新しい家族
「たっだいま~!」
「ただいま帰りました。」
そう言って両手に抱えていた大きな買い物袋を床に下ろしていると
奥の部屋にいた母さんが玄関までやってくる。
そして、もう一人、黒い髪の少女が母さんの後ろに隠れるようして出迎えてくれた。
「あら、二人共お帰りなさい。一緒だったのね。」
「そそっ、さっき街道沿いの露天でばったりと──ね?」
フェルトは得意げにこちらに目配せをする。
そしてそのまま床に置いた買い物袋の中から必要なものだけひょいひょいと取り出し。
「じゃあ、私はさっさとお夕飯作っちゃうから、みんなはごゆるりと~。」
「あ、私も手伝うわ。」
あっと言う間にフェルトと母さんは台所へ行ってしまった。
「「・・・・・・。」」
玄関には残ったのは自分と・・・黒い髪の少女だけとなり、あっというまに沈黙が流れる。
何かフェルトの策略のようなものを感じたが、突っ立っていても仕方ない。
「あ、えーと、じゃあ僕はリビングに戻りますね・・・。」
そう言って、彼女の横を通り過ぎようとすると。
「あの・・・お帰り・・・なさい。」
とても声は小さな声ではあるが、お互い(もしかしたら僕だけなのかもしれないが)気まづい中、
精一杯を掛けてくれたことに感謝をして──
「ただいま。」
と自然に声が出た。
***
「えーと、ごほん。それじゃあ不躾ながらいくつか質問してもよろしいでしょうか・・・?」
結局、リビングに戻っても沈黙は続いたので仕方なくこちらから本来最初にすべきだったことを始めることにした。
その問いかけに彼女は不思議そうにこちらをじいっと見つめてくる。
昨晩とは距離は違うものの、何かこう色々と見透かされそうになってしまい思わず目を逸らす。
・・・というよりもその凛とした聡明な顔立ちと透き通った目の色に引き込まれそうになるのを嫌ったというのが正しいのかもしれない。
(・・・おっといけませんね。)
人に質問する前にまずは自分からの礼儀がすっかり飛んでしまっていたので慌てて取り直す。
「っと、その前に僕の話からさせてもらってもよろしいでしょうか?」
彼女は相変わらず視線を逸らすことなく、こちらの質問に食い入るように頷く。
「僕の名前はエリクオール=シュアと言います。一応、愛称はエリクスなのでそう呼んでもらっても構いません。」
「私はエリクオールだけどね~!」
台所から聞き耳を立てているフェルトの声がリビングまで届き、思わず頭を抱える。
(しっかりこちらの会話を聞いているんですね・・・。)
「え、えーと、まあフェルトのようにそのままで呼んでもらっても構いません。」
「エリクオール・・・エリクス・・・。」
すると彼女は今度は俯きながら小さな声で呟きはじめ──しばらく考えこみ。
「じゃあ・・・エリクオールで・・・。」
フェルトの声に押されたのか定かではないが、呼び名を決めてくれた。
「分かりました。それで・・・今更聞くのもなんか遅い気がしますがお名前を聞いてもよろしいでしょうか?」
「・・・・・・・・・。」
今度は困ったように眉をひそめ、瞳を細めると再び何かを考え込むように左手で口元を隠す。
(え、えーと・・・これは不味い事を聞いてしまったのでしょうか・・・。)
一応、フェルトから先ほど名前・・・らしきものは聞いているので無理やり喋らせる気はなかったのだが、困り顔を見せられて動揺してしまう。
途方に暮れそうになっていると、母さんがとことこと台所から現れ、ぽふっと彼女の隣に座った。
何か意を決したかのようにすーっと息を吸い込むと。
「えーと、今日から彼女はうちの家族になることになりました。エリクスもよろしくね。」
するとがっしと彼女の頭を優しく抱え込み、嬉しそうな表情をしながらこちらに向かって二本指を立てる。愛する娘に対してする抱擁にも関わらず、黒髪の少女は微動だにせず。
その光景をポカンと眺めてしまい、我を失った。




