表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/17

深夜の団欒

カチャリ、と自分の部屋のドアを静かに開け、少女の体をゆっくりとベッドに横たえる。


「さて……。」


クローゼットからタオルを取り出し、再びベッドへと向かう。

流石に異性の体にあまり触れていてはいけないと思うが、濡れた体をそのままにしておくわけにもいかない。


(ちょっと……失礼しますね……。)


改めて少女の姿を眺めつつ、少女の体を軽く拭く。

それでも少女の、その……、柔らかい身体の感触が伝わってきて、僕は頬が熱くなるの感じた。

自分は今、これでもかと言うくらい顔を赤くしている事だろう。


一通り拭き終わった後、わざとらしく小さく咳をして少女から視線を逸らす。

(朝まで待って……後は母さんに任せた方が良さそうですね)

少女に毛布を掛けて、すっと、膝を立たせようとした時。


「え……?」


はしっと、僕の服の裾を少女の手が掴んだ。そしてそのまま勢いよく引っ張られる。


「だっ! わっ!」


慌てて近くにあった椅子を掴むが、そんなもので支えきれるわけも無く。

ガタンと、少し大きな音を立てて、椅子は力の加えられた方向に向かって簡単に倒れた。

僅かな支えも失い、僕の体は引き寄せられるように少女の上へと覆い被さる。


「!!」


すぐ目の前に少女の顔があった。いつの間にか開かれていた少女の目と合う。


「…………。」


「…………。」


少女の前髪が、息が、顔に僅かに触れ、思わず息を飲み込む。


「あ、あの――……」


ようやっとの事で声を絞り出したその時。


「エリクオール、起きてるの~?」


少し間延びした声と共に部屋のドアが開かれ、フェルトが姿を現した。



「うぇ!?」


「さっきの音なに~?」


フェルトは大欠伸をしながら部屋にずかずかと入ってきて――


「え……?」


ピタリと動きを止めて、目を見開いた。その視線は完全こちらを捕らえている。


「えっと……フェルト?」


「…………。」


「これはですね――」


「…………。」


目の前の少女とフェルトを何度か交互に振り返った。

フェルトは依然として固まったままだ。


「色々と訳がありまして――」


「…………。」


「えっと、まずは事の発端から話ましょうか…。」


「…………。」


「深夜──僕が外を眺めていたらなんとなく、いや、これは本当になんとなくなんですが、湖が気になりましたのでちょっと様子を見に行ったら、彼女がいて、突然倒れてしまったのでなんとかしなくちゃと思い、夜も遅いですし家に連れて来て僕のベッドに寝かせたんです。それで、体が濡れていたので簡単に拭いて、朝になったら母さんに診て貰おうかと思ったんですが、突然意識を取り戻したようでして――」


「…………。」


「あの……わかりましたか、フェルト?」


「…………え。」


「はい……?」


「エリクオールが女の子を連れ込んで来たぁぁぁああああああああっっっ!!!」


「だぁああああ! だから誤解ですってば!!」


「ってか、押し倒してるぅうううううっっ!!!」


「わぁあああっっっ! 変な事大声で言わないで下さいっ!」


「ちょっと……二人ともこんな遅くに何を騒いでいるの? ご近所様のご迷惑よ。」


と、そこへ騒ぎに気付いた母さんまでもがやって来てしまった。母さんはまず部屋に入って直ぐのところに居たフェルトを見て、その後フェルトの視線の先を辿るように正面に向き直った。


「…………。」


「あ、あの……母さん? これはですね……。」


「…………。」


母さんは一旦こちらから視線を外すと、部屋をきょろきょろと見回して再びこちらに向き直った。僕と少女を見つめ、何か納得したかのように手をぽん、と打って大きく頷き――


「ふぅぅぅ~……。」


「わっ! お母さんっ!?」


「母さんっ!?」


母さんは顔を真っ赤にしてその場に倒れた。


「…………。」


少女は一人何事かと、倒れた母さんと僕の顔を交互に見比べて小首を傾げた。


***


「大体の事情はわかったわ……。」


そう言って母さんは小さく頷いた。


あの後、僕達は母さんが起きるのを待って、ひとまずダイニングへと移動し、

そこでこれまでの経緯を簡単に説明した。

とはいえ――


「…………?」


少女はまだ困惑しているようで、何を訊いても小さく何かを呟いて小首を傾げるばかりだった。

僕は少女をちらりと見て、母さんに振り返った。


母さんは少しだけ困ったような顔で、少女と僕を見つめる。


「とりあえず……今日はもう遅いし、事情は明日もう一度訊くわ。後は私に任せて……エリクスはもう休みなさい。」


「はい。あ、でも母さん…………。」


「なーに、エリクス?」


「一人で大丈夫ですか?」


「あら、もちろんよ♪」


――不安だ。

母さんはにっこりと笑ってはいても、次の瞬間には倒れるかもしれない。

身体が弱い癖にやたら世話好きで、無理をしてしまう、そう言う人なのだ。


「でもですね……――」


言いかけたところで、パタパタと、軽快な足取りでフェルトがダイニングに飛び込んできた。


「お母さ~ん。お風呂沸いたよ~♪」


「ありがとうフェルト。それじゃあエリクス。」


母さんが満面の笑みで僕の顔を覗き込んでくる。


「そんなに心配なら、貴方も一緒に入る?」


「先に休ませてもらいます。」


「そ、そんな間髪入れずに答えなくても……。」


 いじいじ、と母さんは寂しそうに呟いた。


「なら、私が一緒に入ろうか?」


 とても楽しそうにフェルトが言う。


「駄目よ。フェルトも明日早いんだから……もう寝なくっちゃ。」


「はーい……。」


 諭すように言われ、フェルトはつまらなそうに少しだけ頬を膨らませた。


「はい! それじゃあ、貴方達はもう寝る! いいわね?」


「はい。」


「はーい!」


フェルトとそろって返事をして、そのままそろって少女に振り向いた。


「母さんの事、お願いします。」


「お願いします♪」


やはりそろって少女に向かってそう言い、軽く頭を下げる。


「なんでそうなるの~~!?」


母さんの、少しだけ涙交じりの声がダイニングに響いた。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