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幼馴染み

 俺は今、朝のトレーニングをしている。

 

  朝は自主錬で、昼からはあの糞野郎とのトレーニングになっている。

  これは自主錬と謳っているが強制的にやらされているもので、一度だけサボった時になぜかバレて、こっ酷く締められた。

 

 


  そんなある日の事だった。

  いつも通り、庭で朝のトレーニングをしていると、背後から俺の事を見ているであろう視線を感じた。


  俺は視線が気になり、後ろを振り向いた。


  そこに居たのは、塀の上から俺の事を見つめている、俺と同い年くらいの女の子だった。


  (誰だろうこの子?⋯⋯)


  前世の俺なら女の子に見つめられただけで、(恋の予感か?恋の予感か!?)と内心で騒ぎ立てていただろうが、心身共に子供になった俺は特に何も思わなかった。


  「なにしてるのー?」


  女の子が俺に話しかけてきた。


  このぐらいの年齢の子供は人見知りをすると聞くが、どうやらこの子は人見知りをしないようだ。


  「トレーニングだよ」

  「トレーニングってなにー?」

「自分の事を鍛える事だよ」

「きたえる?⋯⋯」


  このままでは質問攻めにされてしまいそうなので、俺はこっち側に招く事にした。


  「こっち来てお話しない?」

  「いいよー!」


  女の子は満面の笑みでそう答えた。


  「ちょっとだけそこで待っててね」

  「んー?私ここ乗り越えられよ!」

 

  この塀の高さは二m程ある。それを俺と同い年ぐらいの女の子が飛び越えるのは容易ではない筈だ。

  つまり、この女の子は見た目にそぐわずとても高い身体能力を持っている事になる。


⋯⋯何となく敗北感を感じた。


  「本当?⋯⋯じゃぁこっちにおいで」


  俺は女の子に了承の意思を伝えた。

  本当だったら止める所だと思うが、俺は止めなかった。

  仮に女の子が落ちてきても、俺が受け止めればいいと思ったからだ。


  「いくよー強化ブースト!」


  女の子は強化と言いながら、塀を乗り越えた。


(⋯⋯魔法か)


  女の子が使ったのは、魔法だった。魔法陣様な物が見えたので確信を持てた。


そう考えると女の子が言っていた事も不自然ではない。

この世界には魔法があるから俺と同い年くらいの女の子でも、魔法を使えば二mくらいの塀は軽々と乗り越えられる。


だが、俺は魔法を使える事に疑問を持った。


俺は前世の知識があったので、魔法のトレーニングをする事が出来たが、この女の子には当然知識が無いのでトレーニングをする事は出来ない。

自然と使えるようになったとしたら、それは天才だろう。


  現に、俺が初めて魔法を使った時、父親は「俺の息子は天才だ!」と言って褒めちぎっていた。


  「もしかして魔法を使ったの?」


  俺は思わず女の子に魔法を使ったのか聞いてしまった。


  「そうだよー」


  なるほど⋯⋯この女の子も天才なのか。


  そんな簡単に天才と言える子供が居て良いのかと思ったが、俺は見た事が無い魔法に少しテンションが上がってきた。

 

  おそらくだが、あの魔法は身体能力を底上げする魔法だ。

  俺も是非使ってみたい。


  「今の魔法をもう一度使ってくれないかな?」


  「いいよー」


  今度はもっと詳しく魔法を見る為に、目を凝らした。


  「強化!」


  女の子はもう一度魔法を使ったが、その後にヘナヘナと座り込んでしまった。


  「疲れた〜」


  どうやら魔法を連続使用した事により、疲労感が襲って来たようだ。


  「家に入る?」

  「うん!歩けないから抱っこしてー」


  俺は疲れている女の子を休ませる為に家に連れて行こうとしたが、抱っこを要求されてしまった。


  前世の俺の筋力なら、余裕で女の子を持ち上げる事が出来たが、今の体では持ち上げる事が出来ないと思う。


( ⋯⋯さて、どうするか)


  俺は悩んだが、ふと閃いた。


  さっき女の子が使っていた魔法を使えば、持ち上げる事が出来るのではないかと。


  (よし、やるか)


