Ⅱ鬼崎 勇次
ピピピッピピピッピピピッピッ
――もそり
布団から少し顔を出して外が朝を告げていることに舌打ちをする。このまま何も考えず二度寝をすることに頭の中の小さな鬼崎勇次たちは、満場一致の賛成を示したことに本能のまま従おうと決めた俺がもう一度家の中(布団の中)に帰ろうとしたその時。
――コンコン
「勇次様、失礼します。そろそろお目覚めにならないと学校に遅刻してしまいます。」
・・・うーん、まずいな年齢=彼女いない歴の俺は、ついに寂しさのあまり女の子に朝を起こしてくれるなんて幸せなシチュエーションを夢に見てしまうようになってしまったか・・・・
「馬鹿なことを言ってないで、早く起きてください。2年生にもなって初日から学校に遅刻なんてことになったらまた、教官に怒られますよ。」
・・・どうやら、声に出ていたようだ。
脳が徐々に覚醒していく中で俺は先ほどの言葉の間違いを訂正する。教官に怒られるなん程度で済むなんて絶対ありえない。たぶん新薬の実験に無理やり付き合わされるかもしくは、新しい拷問器具の実験台にされるだろう。または、その両方かもしれない。考えたら恐ろしくなってきたのでしぶしぶ、鉛のような重い体を起こす。
「それで、なんで春香は俺の部屋にいるわけ?」
「朝ごはんはできております。早く着替えてお食べ下さい。」
「人の話を無視するな」
「・・・いつでもご主人様のおそばにいる。それが霧島家に生まれた私の使命ですので。」
春香は至極当然のような顔で言ってくる。
「・・・・・・・別に俺なんかに就かなくたっていいって俺も本家も何回も言ってるんだけどな。」
俺は、憎き鬼崎家のしきたりに触れてきた春香に恨みがましく文句を垂れながら家の鍵を今すぐ変えようと頭の片隅に記憶しておく。
「それでは、なるべく早くお願いします。」
――パタン
再び一人になった部屋で俺はもう一度布団の中にダイブしてもよかったがお節介さんにまたねちねち言われるのも癪なのでやめておく。
椅子の背もたれに乱雑におかれている制服を手に取り、二段ベッドの横に立てかけている刀を腰に差す。
「ふう、地獄に行く準備は完了だな。」
――ガチャリ
ドアを開けた途端に淹れたてのコーヒーの香りが鼻をくすぐる。机の上には、さきほど言っていた通りモーニングセットがおいしそうに湯気を立てていた。グッモーニング
「勇次様、申し訳ありませんが今日は一息先に学校に行ってもよろしいでしょうか。今日の新入生顔見せで在校生を代表として一言のべなくてはいけなくなりましてそれのリハーサルに行かなければならないのです。」
一人でダラダラ登校したかった俺は
「もちろんいいぞ、全く優秀なのも大変だなー」
と眠気と闘いながら春香を笑顔で送り出す。
「ありがとうございます。それでは、くれぐれも遅刻しないように。」
――バタン
「ふー」
コーヒーをすすりながらテレビをつける
「「昨夜、起きた爆発テロについてくわしくお伝えします。・・・・犯人の数名は逮捕されましたが残りはいまだ逃走を続けているとのことです。これに対し警視庁と護国庁はただ今全力でテロ犯を捜索中との発表をしています。・・」」
「ここ最近やけに多いな」
なかなか、物騒な事件だが今の時代このようなテロ事件についてのニュースは残念なことに珍しいことではないのでもう慣れた。捜索の協力なんていうお偉いさんからの指令がないことを祈るばかりである。
そういえば、俺の同居人がいないようだが今朝早くにどこかに出かけたのだろうか。まあ、あいつは性格には難があるが能力的には優秀なので何かの任務に呼ばれて朝早くに出かけたのかもしれない。いや、違う。新一年生のかわいい女の子のお尻を追い求めに行ったに違いない。そうに違いない。後で今回の実り具合を聞かなければ。
「プ・プ・プ・プーン8時ちょうどをお知らせいたします。」
「やべ、遅刻する」
俺は、コーヒーを一気に飲み干し残りのトーストとベーコンエッグを口に詰め込み鞄をひっつかんで急いで家を出る。
学校に決められた通学路を登校する気はとある理由で毛頭ない。俺はいつもの人通りの少ない薄暗い裏道を使って学校に行くことにする。
新しい学年とクラス新しい生活に対しての期待は家に置いて今日も俺は登校する。