Ⅺクレア・ルイス①
「部屋獲りとは今後我々の拠点となる学屋を決める二年生になって最初に訪れる非常に重要な大規模行事です。2週間後に行われるそれは、班対抗でより実戦に模したルールで行われます。
ルールは非常にシンプルな殲滅戦です。どちらかのチームが戦闘不能になったら試合終了です。会場及び対戦相手は五日前までに班長に通達がきます。」
「ん?それだけ?」
「まあ、簡単に言えばそれだけだ。しかし、勇次お前はこのイベントがどれだけ重要か分かっちゃいない。これは俺たちの今後活動するうえで必要な拠点を決めるイベントなんだ。拠点というのは、すべてにおいて軸になる場所で、それを軸に様々な人・モノ・コトと付き合って行くといっても過言ではない。今後は決められた学屋で作戦会議や工作、通信、情報収集、補給、修理などを行っていくんだ。護国生がこのイベントに全力を出す最大の原因はな、この学屋がみんな同じじゃないからだ。それはもう全然違う一番上の学屋には最新のパソコン、エアコン、冷蔵庫、テレビの完備はもちろん作戦会議に必要なプロジェクターからホワイトボード。さらには、なぜ必要なのかは皆目わからないがこたつやサンドバックもある。素晴らしきかなこの部屋だ。もし、この学屋になった暁には、俺は、自分が住んでいるあのぼろいアパートを出ていくまである。いや絶対出ていく。それに対して、一番ランクの下の部屋はというと日当たりは悪いし、壁の装飾は剥がれ入り口のドアは樺もしくはアカガシワ製べニアとガラス繊維積層背加工の施された防弾扉ではなくただのうっすい木製扉だ。唯一の設備は電気が通ってるってだけだ。想像できるか?一部では牢屋なんていわれてるんだぞ」
「そんなの、死ねって言っているようなもんじゃないか」
「そうだ」
そうだって・・・満からの補足で俺たちがもう詰んでいる状況であるということを認識させられる。
「なんてこった、そんなに重要だったのか」
「今さらかよ」
「それはまずい、実にまずい。何がまずいって俺の昼寝場所が粗末になるのがまずい」
「そこかよ!」
「ほーう、作戦会議かえらいぞーがんばれよー気無し班」
いつのまにか扉からちょこんと顔を覗かせていた暁先生がアルコールがよほど回ってきているのか顔を赤くしてそんなことを言ってくる。
ちなみにいうと、気無し班とは、俺たちの班の別称みたいなもので、班員は、何かしらの能力に秀でている有能な生徒なのに(一人を除いて)
誰一人としてやる気がないから(一人を除いて)
やる気の無い班→気無し班ということらしい。
有能じゃない生徒はもちろん俺。そして、やる気のある唯一のやつは春香だ。
しかし、俺と一緒にいるせいで気無し班の一員として烙印を押されてしまっている。
マジで俺のつかえなさ加減半端ない・・・・
「ちなみに、この行事で決まったランクによって与えられるもしくは依頼される任務の難易度は変わってくるからな。牢屋になんかになったら飼い犬探しくらいしか任務はないと思えカカカカ」
「姉さんキャラがぶれてますなんですかその気味の悪い笑い方は」
「まあ、だからと言って上に行くほど難易度が高くなるから死ぬ確率も高いけどな~」
「・・・・・」
しかし、その話は当たり前といえば当たり前だろう。今回の結果で将来が決まると言ってもいいかもしれない。
建物1つで自分の力を現しているんだ。誰も腕の悪い奴なんかに任務を任せないだろう。
「お前ら、作戦会議もいいが明日の宿直当番忘れるな」
「げ!そうだった」
護国高校はその運営をほとんど生徒に任せている。それは警備も同じ話で毎晩担当班は、泊まり込みで警備に当たらなくてはならないのだ。うちの高校には見せられないものがたくさんあるからな。
「今、下に貴重なものが収監されているからしっかり頼むな。
あ、これ言っちゃいけないやつだった」
おいー!なに口滑らせちゃってんの?
