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現代社会における禁術魔法~男どもよ、社会的に死ぬがいい~

作者: ウォッチ

「この人痴漢です」


それはこの現代社会における禁術魔法。

厳しくて辛くて苦しい、ファンタジーなんて夢のまた夢のこの現実世界において唯一使える禁じられた呪文である。

使用できる場所は限られているが、その威力は絶大であり詠唱するだけで一人の男性の人生を強制終了させることが出来る。

さらに上手くいけば莫大な経験値(いしゃりょう)を獲得することも可能だ。

使える側からしてみれば使わない手はないだろう。


そして厄介な事にこの呪文は女性なら誰でも使用できる。

ムカつく上司から果ては知らない人まで。

理由はさまざまではあるが、数多くの男性がこの呪文により命を散らしてきた。


━━そして今も、ある一人の男がその尊い命を奪われようとしていた。


「この人痴漢です!」


朝、学生と見られる一人の少女が突然そう詠唱した。


「痴漢……?」「痴漢だってよ」「痴漢とかマジかよ」


瞬間、魔法のフィールド効果により電車内がピリピリとした雰囲気になる。

大衆の目はその男へと向けられた。


「え? 違います!? 俺、痴漢なんて……!」

「嘘つかないで! 今、両手で私のお尻触ったでしょ!」


男の必死の弁解もむなしく少女はそれを聞き入れようとはしない。


「すいません、ちょっとよろしいですか」


すると一人の青年が両者の間に割って入った。

その顔はとても整っており、電車内の少女を含む全ての女性が彼に注目する。

彼は痴漢と呼ばれた男の肩を掴むと笑顔でこう告げた。


「とりあえず一回電車から降りましょ? ね?」


そのあまりの爽やかさに車内の女性は一人残さず股を濡らした。

そんな彼の特殊能力は【正義(ジャスティス)】。

この特殊能力は物事に何でもかんでも首を突っ込みたくなり、自分が正しいと思ったら相手の意見は聞かずに押し通そうとする正に正義(ジャスティス)と呼ばれるにふさわしい能力である。


「そ、そうだ! 早く電車から降りろ!」「この人間のクズ!」「痴漢は死ね!」


その青年に触発されたのだろう。

周りの者が口汚く男を罵り始めた。


多くの人間、特に日本人の大半には特殊能力「集団心理(あかしんごうみんなでわたればこわくない)」が備わっている。


集団心理(あかしんごうみんなでわたればこわくない)】とはその名のとおり、集団となった時に発動する能力である。

みんながすることならば自分も正しいと思い込み、例えば道端で人が倒れていた場合にも見て見ぬふりをすることが可能になる。

そして、よく知らないタレントが二股や不倫をした時等に思いきり叩きまくるのもこれに該当する。

(上記の場合は、さらに第二能力(セカンドスキル)【劣等種の咆哮(ゆうめいじんだからとりあえずたたいとけ)】も発動されているのだが本筋から話が反れるのでこれは割愛する)


「俺は……俺はやってない……!」

「このっ、逃げるな!」


そして罵倒された男は魔法のフィールド効果から逃れようとするもさきほどの青年に取り押さえられてしまう。


「くらえっ! 【正義(ジャスティス)パンチ】!」


正義(ジャスティス)パンチ】

正義のためならば相手を傷つけるのもいとわない特殊能力【正義(ジャスティス)】を持つものだけが使える必殺技である。

本来なら暴行及び傷害の罪に問われるが、正義の味方にはそんなもの関係ないのだ。


「ぐあっ!」


殴られた男は倒れ、そのまま立ち上がらなくなる。


「どうした!? 立てよ!」「まだおねんねにははやいぞ痴漢野郎!」


周囲からの罵声を浴びても立ち上がらない男に青年は尋ねた。


「どうして立ち上がらないんですか?」


それに対し、男は泣きながらこう言った。


「俺、両方の手を骨折していて……だから、立てないんです……」


その瞬間全員の視線が男の腕にいく。

男の言うとおり、彼の両手には聖なる籠手(ギプス)が巻かれていた。

つまり、これでは両手を使い痴漢をすることは不可能である。

最強の呪文をたった一人の男が覆す瞬間であった。


「それじゃあ……痴漢は……」

「だから、さっきからしてないって、言ってるじゃないですかぁ……もうやだぁ……」


もはや車内からはさきほどのピリピリとした雰囲気は消え、ついでに青年も消え、男に対する同情の念で溢れかえっていた。

一人の少女を除いて━━。


「こ、この人がやったのよ! 誰か! 誰かこの人を捕まえてください!」


少女は錯乱し絶叫した。

最初に述べたとおり、この少女が使った魔法は禁術である。

もし仮に発動に失敗した場合、それは自分自身に返ってくるのだ。

そしてそれを恐れた少女が必死に周りの人間に訴えかけていたそんな時。


「お嬢ちゃん、その辺にしときな」


一人の中年の男が突然現れてそう言った。


「な、なによあんた! あんたに関係ないでしょ!」


男はチッチッと指を振ると、一台の携帯電話(アーティファクト)を取り出す。


「こいつを見てくれ」


そして、全員の前で一つの動画を再生した。


『ダメ……そこは……あぁ……いい……気持ちいい……』


「あ、これじゃなかった。えーと、あーこれだ。こいつを見てくれ」


再び男は全員の前で動画を再生する。


そこには少女の後ろ姿が映っていた。

やけに下半身ばかりが映っている。

しばらく動画を見ていると急に少女が叫びだした。


「この人痴漢です!」


━━その時、後ろにいる誰も少女には触れていなかった。


「わかったかいお嬢ちゃん、つまりあんたはこの人に無実の罪をなすりつけようとしたってことだよ」

「……くっ……」


少女はその場に崩れ落ちた。



電車を降りようとした中年の男にギプスを巻いた男が声をかける。


「あのっ! 本当にありがとうございました!」

「気にすんなよ。あんたは無実だったんだからもっと胸を張れ、じゃあな」


そうして中年の男は去っていく。

ギプスの男にはその後ろ姿がまさにヒーローのように見えたのだった。


━━Fin━━


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― 新着の感想 ―
[良い点] 爽快な作品でした。 作品のベクトルが私と同じ方向かも。 [気になる点] 殴った青年と少女はどうなったのでしょうか? 逮捕? [一言] お時間があれば、私の小説も読んでみてください(^^/ …
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