Ⅲ鬼崎 勇次②
東京護国大学付属第三高等学校それが俺の通っている高校の名前だ。四方を海に囲まれ、東京ドーム7つ分はあろうかという広大な敷地を守るようにぐるりと囲まれた6~7メートルはあるだろう壁が見るものを威圧する。陸へ行く連絡通路は2本しかなく、その風貌から入ってみようと考える人はいないだろう。いわゆるこれが海上要塞と言われるやつなのかもしれない。
この付属高校は、ほかにも札幌にある第一高校、仙台にある第二高校、横浜にある第四高校、名古屋にある第五高校、大阪にある第六高校、そして最後に広島にある第七高校というように全国各地にある。そして、護国大学付属という名の通りでこの学校は、中・高・大一貫校である。
こんなに全国に付属の高校があって東京にある大学一つで足りるのかと疑問に持つ人もいるだろうが足りるのである。もちろん、大学はかなり広いし、他の大学に行く人や大学に行かずにそのまま就職の道に進む人もいる。しかし、それだけではない。
この高校の卒業率は九十一・六%そうこの学校では全員が卒業できるわけではない
――毎年何人かの生徒が死ぬのだ
もう、皆さんお気づきになったでしょう。うちの学校は普通ではないのです。(涙ほろり)
もちろん国語や数学・英語・理科・社会・体育などといった一般教養も学ぶが、それらは、1~4限の話。うちの異常な学校生活は昼を過ぎた5~7限から始まるのだ。そこでは、捜索理論や射爆理論、決定理論、交戦理論などの戦闘基礎科目を学ぶことを中心に自分の選択した学科に分かれて授業という名の地獄の訓練を受けるのだ。この学科というのは日本に12学科あって、俺の所属している近接戦闘科(CQB)他にも狙撃科交通科武器製造科整備科情報科通信科鑑識科記録科研究科生産科隠密科といった感じだ。ちなみに、先ほどいつの間にか家に上がりこんでいた霧島春香は、隠密科に所属している。隠密科は潜入作戦といったスパイになるためにありとあらゆることを学ぶ学科であり、その訓練の中には変装術から変声術、ハニートラップ、ロミオ(ハニートラップの逆)、さらには、忍者じみた抜き足など様々なことを学ぶそうだ。だとすると春香は、家の鍵を解除術によって開けたということだろうか・・・
こわっ怖すぎる。っていうかそれじゃ鍵変えても意味ないじゃん!
この学校は護国庁が創立されてから3年後に建てられたもので、創立理由としは、一つに国力を上げるため。二つに脅威から国民を守るため。
そして最後の三つに元日本領土である九州地方を奪還するための兵士育成にある。
要するに、解放軍を殲滅するためのエリートを育成する機関といったところだ。
よって、様々な危険にさらされる護国生は多くの特権が適用される。
その一つに護国生は、武装を許可されている。(ただし護国庁に申請が必要)そして同時に正当防衛に限り殺人を許可されている。
しかし、これは許可されているからといってそうやすやすと人を殺していいわけではない。
ただでさえ、学校では殺人をしたということは、相手を捕らえるほど実力がなかったとみなされてしまうからな。
よって、俺たちは社会や公共の秩序を維持するために国民に対し命令や強制を加える公権力が存在する。
他にも、俺たちは16歳で成人となる。もちろん、飲酒も喫煙も可能だ。だからといって、お酒におぼれる護国生はいない。俺たちがお酒を許されている理由は、偉い人との会食があったりバーやキャバクラといった潜入捜査があるためだ。まあ、他に飲む場面としては戦場に行く際の気つけに飲むぐらいだ。アルコールは、量さえ間違えなければ恐怖心を少しは抑えてくれるからな。
あとは、学費が免除になったり、優秀な学生には少なくない額の奨学金がもらえるらしい。万年成績びりの俺には全く関係のない話であるが。
まあ、要するにだこの裏道の向かいにある通学路を歩いている俺と同じ制服を着た奴らはそれぞれご自慢の殺人兵器を持っているわけでありまして
もちろん俺も持ってはいるのだが・・・
チラッと腰にある刀を見て
「はぁ~」
ついついため息がでてしまう。こいつにはほとほと世話を焼かされているというか何もさせてくれないというか何もできないというか人は見かけによらないなんてことはよくいったもんだが、これは本当に見かけだけ、10人中10人がこの刀を見れば名刀と答えるだろう男心をくすぐる黒を基調としたフォルムに何か禍々しさを感じさせるその雰囲気に見るものはおののきそして注目する。
しかし、問題は・・・
「ふんっっ・・・・っはぁ」
まったく抜けない。全くびくともしない。全く役に立たない。
あー三拍子揃っちまった。試合終了
そう、こいつは使い物にならないのだ。俺が非力なだけかもしれないのでクラスのみんなにも抜いてもらおうとしたのだが結局誰にも抜けなかった。
ただでさえ、日本刀なんてそんな時代錯誤なものを腰にぶら下げているというだけで悪目立ちするというのにそのうえ使い物にならないときた。
「あ、一回だけ抜いたことがあったけ」
まあ、覚えてないんだけど
え?じゃあなんで腰につけてるのかって?