俺たちに何を期待してるの何をさせたいの?助けてくださーい。
「それって、今朝のテロリスト逃亡犯ですか?」
昌輝がここで余計なことゆーう!
「お、なかなか感が鋭いななぜ分かった?」
「いえ、今朝のニュースの場所がここから程遠くなかったことと、クラスで西村先生が妙に急いでいたので」
「なるほど、よく見ている」
にやりと笑ってうれしくもない賞賛を送る。
「バレては仕方がない。そうだ、さらにその中の一人がテロリストグループの幹部ということが判明している。今朝うちの生徒が確保したんだが、そのままうちの預かりとなった。奴らからグループの居場所を聞き出してそのまま強襲にはいるらしい。」
「あーーーー俺は何も聞こえない~」
耳を塞ぎながら俺は最後の抵抗を試みる。
「もう、無駄だよ勇次君」
「うるせー変なこと知っちまったせいで明日おちおち眠ることも出来なくなったじゃねぇか」
「教師の前で堂々とさぼる宣言するなんてなかなか男前じゃないかゆ~じ?」
「ひぃ、すみません」
鋭く光るその目に反射的に謝ってしまうその姿は、班長としての威厳はもはやない。
「調子のいいやつめ」
「でもさ、その人幹部なんだろそう簡単には口を割らないだろ」
知ってしまったからにはしょうがないしぶしぶ俺も話に乗ることにした。
「いや、鏡花の尋問はピカイチだ。長くても明後日ごろにはベラベラ喋りだす。」
へーベラベラ喋りだしちゃうんだ。なにそれ怖すぎ。
ちなみに、鏡花とは西村先生のことで姉さんと西村先生は昔の戦友らしい。
「おっと、喋りすぎた。おーいひげじいもう一本開けてくれー!」
「先生、もうそろそろやめといた方がいいんじゃないですか?」
「うるさーい!まだまだよ」
ひげじいと姉さんのこの流れを何回見たことか・・・・。ちなみに俺たちは何も言わない、止めても無駄なことは分かっているからな。
しかし、まったくなんてこと暴露してくれるんだ。
でも、これは可愛い生徒への心配による親切な警告ととっておこう知っているのと知らないのでは全然違うからな。
「しかし、勇次よお前本当にどうするんだ?」
「何がだよ」
満には似合わない深刻な顔による質問に俺も少し身構える。
「このまま、親の決めつけとやらで縛られた生活を送り続けるのかって言ってんだ。
「・・・・・」
「悪いがこれだけは言っておく、この行事の結果次第では他の班に移るかもしれねぇ、上の学屋に行くほど任務の報酬は高いし、補助金も多く出る。俺たちはチームであるが、仕事仲間であることも忘れるな。自分の能力は自分が一番知っている。それをフルに使える環境がここにはある。そして、俺の能力が発揮できない。もしくは、1つでも不満がある場合はその排除を俺は迷わない。この世界での迷いは危険だからな。俺は自分が思う最善の選択をする」
「・・・・・」
みんな何も言わないということはそれがこの班の総意なのだろう。
「わかった、これまでついてきてくれただけでも感謝している。おれは満の考えも理解できる。俺たちの選択は自分の命に直結している常に自分が正しいと思うことをしてくれ。
いつかはこんな時が来ることは分かっていた。部屋獲りの後の班移動は可能なのは知っている。
実際にチームとして戦って分かることもあるからな。
「さあ、そろそろ夜も遅くなってきたしお開きにしよう」
昌輝がこのピリッときた雰囲気に終止符を打つ。
「そうだな、明日は宿直担当ということを各自忘れないでくれ」
おのおの自分の帰路につきおれと春香も少し肌寒い春の夜に足を踏み出す。
春香は俺に考える時間をくれてるのか一歩斜め後ろから黙ってついて来る
春香は俺のことをどう思っているだろうか
ついには仲間にですらも愛想を尽かされたこの背中をみて・・・・
「ここまででいい」
男子寮と女子寮の分かれ道にさしかかり春香に別れを告げる。
