Ⅹ鬼崎 勇次⑨
――カラン
ひげじいが運んでくれたお冷の氷が解けて音を立てる。
き、きまずい。この空間に二人きりは非常にきまずい。家では、二人でいることもあるけどそこでは感じさせない気まずさがここにはある。何か話さなければこの童貞16歳非常に緊張しております!
ちらりと隣にいる春香の様子を見る。
おっと、目を閉じてお休みになられているみたいですね。よかったー静かにする言い訳がここにはあった。
しかし、春香はやはりかなりの美人だと思うのですが、どうでしょうか?
きめ細やかな肌質に長いまつげ、すらっとした小さな鼻に薄ピンク色の唇がきゅっと結ばれている。モデルもヒールで逃げ出す細い顎。そして制服からのぞく真っ白なうなじときたら・・
あ、あぶないやられる!
あぶねー日ごろから春香と一緒にいるから斜め上方にそらすことが出来たけど。これが満あたりだったら今頃 殺られてたんじゃないだろうか。
しっかし、男子たるもの見ちゃうよねー☆
――ぱち
「あ、いや申し訳ないです」
急に目を開けるものだから。日ごろから教官に謝り続けているおれは反射的に誤ってしまう。
やだわ!この年齢から社畜精神を身に着けているなんて。
――ガララ
来客を知らせる扉の音に俺は春香を再び見る。
なにこの子誰か来ることを店に入る前から察知して目を覚ましたの?
どれだけ鋭敏な感覚しているの?そんな中へんなことを考えていてごめんなさい!
しかし、もう少し気を緩めてもいいと思うのだが、これでは春香が余計に疲れてしまう。
―――スー
「やあ、勇次君遅れて申し訳ないね」
個室の障子を開けるとともに顔を見せたのは昌輝だった。
「相変わらずきみたちは仲がいいんだね」
俺と春香が隣同士に座っているのをちらりと見てお門違いのことを言ってくる。
昌輝も学校が終わってそのまま来たのだろう、制服の姿で俺の正面に座った。
「ちゃんと、連絡してきたんだろうな」
「後でするよ」
こいつ、満からも家に連絡するように言われているはずだが。
「全く、俺たちにも迷惑がかかるんだが?」
「そうならないように善処するよ」
「そう思っているなら、今してくれ頼む」
なんでここまで昌輝に対する連絡の強要をするかというと、それはごく単純親が心配性すぎるからだ。親が子に対して心配するのは当たり前の話。しかし、豊田家の親の心配性ぶりには度が成層圏を突き抜けてるところがある。あれは、1年生の時のこと。おのおの忙しい中での久しぶりの集合にテンションが普段よりも上がっていた俺たちは。気付いたら夜がかなり深くなっていることに気づくのが遅れてしまった。
どうも、外が騒がしいなと思った瞬間にいきなり窓ガラスを突き破って現れたのは完全武装をした特殊部隊だった。
あの突入の鮮やかさはすごかった。手も足も出なかった俺は秘技「死んだふり」を炸裂させたくらいだからな。
後にそれは、昌輝の親が昌輝の帰りの遅さと音信不通(せいぜい5時間)に心配し緊急出動させた捜索部隊であることが分かった。
だからってAround1に強行突入するんじゃないよ
その後俺たちといえば護国高校名物の人間50を超える急所の中で特に危ない8か所を攻められる八所攻め(やところぜめ)をくらい、さらには、俺たちの数少ない遊び場Around1は出禁になってしまった。
そこで俺と満は誓ったのだ
―――昌輝と遊ぶときは家に一報いれさせると
それは必死になりますよ。だって、次絶対死ぬもん。
しかし、そこで問題が一つ昌輝はそんな両親のいうことを中途半端にしか聞かないということである。
逆らうわけでもない。だからと言って従うわけでもない。よく分からない。
よって、はらはらさせられるのはいつも周りの人である。
―――サー
「うぃーす」
昌輝の次に現れたのは、疲れ切った顔をした満だった。
「おいっす。なんでそんなに疲れてんだお前」
「今までバイトだったんだよ。全く平日の昼間だってのにあんなに混みやがって」
なに、こいつどんだけ働けばいいの?
バイトをしているのは知っていた。そして、掛け持ちをしていることも。しかし、そこまでして働く必要があるだろうか。特にこいつはサイトの運営でそれなりの収入があることは間違いない。そんなに稼いで何か買いたいものがあるんだろうか。聞きたいけどなんか聞いたやばそうなんだよな。まあ、実も話したくないような雰囲気出してるし、第一好奇心は猫を殺す。
護国生が気を付けなければならい感情5つの中の1つだしな。まだ、死にたくないし聞くのはやめとこ。
「お、待たせて悪いな。どうやら俺が最後のようだな」
「最後?桃花はどうした」
「あぁ、三条は久しぶりに光を浴びたせいで疲れたんだと」
「光を浴びたらってなんだよ!あいつも相変わらずだなぁ」
全く新年度初の集合だってのに全員集まらないなんてこのチームのダメさが顕著に表れている。
「よし!じゃあ、乾杯をしよう。みんな飲み物は持ったか?(ソフトドリンク)
それでは、乾杯‼」
「「かんぱーい」」
俺の乾杯の音頭に各々グラスを持ち上げる。乾杯が終わるとすかさず春香がひげじいに適当に注文をし、俺たちの飲み会は始まった。
「しかし、桃花を入れて5人か、去年はこの人数でもなんとかなったが、二学年からはそうはいかないぞ特に二学年は本格的に班単位での実践訓練も始まる。かわいい子を含めて二人ほど欲しいな。どうするんだ戦わない隊長さんよ」
実が相変わらずの変態っぷりを発揮しつついきなり痛い所をついてくる。
「それもそうだけどとりあえずは二週間後の部屋獲りを考えないといけないよね。どうするの?戦わせてくれない隊長さん」
横からの昌輝の追撃と俺のつかえなさを揶揄している二人に(班員には俺の実家のことは話してある)さすがに分が悪くなってくる。
これは完全に俺の落ち度であるのでこの二人を張り倒したいこの気持ちを我慢しなければならない。
「お前らが言いたいことは十分にわかっている。しかし、一つ問題がある・・・
部屋獲りってなんだっけ?」
満は椅子からずり落ち。昌輝はいつも通り笑っているものの額には汗をかき。春香は頭痛がするようで眉間に手をあてている。それぞれ三者三様の反応を楽しみつつ俺は春香に顔を向ける。
春香は、ため息をつき俺の望み通り部屋獲りについての説明を始めた。