花鳥諷詠 / Reach you
大通りから逸れた路地裏で、煌々と灯る携帯画面をぼんやりと眺めては、
対照的な夜の暗さと比較してみたりして、無為に時間を食い潰して待っていた。
その間に耳に入ってくる情報は雑音ばかりで、
不快な気持ちでどんどん満たされていく。車の排気音、
行き交う人達の足音、キャッチの声、店から流れてくる音楽、酔っぱらいの歌声。
どれもこれも不要で不快なだけの音の集まり。
でも、もう少し経てばこの通りの雑音は鳴りを潜める。
人と人を繋ぐラインが断たれていく毎に自然と閑散として行き、
眠れる街が訪れる時間。
もっとも繊細で、か細くも心地良い綺麗な音が奏でられる時が。
視線をアーケードに移せば、地べたに座りギターケースを開く人が現れ始めた。
これから徐々に増えて行く事だろう。
そんな思いで目を戻すと、白々しい笑顔を見せて話しかけてくる男が
自分の前に突っ立っていた。こいつの目が物語るものは、
自分の都合しか考えてないコレからの出来事が垣間見えてきてたので、
一瞥して携帯に視線を戻す。
両耳を塞ぎたくなるほどの雑音が頭に響いてくる。
不要で汚らわしい、もっとも聞き入れたく無い音。
言葉巧みに言い寄っているのだろうが、心に響く事は無い。
指針は違う方向を向いている。お前が発する音にではない。
無視を貫き通すと自然と音が止んでいて、この場から立ち去っていた狩人。
月には一枚のティッシュを剥がし薄くした様な雲が掛かっていて、
全体が少しだけボヤけ、夜空に溶込んで行くようにも見えて、
携帯では感じ得ることの出来ない、優しい光の温もりを感じた。
淡く、仄かに光り輝く月に笑みを残し、視線を液晶画面の時刻に戻す。
いつも通りなら、もうそろそろ始まる筈だ。
毎週、この時間帯に現れては音を奏でる。
ふらりと一人で現れ、気づくと一人で姿を消していく。
今の私と同じだ。
が…彼が楽器と共に発する音を聴く事により、
彼の内部から奏でられる思いを載せた音に共鳴した後は、
不思議と一人じゃない、そんな気になれる。
発する音と求める音。混ざって溶け込んで一つになる。
サウンドに載せられ届く詞は、普段口にしている言葉以上に
感情を深く抉るほど訴えかける力を備え持っている。
そして、今日も心を揺れ動かされるのだろう。
そして、来週も味わいたくて足を運ぶのだろう。
名前もまだ知らない彼のもとに。




