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ストルルソン

「ねえ、起きてよ…。」



                「起きてよ。」

   「寝ちゃダメだよ。」



           「もう…起きないんだよ。」

「やだ。」

     「ダメ。」


    「もう、会えないんだね…」

   「あんなに…」

  「…一緒にいたのにね。」



                「ダメだよ……」


        「なんでみんな…」


 「今でもまだこんなに…」


    「なんでみんな…」

            「あなたはもう…」



      「…私も。」



   「もういないのだ!」




       「いやだよぅ…。」




「…さようなら。」


「君は―――」





「……。起きて。」


「起きろ。起きなさい。」


「起きれーーっ!!」


さして広くない部屋に、大きな声が響く。

まだ静かな朝の時間にはなおさらその高い声は良く響いた。

ごそごそと衣擦れの音をたてながら体を起こす。


「………おはようございます、フェルト。」


軽く微笑みながらそう言った。そしてふと思いついたように付け加える。


「もう起きたから大きな声は出さなくてもいいですよ。」


一つ大きなあくびをしてベッドから降りた。しばらくそのままの姿勢でじっとする。


「起きないから大きな声を出してたのっ。起きてたら出さないよ。」


妹のフェルトはそう言いながらさっとカーテンを開けた。表にはまだ人通りはない、この時間帯はいつもそうだ。


「ほら、寝ぼけてないで早く支度しなきゃ遅れちゃうよ。」


もう完全に目覚めているのだが、僕に向かってそう呼びかける。

僕はと言えば、すでにクローゼットの前に立ち、着替えるために服を脱ぎ始めていた。

その様子をフェルトは何をするでもなくじっと見ている。


「……。フェルト?」


「んー?」


「楽しいですか?」


「うん」


「……。下で待っていて下さい。すぐに行きますから。」


「はぁーい」


特に反論もせず、素直にドアへ向かう。と、


「あ」


ノブに手をかけたところで振り返って、


「忘れてた。おはよ、エリクオール。」


ダイニングのテーブルにはすでに朝食の準備が整っていた。

先に席についていた母さんが僕に気づいて、声をかけてくる。


「おはよう、エリクス。よく眠れた?」


「おはようございます、母さん。…起きていて平気なんですか?」


「ええ、今朝は調子が良いのよ。」


そう言って微笑む。どうひいき目に見てもその顔色はかなり白かったが、これが母さんの地の色なので特に気にはしない。

と、キッチンにいたフェルトがカップを三つ(片手で)持ってダイニングへやって来て、


「お母さんいっつもそう言うよね。」


明るくそう言いながらカップをテーブルに並べていく。


「う……。」


「こういう日っていつもお昼ごろには一度は倒れるよねぇ…」


楽しそうに続けて言った。おおげさに溜息などつきながら細い首をふるふる振ってみせる。


「うー…うん、そうだったかもしれないわね…でもほら、今日はホントに体の調子がいいのよ。」


「倒れるんなら自分のお部屋の側で倒れてくれると助かるなー。お母さん軽いけどやっぱり一人で運ぶの重いし。」


「えっと…。………。ごめんなさい。」


「ううん。母親の面倒を見るのは娘のお仕事だよっ。遠慮しないで好きなだけ…。」


「フェルト…。あまり母さんをからかっちゃ駄目ですよ。真に受けてしまうんですから…。」


さすがに見かねて話に割って入った。フェルトは軽く舌を出しながらはーい、と言って再びキッチンへと入っていった。


「ああ…子供たちに苦労ばかりかけている私。なんて駄目な母親なのかしら…。」


「………。」


しくしくと嘆いている(フリをしている)母さんを無視して、僕は朝食をとり始める。

しばらく続けていた母さんもむなしくなったのか、ほどなく静かにパンを手に取った。

そしてすぐにフェルトも戻ってきて家族そろっての食事となった。


「それでは母さん、フェルト、行って来ます。」


「行ってらっしゃ~い!」


「気をつけるのよ。」


二人に見送られながら、僕は歩き出した。この街のどこからでもよく見える、見慣れた巨大な建物へ――

水の都アスクニアの中枢。この街そのものと言ってもよい場所。


その名は――ストルルソンといった。

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