邂逅
身体中が痛い。肉という肉が崩壊に悲鳴をあげているような引き裂かれる痛み。目は霞み、頭は割れそうに痛い。喉は渇きすぎてひりつき、何かが暴れまわっているかのように吐き気がひどい。体温が限界まで下がっても、もう震える力すら残っていない。
最後に食べ物を食べたのは、最後に飲み物を飲んだのは、最後にまともに眠ったのは、いつのことだったか。木漏れ日の下、春の昼下がり。決して寒いとは言えない気温の森の中。なのに地に伏し体を木の根に預けた少年の体は自分でもわかるほどに冷え切っている。
少年というにも幼すぎる彼の、回らない頭は、ただただ1つのことを叫んでいた。
喰いたい
と。
「人の子ですか」
不意に、透明な低い声が少年の上に落ちた。淡いのにしっかりとした響きを持ったその声は、まるで清水のように少年に染み込み、意識を保たせた。
彼は、限界まで餓え、渇いていた。
「お前に力があるなら拾って差し上げないこともない。餓え、渇き、求めるなら喰らえ。東の魔物の贄となれ。」
だから、その白銀が見えた時、反射的に食いついていた。
甘く、香しい匂いが鼻にぬけ、清らかな水が喉を滑る。
少年がそれをこくん、と飲むと身体中が癒されるのがわかった。もう一度喰いたい、そう思って目を開くと、少年に覆いかぶさるように人影が見えた。
覆いかぶさられるのは、怖い。痛くいことをする前触れだから。
嫌だ
反射的に人影の喉に食らいつこうとして、人影に軽く額を撫でられた。なぜ死にそうだった自分がそこまで急に動けたかを考える暇もなく、少年の意識は闇に飲まれた。
「まさか、本当に力があるとは思いませんでした。」
男を表すのには、冷たい美しさ、その言葉が1番だ。薄い青と紫は男の整いすぎた美貌をより冷たく見せる。実際に男の行動は基本的に冷たいものであった。
やせ細った少年を、冷静に観察する。
こけた頬は雪のように白く、ざんばらで絡まった髪は磨けば光るだろうと予感させるだけの鈍い輝きを持っている。そして一瞬前まで見えていた瞳は、木漏れ日の散る若葉のような金の散る翠玉。これだけ瘦せおとろえていなければ白皙の美少年であっただろうと思わせる、それだけ美しい少年だった。
「言の葉は、取り消せませんからねえ。約束は守りましょう。」
抱き上げかけてその体の異様な冷たさに気づく。
汚れて黒ずんだ服の上にとりあえず自分の上着を着せ掛け、男はそっと山を登り始めた。
その細い体からは予想できないほどに軽々と、頂上に住まう魔物の住処に向かって。