マンションの下まで見送ると言われたが、今回は遠慮してもらった。
女子寮に向かう春香の背中を見送り、俺も男子寮に足を運ぶ。
ポケットに手を入れトボトボと歩いているとふと前にいる人が気になった
気になったというか不審に思った。
気付いたのは、本当の偶然
このご時世において、夜12時以降の外出は専門職を除いて厳禁である。
ただ今の時刻は夜の10時を過ぎたところだ。
12時を過ぎてないとはいえ、こんな街灯も人通りも少ないところ1人でいる時間ではない。
俺は、電柱の裏に静かに身を潜める。
声をかけようか迷ったが、様子を見ることにした。こんなところに立ち止まっているからにはなにか目的があるに違いない。俺には、それがなんなのか気になったのだ。
静かな時間が流れる。暗くてここからだと顔も分からなければ性別の判断も難しい。
独特の緊張感に包まれながら。相手の立ち姿や雰囲気に慣れた親しんだ何かを感じる。
面持ちが俺の学校の奴らが纏ってる感じに似ているような・・・
俺たちの住む世界は違和感だらけだ。それに慣れてる俺はむしろ一般の世界の方が違和感を感じる。
ってことは、この違和感がないという状況はおかしい。
うーん、そっちの人かな
なんだか、きな臭くなってきたこの状況に、俺は春香に連絡をしようと携帯を取り出すが
先ほどの、満との会話を思い出し、また、仲間に頼ろうとしている自分に心の中で舌打ちをして携帯をポケットにしまう。
これぐらいの対処は1人で出来る。
実戦経験はないものの厳しい環境で育ってきたのは間違いない。そう自分に言い聞かせ、再び相手を見据える。
あれから5分ほどたったものの相手はほとんど動かない。
そろそろこの状況に終止符を打たなければならない。そう思った矢先に静寂を破る者がやってきた。
奥からやってきたのは声からして男だろうか、陽気に話すその3人組は足取りがおぼつかないようで、ふらふらしている。街灯の光に晒されるその顔は赤い。おそらく20代前半と思われるそいつらはだいぶ出来上がっているようだ。都心からもそこそこ近いこの場所はそういった輩も結構いる。
「それでよぉ、一発殴っただけで大泣きしてよぉ、お金あげるから許してくれって土下座するもんだからしょーがなく受け取ってやったわけよ」
「ワハハ、たくさんそれはすげぇ」
「だろー」
うぅ、この3人絶対あたまが悪い。
聞いてるだけで頭痛が痛いよ。
「たくさんこの後どうします?」
「ん?おい、見てみろよ」
「どうしたんですか?」
「そこにいるやつ顔見せな」
「ヒュー」
「おゎ」
「すげぇ」
「なっ」
ちなみに最後のは俺
なぜ俺まで驚いてしまったかというと、予想とは大きくかけ離れていたから・・・・
ここにきて登場人物の予想をはるかに超えた。
そこにはいた天使が・・・
街灯の下に出た、今まで監視していた相手の意外すぎるその様に俺すらも驚いてしまったのだ。
最初は、てっきり天使かと思った。
上からの街灯の光が後光となって、より一層輝いて見せていた。
きれいだ。それしか言葉が見つからなかった。
それ自体光っているのではないかと思わせるほどの輝きを見せる金の髪、そして、その目は、きれいな海を思わせるほどの透き通った青だった。
「へへ 嬢ちゃん。こんなところで何してんの?」
「ジャパニーズ アンダースタンド?」
「今すぐここを去りなさい」
直接心に響いてくるそんな声だった。
「おいおーい、強気だな嬢ちゃん。嫌いじゃないぜぇ
しかし、そりゃないぜ。まだ、夜は長いぜぇどこかで遊ぼうよぉ〜」
あまりにも見え透いた下心に俺もさすがに現実へと引き戻され呆れてしまう。調子に乗りすぎだ。
しかし、まずいな。行くしかあるまい
「おい!」
しばらく見呆けていたかったがそうもいかないだろう。
