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この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

掌編集

諜獣・骸虫駆除、うけたまわる!!

作者: 物語あにま

 諜獣とは――人間の弱みを密かに探り、強請り、たかる下種な害獣である!

 骸虫とは――死してなお、不死身になった害虫が外殻だけで動くゴミ虫である!


 これは、クズをもってゴミクズを制する、駆除人スイーパーたちの近所迷惑な駆除事件簿。



 日曜休日の昼下がり――。

「こんちはァ!」

 何の罪もない一般民家のドアを蹴破るなり、ぴったりと張り付いたコンプレッションウェアとたぼだぼのカーゴパンツを着こなしたオッサンがのたまった。

 ボサボサの茶髪頭からは、一際伸びた二本のアホ毛がミョンミョン跳ねていた。浅黒い色の顔にはクロスした傷痕。そして、中年のニュアンスに似合わぬ引き締まったボディ。


 午後惨事の不法侵入事案である。

 

「きゃー!」

「な、なんだお前は!?」

 団欒の時をぶち壊された一家は、両手に銃をぶら下げる狂人に怯えまくった。


「俺かァ? 俺は駆除人、葛入くずい茶翅ちゃばねだァ! 突然ですが、この家に骸虫が蔓延っている気配がしたので、お邪魔せていただいたァ!」

「骸虫!? まさかウチの下に!?」


 奥さんはフローリングの床から飛び退いて、リビングテーブルの上に退避するが――。


「ハイ、不正解デェス!」

「ひぃ!?」

 茶翅は弾丸のごとく跳躍して天上を突き破った。もちろん、修理代は一家に擦り付けるつもりだ。


 天上裏にいるのか、と骸虫を探して上方を仰いだ一家は、零れ落ちてきた破片にぎょっとした。

「なんかベトベトする!」

「しかもアリがメッチャついてるキモい!」


 悲鳴を上げた一家を差し置き、茶翅は機嫌よさげに口笛を吹いた。


Foooooo(フーーーーーー)! 骸虫・飴塗りアリ、発見!」

「キキ……?」


 瓦屋根を一面べっこう飴でコーティングする五匹のアリ。そのサイズ、驚異の一メートル越え。そんな化け物を前に茶翅はテンションアゲアゲだった。


 透き通ったガラスのような外殻を持つ骸虫・飴塗りアリ。

 家屋の屋根に潜み、太陽光を反射する飴の外殻で擬態する特性を持つ。しかも、口部からべっこう飴を出し、屋根に塗りたくるので、夏は虫が寄ってきて大変なことになる。

 外側からも発見される可能性が低く、非常に質の悪い骸虫だ。


 そして、そんな害虫を駆除するのが――。


「これより駆除に移る! ゴミクズどもは残らず殲滅だ!」

「キキキ!」

「ア~ハァン?」

後ろ足で立ち上がって威嚇する飴塗りアリ。

だが、茶翅は臆すことなく、気前よく二丁のハンドガンをぶっぱなした。


 茶翅の持つ自動拳銃は駆除人用のオーダーメイドで、チタンを存分に使った重量級の一品だ。バレットの弾頭には、特殊な薬品がプラスチック詰めにされている。

 これで不死身の骸虫の外殻を溶かすのだ。


 初撃と次弾のダブルショットは、一匹の飴塗りアリをコロラド撃ち――頭と胸に二発ずつ撃ち込む射撃――で穿った。

 穴の空いた頭部と胸部が溶け、ターゲットはガクッと崩れ落ちた。


「ハァ~♡ これだよ、コレェ。ゴミクズを掃除するのは快感だァ……たまらねェ!」


 狂い笑いながら更なる銃弾をばらまくが、飴塗りアリは散開して攻撃を避けた。


「おいおい、的が散らばるんじゃねえよォ!」

 スプリングでも入ってそうな強靭な脚力で、茶翅は跳んだ。

 翻って天地逆転した茶翅は、さらに上空から薬弾を発射。薬品入りの弾頭は飴塗りアリの頭部を喰らい千切る。


 残すは三匹――。


「キキ!」

「おっと!?」

 だが、次弾を放たせまいと飴塗りアリが集団で襲い掛かる。着地のタイミングを計られ、茶翅は腕と太腿の肉を千切られた。


 着物の下からぶしゅぶしゅと血がこぼれ、茶翅はふらついた。

 なんとなく表情は幸せそうだ。

「オオ……いてえじゃねえか。一張羅が台無しだぜ……」

「ひいいいい!?」

 天上の穴から垂れてきた血を見て、一家の誰かが卒倒したらしい。

 その悲鳴を聞いて飴塗りアリの一匹が下に向かおうとするが……。


「 逃 が さ ん ぞ … … ?」


 みょんっ!とアホ毛が跳ね上がった。

 瞬間、茶翅の体はビクンと仰け反り、ビキビキと筋肉の表面に血管が浮き出る。


 まるで変態していくように。


「教えてやるゴミクズ共」


 浅黒い皮膚は硬質さを帯びていき、筋肉は盛り上がり、背中には翅が生える。足は虫のように折れ曲がり、強靭なバネと化した。


「この世には、ゴミクズを処理するためのクズがいるのさァ」


 茶翅は、駆除人の組織からある昆虫の遺伝子を受け入れていた。

 人類の天敵と言ってもいい存在。

 台所や生ゴミ、どこにでも現れる奴である。

 Gの頭文字を冠するアイツだ。


「ギィッ。どーも、チャバネゴキブリの葛入でーす♡」


 完全に変態を終えた茶翅は、今まさに家に侵入しようとしていた飴塗りアリの背後に移動した。

 音を立てず、瞬間移動がごとく、気配すら気付かせずに。

 二丁のオートマティックハンドガンは腰のホルスターに納め、二振りのコンバットナイフに換装済みである。

 このナイフの刃にも特攻薬が染みており、なぞれば骸虫の外殻を絹豆腐のように裂く。


「喰い散らかしてやる、殻まで残さずなァッ!」


 そこから先は、茶翅の食べ放題祭りと化した。飛んで跳ねては飴塗りアリを喰らい尽した。 

 ギシギシと笑いながら食った、喰らった。

 悪食のゴキブリに恥じない食べっぷりで、骸虫を捕食してしまった。

  

「げぷっ、ふい~食った食った」


 ご満悦の茶翅は、一仕事終えたと言いたげに一家の前に現れた。

 そして謝礼はいらないといってから去ろうと近づいた。


「どーもご協力ありがとう……」

「いやああああああ、来ないで骸虫ーーーー!」


 チャバネゴキブリの変態姿のまま。


「……あああん、骸虫ゥ!?」


 奥さんが指さす方向を振り向く茶翅。

 しかし骸虫の姿は無い。


「あ、俺のことか?」


 このままでは警察を呼ばれるので、現行犯でタイーホされない内にトンズラすべきだ。

 やっちまったぜ、と肩を竦める。


「ではまたのご利用、お待ちしておりまァーす! ま、そっちに用が無くても押し入るけどォ!?」

「出てけーーーーー!」


 駆除人(ゴキブリ)は家を去った。

続編は考えておりません。


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― 新着の感想 ―
[良い点]  とりあえず、ノリと勢いW  \(^ω^*)<ヒャッハー!   [気になる点]  茶翅さんは他にも仲間いるの? [一言]  え~、これどっちが迷惑か判断に困るΣ(>ω<;)
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