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本当は和平が良かったけれど、そんなもんふっかけられるに決まっている。

負けてもいないのにベルサイユ条約並みの難題ぶつけられて怪物が産まれてしまっても困るし。

このご時世、休戦も和平も変わらんだろう。

日本も終戦後突然攻められて領土を奪われたり、漁師殺されて実効支配されたりした。

ボロボロの国をかわいそうと思う国など無い。ただの獲物としか思われない。

余力があるというのは大事な事だ。


とはいえ、

「すげぇな…… これで50年も戦ってたのかよ」

魔族の国は東を海に接している以外、全てヒト族の国に囲まれていた。その全て

敵だった。

荒地や山が多いものの国土は広く、よくもまぁ戦線を留めておけたものである。

「ははは。軟弱なヒト族ごときには負けませんよ」

とはプウの言葉。


魔族は肉体強度も高いが、すべからく魔力を持っている。

これが肉体能力の底上げやそれ自体による攻撃や防御として使われる。


人間も微量ながら魔力を宿しているが、実用的なレベルの魔力量を持っている者は少ない。だが、200人に1人ぐらいは魔族並みの魔力量の者がいて、これが厄介だったらしい。

その全てが兵士になるわけではないが、そこそこ数を揃えられる割合だ。

そして、魔族はあまり他国に対して攻め入るという発想がなく、とりあえず戦線を維持しているという状態だった。

「別に食料が足りないわけではないですし。必要以上の土地を得てもいったいどうするのか」

とはロウの言葉。

なぜこんな消極的な魔族がヒト族と仲良くできないのかといえば、それはヒト族との長い確執のせいだった。


単純なはなし、魔族はヒト族ではない。

だから色んな国でスケープゴートとして扱われ、反魔族感情を政治に利用されてきた。

そうやって民衆感情の吊り下げ人参に使われてきたのだが、一部の暴走からなし崩し的に戦争が始まってしまった。

これにはヒト族のお偉いさんも焦っただろう。

ところが魔族には必要以上の領土欲というものがなく、戦線は一進一退を繰り返した。

それがヒト族にとっては都合がよかった。

戦争は金を生むのだ。

調査によれば、小競り合いを続けているこの50年でヒト族の人口は結構増えていた。魔法省調べ。

特に若年層が多い。


これはあれか?

命の危機にさらされると子作りを始めるという。

または、戦争で出征した子供が死んで悲しみの中また子作りして、ポコポコ子供を作ったあげく、復讐を!とか、この子を戦士にするんだ!とか、実際兵士は引く手数多だろうし、そういうループにでも入ってるんだろうか。

後方では奴隷商売も好調であったらしい。

前線のための食料生産が必要なわけで、その人足が要る。

そんなこんなでヒト族と魔族の戦争状態は50年続いた。


が、かくして50年続いた戦争は、前線の国々のトップがお金欲しさにあっさり休戦と相成った。

多分力を蓄えたり、懐の黄金がなくなったらまた戦争始めるだろう。


そうなる前に手を打たなければ。


「麦はあったか。良かった。米はどうか」

「はい。南の小国にそれらしきものが」

俺の拙いスケッチと説明で探してもらっているので、実物を見るまでは納得しちゃいかんけど。

まぁ、これ異世界転生みたいだし。多分あるだろ。

勇者だって好き放題やる系みたいだし。


こちらの麦はそれなりに品種改良されていた。助かる。

白い小麦粉も既に作られており、貴族の食べ物としては流通している。


「最初の目標はこの白小麦粉を大量に流通させる事」

という俺の宣言に、魔族幹部達は疑問だらけという顔をして、でも一応、命令を聞いてくれた。




「おいおい、なんて事するんだよ」

ゴミ箱にお見舞いのお菓子を突っ込んだ俺に、おじさんは怒るわけでもなく、困った顔で静かに言った。

「皆んな悪気は無いんだし、もったいないだろ」

「何言ってんだよ! 命がかかってるんだぞ!」

叫んだ俺に、おじさんは苦笑いを浮かべるだけだった。


それからおじさんと会う事ができなくなった。

病院で派手に騒いでしまったから、俺がいるとおじさんに迷惑がかかると思ったからだ。

……いや、逃げ出したんだろう。

俺は無力だった。

おじさんを助けられない。


元々たいして仲良くも無かった親類とはさらに疎遠になった。

俺が避けた。


おじさんの葬式に出た時も俺の扱いは雑だった。

見舞いにもほとんど来ないで今更なにをしに来たのか。

そういう風に、親には言われた。

おじさんは俺にかまってくれていた。

恩知らずが。

冷たい。

人としてどうなんだよ。

葬式も終わり方になると酒呑みのクソどもがとうとう俺に説教を始めた。

これが葬式なのか?

酒で悲しみを洗い流す?

狂っている。

「お前らみんな、狂ってる」

小さな声はとなりに居た親戚にはきこえたみたいで、酒も入ってノリノリのこいつは俺をぶん殴った。

何で俺は殴られたんだ。

ぶん殴りたいのはこっちの方だ。

俺はそのまま式場の座敷を飛び出して、それ以来、親とも疎遠になった。


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