魔族達だったからかあまりそういう実感ないんだけど。品種改良なんかより木が動いて喋ってる事の方がずっとすげぇよ。


稲は東南アジアが気候的に合っていて、雑に生えている。

勇者が今いると思われるのは南西。

気候はそこそこ温暖で雨もよく降るみたいだが、多湿というわけではないらしい。

上手くいくかどうかはわからないが、とりあえず南西の国に流した。

勇者が見つければ増やしてくれるだろう。


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