「ちょっと落ち着いてみたらどうだ?」
「誰だてめぇ」
そう言いながら両手を胸の高さまでもってくる。ファイティングポーズだ。
おいおいもう臨戦態勢か?隙がありすぎるけど。全くチンピラは手が早い
「俺はそこの生徒だよ」
「ひっ」
素っ頓狂な声をあげ取り巻き1号は一歩下がる。
「たくさんやばいですよ。
そいつの学校の連中には手を出しちゃいけないって有名な話ですよ。頭のおかしい化け物みたいな連中しかいないって聞いたことがあります」
化け物はあってるけど頭のおかしいは余計じゃないか?取り巻き1号さんよ
うちの学校は有名だ悪い意味で名前を出すだけで大抵の相手は警戒をする。
「ひいた方がいいんじゃないんすか?たくさん」
取り巻き2号の状況判断は素晴らしい、涙が出そうだね
護国高で落ちこぼれの俺とはいえ一般人3人に負けはしない・・・はず。
ここは様子をみて強気でいかねばな
「それでは、お三方このまま真っ直ぐ直進していただきまして左折し、しばらく道なりに歩いて10分ほど猫背というお店に行ってらっしゃい。そこに入ると白い顎髭のあるおじいちゃんが笑顔でお迎えてくれやす。
そして、カウンターを見てみなさい見目麗しい女性がなんと酔い潰れてやいやせんか。
その人を看護してあげて下さいすんごい事がある事間違いなし」
手をすりすりしながらまるでベテラン商売人のような話し方での攻撃を試みる。暴力反対なだけだからね!負けるかもしれないから逃げてるわけじゃないからね!
「すんごいことだと・・・」
ゴクリ
「お前ら行くぞ!」
酔っているためか唐突なそんな言葉にも一切の警戒を持たずに重要なところだけを脳が吸収したようだ。
「じゃーねーお体に気をつけて」
ちょろすぎわろた。本当酔ってる人は欲に素直だから扱いやすい。
アルコールの偉大さに敬礼をしつつこの場を収めることに成功した。
何も嘘を言ってるわけじゃない姉さんは10人中10人が認める美人だし酔っているのも確かだ。
辺な所を触ろうものならすんごい事をかましてくれるに違いない。最低でも三ヶ所は穴があくんじゃないかな。あんだけピヤスで穴があいてるんだから今さら3つぐらい増えた所で変わらないだろ。ヒゲじいには申し訳ない事をしたがあれでもあそこで店を開いて長いし日頃から俺たちを相手にしてるんだ。上手く対応するに違いない。
あいつらが去って問題は・・・
「ふぅなんとかなったな」
「助けたつもり?」
「あぁ、あいつらをな。なんちゅう鋭い殺気を放つんだ。俺が止めなかったら何するつもりだった?」
「へぇ、分かるんだ。あんたもこっち側なのね」
「まあ、普通の授業は受けてない」
「それで、こんな所でなにしてるんだ?」
「あんたに教える必要ある?」
人と話す時は相手の顔を見ることは教わらなかったらしいそっぽを向いたまま空返事をしてくる。うむ・・・
こいつ!顔だけだ!!
「さっきも言ったが俺はそこの生徒だ。夜に1人でいる女性をみかけて素通りはできない」
しかし、俺はジェントルマン。ここは冷静にきめていく。別に可愛いから格好つけてるわけじゃない。
「はあ、人を待ってるの」
どうやら、このやさしさが分からないらしいなマイナス10点
「ほう、しかしなんだ夜も遅いし今日は諦めて帰ったらどうだ?」
「余計なお世話」
このあま、人が心配してやってるのに
もう知らんほっとく。こいつが堅気じゃないのは分かったし大丈夫だろ
「そうかいそうかい、ほんじゃ会えるといいな。」
かちゃ
それは俺が歩き始めた時にでた、腰に差してる刀の音。
ぶん
先ほどの気だるげな感じはどこにいったのだろうか急にこちらに振り向いたと思ったら腰にぶら下げてある刀を凝視して動きを止めた。
「見つけた」
そんなことを言っただろうかあまりにも小さくつぶやくためによく聞こえなかった。