Ⅴ鬼崎 勇次④
――お前は何もしなくていい、何も関わらなくていい、何も知らなくていい
んっ、あ~
「いぃ!」
目を開けたと同時に飛び込んできた顔にとんでもない声が出てしまう。
「よう、勇次。新年度初日に朝から二度寝とはこのご時世でずいぶん平和なことじゃないか」
俺の目の前にいるこのパリッとした短髪にニコニコ笑顔が止まらないみたいな顔をしている奴の名前は、白井 満俺の同居人だ。
こいつとは、中学時代からの友達で俺が周りの生徒から敬遠されている中、こいつだけはなぜか毎度のごとく話しかけてきた。まあ、いわば腐れ縁ってやつだ。
所属学科は記録科で、1年の時から任務をこなしていた優秀な奴で主に敵の顔写真の盗撮、敵情偵察などを得意とし、時には学校側の知らないような裏情報をリークしたりもしてくれるそうだ。
「俺の貴重な睡眠を邪魔してくれやがって全く何の用だよ」
「あー俺はもしかして恋という壁にぶち当たったのかもしれん。うーこれは一人では飛び越えられない誰かに飛び越えるのを手伝ってほしい誰かにこの気持ちについて相談したい。聞いてくれるか勇次」
「先に俺の話を聞かんかい」
「あーまいった本当にまいった」
こいつはだめだ完全に頭に花が咲いてやがる。とてつもなくでっかいラフレシアが。
「わかったわかった聞いてやる」
「見てくれこの写真を」
差し出されたその写真に写っていたのは誰かわからない人物の横顔だった。ひときわ目立つのがやはり最初に飛び込んでくるこのきれいな金髪だろうまるでこの髪事態が光っているんじゃないかと思わせるくらいきれいに輝いているのが写真越しにもわかる。さらに横顔を見ただけでもわかるほどの超がついてもおかしくないくらいの美人だった。金髪碧眼ということで日本人ではないのは間違いない。これだったら満が開花してしまうのも分からなくない。
「こいつはすごいな、ハリウッドスターか何かか?」
「おいおい俺がそんなに遠い存在にうつつを抜かすとでも思っているのかい?遠い存在に手を出すより近い存在に手を出した方がもしかしたら触れるかもしれないだろ」 じゅるり
よだれを袖で拭いているこの男、もう手遅れなのは明らかだ。
そうこいつは性格に難があるのだ。まあ、簡単に言えば変態なのだ。とにかく女の子が大好きで女の子(特に美人)のことならたとえ火の中水の中でも求めに行くそれが満という男だ。普段、週刊バトルフィールドという新聞を発行していてその週にあった出来事や学校からのお知らせ、世界の動きなどが記載されている。これは、非常に便利で生徒のほとんどが定期購読しているほどだ。
さぞ儲かっているに違いない。
しかし、これは表の顔。
実は、この変態様は裏サイトも開設していて、そこには、護国女子に見つかったら一回殺されるくらいでは済まない、地獄までもう一度命を取りに追いかけてくるに違いない盗撮写真やスリーサイズランキング、人気投票など(もちろん有料で会員制である)を取り扱っている。これまた男子の間では大人気で、会員になったからは散る(死ぬ)時はみな同じという謎の言葉もあるくらいだ。
「その女神の名前は、クレア・ルイス。アメリカ人で俺たちと同じ現在高校2年生だ。聞いて轟けこの子が俺たちの学校に留学生として来るらしい。」
「それは、確かに轟いた。にしてもアメリカ人が日本に?そりゃまた珍しい話だな。」
このご時世において大っぴらな留学は珍しい、ないわけではないが行われる際は細心の注意が払われる。特にアメリカ人に対しては、日本には苦々しい思い出があるのだ。九州が占拠されたのはアメリカに非があると考えている人がいまだに多く、当時から現在まで日本とアメリカは表上は同盟を組んで仲がいいアピールをしているが根に持つやつも多く水面下ではいろいろないざこざが起こっているなんてのはよく聞く。
「ほかに情報はないのか」
なんにせよ普通に日本で学ぶためだけに留学したとは考えにくい。あまりに情報が少なすぎるので更なる詳細を満に求める。
「俺も、詳しく調べようと思ったんだけど、この留学生受け入れが決まったのもここ1週間の話みたいで全然資料がないんだ。」
「1週間?それは、だいぶ早急な話だなそりゃ。こりゃ何かあると考えた方がいいかもしれん」
「ああ、何もないわけないぜこの美貌の下にどんな正体をかくしているのか楽しみだな」
みつるが悪い笑みを浮かべている。満の職業病みたいなやつだな、わからないものは追及したくなる。
「好奇心を持つのは、非常に重要なことだがほどほどだぞ。まだ、わからないことが多すぎるあまり深く突っ込みすぎるとなにが顔を出すかわからん」
「そこら辺は、しっかりわきまえているさ仮にもおれたちはプロなんだぜ。この写真はお前にやる。何かわかったら連絡する。もうそろそろ新入生顔見せが終わるから勇次もそろそろ教室に戻った方がいいぜ」
謎の留学生か変なことに巻き込まれないといいんだが。写真は胸ポケットに大切にしまっておく。
――ドタン
ベッド横に立てかけてあった刀が床へと落ちて転がった。
俺は、しばらくそれを見つめて手に取りしっかりと腰に差しなおす。毛布の乱れたベッドをきちんときれいにして救護室を後にする。
暁先生は、どこかに行ったらしくいつの間にか教室からいなくなっていた。