もちろん何回もこいつを外してほかの武器に変えようとしたさ、でも、出来なかった。
それは、ちょうど小学校2年生の時俺はついに親の目を盗んでやってやった。使えない武器、誰も持っていない刀をもっていて学校のやつらにいじめられるのにそろそろ限界をかんじていた俺は、絶対である家のしきたりを破って刀を置きそのまま何も持たずに登校したんだ。
そしたら、そしたら
次の日、風邪を引いた。
そして、別の日あれは本当にたまたま刀を家に忘れて公園に遊びに行ってしまった時のこと。
次の日、腹痛により3時間も冷や汗をかくこととなった。
一番ひどかったのがちょうど俺が中学生になりたてのころ当時の俺は、周りのみんが持っている拳銃に非常に強い憧れを持っていた。そこで俺は、学校にある射撃訓練場で学校支給の拳銃を借りて人生初めての射撃を行った。なかなかの衝撃に程よい緊張感と清々しい気持ちを味わったのをよそに体の不調はその日におこった。人生で味わったことのないほどの頭痛に見舞われ、すぐに病院へ行ったが原因は不明。
そしてその後も武器を忘れよう替えようものならその次に日はなにかしらの体の不調が起こっていた。
さすがの俺もおかしいと思い当時から親父のことを毛嫌いしていた俺は唯一心を許していたおじいちゃんに相談した。
おじいちゃんはゆっくりと諭すように教えてくれた。
「お前とその刀はお前が生まれた時からつながる絶対の関係。
そうやすやすと切れるものではない。鬼崎家の血を持つものは常に刀とある。お前がその刀に選ばれた時から生涯守られ守っていかねばならぬ。それはただの武器ではない。おぬしと同様心があるのじゃ。それなのに生涯の相棒を放っておいてはだめじゃの。ましてやほかの武器に浮気はあかんの浮気は。
勇次よこれはだけは忘れるな、その刀は生きておる二人で一人なのじゃ。」
当時、まだ中学生になったばかりでおじいちゃんが何を言っているかわからずきょとんとしていると
「ふむ、おぬしにはまだ早かったかの。まあ、いずれわかるようになる。さきほどの話しゆめゆめ忘れるでないぞ。」
おじいちゃんとの記憶は唯一俺の中にある楽しい記憶だ忘れるわけがない。
それからは肌身離さずこの刀とともに日常を歩んできた。
ふと、窓ガラスに映る自分の顔を見る。
ひどい顔だいろんなところが跳ねている髪に覇気がない顔。そして腐った目。
そんな目は、日本人には珍しい赤色をしている。
「はぁ」
今日何度目かわからないため息をつく
その赤目が自分は、鬼の一族の血がしっかりと流れているという現実を突きつけられる。
鬼の一族・・・おーこわいこわい
っというか朝家で見る鏡だとイケメンに見えてたのに、ふとこうしてみる自分の顔ってなんでこんなに靴の裏みたいな顔してんの。なんで、朝と同じように見えないの?家の鏡は俺の顔に気ををつかってくれてるの?そんな風にふと思いました。
ぶつぶつ文句を垂れていると、ついに俺の愛しのMy Roadも終わりとなって大通りへと差しかかった。
出たところから見える我が学び舎は、もう朝日と相まっていっそ神々しいまであった。