  俺はさっき見た魔法陣を思い浮かべた。


  「抱っこするからちゃんと俺の事を掴んでてね」

  「わかったー」


  俺は女の子に一声かけて魔法を発動した。


  「強化!」


  大嵐テンペスト程ではないが、脳内から何かが抜けて行く感覚がした。

  どうやら成功したようだ。


  俺は女の子を軽々と持ち上げ、そのまま家の中に連れて行った。

  よほど疲れたのか、女の子は俺の腕の中で眠ってしまった。



 ――



  女の子を家に持ち帰ると、母親が驚いた目をして俺の事を見てきた。

  そして、その目は次第に怒りに染まっていった。


  ⋯⋯さて、今の俺の状況を整理してみよう。

  眠っている女の子を抱っこして、無言で家に連れ込んでいる⋯⋯いくら子供だからってやばいな。


  「深夜!私はそんな子に育てた覚えはないよ!」


  はい、怒られました。

  どう考えても全面的に俺が悪いです。

  女の子が疲れて眠ってしまったのも、元はといえば俺が魔法を二回使わせたからだしな。


  「お母さんごめんなさい。」


  まずは謝った。


  「でも、疲れている女の子を連れてきただけなんだ」


  俺は、勘違いしている母親になぜ女の子を連れてきたかを言った。


  「え!?眠ってるよね⋯⋯深夜、お母さんに事情をしっかりと話してみなさい」


  俺は今日起きた出来事を全て説明した。


  女の子が見てたから話しかけた。

  質問攻めにされたから取り敢えず庭に招いた。

  見た事無い魔法を使ってたから、もう一度使ってと頼んだ。

  それで女の子が二度目の魔法を使って、疲れて眠ったから家に運び込んだ。


  こんなん感じに説明した。


  「なるほどね⋯⋯」


  母親は理解してくれたようだ。


  「んんっ⋯⋯おはよう」


  母親と話していると、件の女の子が起きた。

  それにしても開口一番がおはようとは⋯⋯友好的なのか警戒心が足りないのか⋯⋯後者だな。


  女の子の為に、知らない人にはついて行っちゃダメだよと、教えてあげなくてはな。


  「おはよう⋯⋯いきなりで悪いけど名前を教えてくれないかな?」


  俺は女の子の呼び方に困ったので、名前を聞いた。


  「いいよー私の名前はまりんって言うの⋯⋯君の名前は?」

  「俺の名前はしんやって言うんだ。よろしくね」

  「うん!よろしくね」


  女の子名前はまりんと言うらしい。

  俺はこの女の子にピッタリな名前だと思った。


  まりんの特徴は、何と言っても髪の色だ。

  まりんの髪色はまるで宝石のサファイアの様な色合いだ。

  サファイアと言っても種類はたくさんあるが、まりんの髪色はカシミール産サファイアの色合いにとても近い。


  とても美しい色だ。


  「まりんの髪の色ってすごく綺麗だよね」


  俺は考えていた事を思わず声に出していた。


  「ありがとう!パパとママも褒めてくれるんだよ」

 

  それは褒めるだろう。

  少し汚い例えだが、まりんの髪の毛で筆でも作ったら、万を軽く超える価値あると思う。


  「まりんちゃんお家がどこにあるか分かるかな?」


  俺とまりんが話し込んでいると、母親がまりんに家が何処にあるかを聞いてきた。


  「お家?あっちだよ」


  まりんはあっちだよと言いながら、右側を指していた。

  対する母親は、満足げに微笑んでいた。


  「まりんちゃん、そろそろお家に帰らないとパパとママが心配するよ?」


  気付いていなかったが、時間は十一時過ぎぐらいになっていた。

  俺とまりんが会ったのは、おそらく七時くらいだ。

  すでに四時間は経過していた。


  「お家帰りたくない!しんやとお話したいー」


  まりんは家に帰る事を拒否した。

 

  その理由が虐待されているとかではなく、俺と話したいからと言われて俺は少し照れた。


  「また明日来ていいから、今はお家に帰ろう?」


  母親は諦めずにまりんを説得しようとしていた。


  「う〜⋯⋯本当に明日来ていいの?」

  「うん!もちろん来ていいよ」

  「分かった⋯⋯お家帰るよ」


  母親はまりんの説得に成功したようだ。


  対するまりんは、しょんぼりと頭をうなだれていた。


  「深夜がお家まで送ってくから安心してね」


  それを見た母親は機転を利かせて、そう一言残した。


  「しんやが一緒にお家に来てくれるの?」

  「もちろん!」


  俺もまりんとはまだ話がしたかったので、喜んで引き受けた。





  「まりんは誰に魔法を教えてもらったの?」


  俺はまりんを家に送り届ける途中に、魔法を誰に教えてもらったのかを聞いた。


  「ママに教えてもらったの」


  ほほう⋯⋯ママね

  俺の予想だがまりんの母親は、相当腕が立つ魔法使いだと思う。


  簡単な言葉しか分からない子供に、魔法の事を説明するのは相当難しい事だと思う。


  事実、俺の年齢は前世では十八だったが、その俺が魔法の事を説明されても六割程度しか理解出来なかった。


  「しんやは魔法使えるの?」


  今度はまりんが俺に質問をしてきた。


  「つかえるよ」

  「本当!?みしてみして」

  「ごめんね俺の魔法は危ないから、見せる事が出来ないんだ」

  「え〜⋯⋯」


  そんな悲しそうな顔をしても見せる事は出来ないんだ⋯⋯ごめんよ。


  俺は心の中で謝った。




  こんな感じの事を話していたら、あっという間にまりんの家に着いた。


  「あれが私のお家だよー」


  まりんは青海おうみという標識が入った家を指した。


  (まりんの苗字は青海と言うのか⋯⋯そういえば、俺の苗字ってなんだろう?)


  俺は今だに自分の苗字を知らない事に気付いたが、いずれ知るだろうと思い考える事を止めた。


  「ママただいまー」


  まりんは元気よく家の中に入って行った。


  「まりん!何時だと思ってるの!!」


  対する母親はご立腹なようだ。


  無理もない事だ。こんな幼い子供が何時間も出歩いていたら、心配もするだろう。


  「あのねーしんやと遊んでたの!」


  まりんは鈍感と言うか何と言うか、母親が怒っているのに気付いていない様子だった。


  「しんや?⋯⋯後ろに居る男の子の事?」

  「初めまして。今日まりんの友人になった深夜と申します」


  まりんの母親が俺の存在に気づいたようだったので、当たり障りのない挨拶をした。


  「あらあら⋯⋯まりんと同い年くらいの子なのに随分と礼儀が正しいのね」


  俺の第一印象は、悪くないようだ。

  しかし、まりんの母親の視線が気になる。

  俺の目を見て話してはいなく、明らかに髪の毛を見ながら話していた。


  俺の髪型はそんなに変なのか?それとも色がおかしいのか⋯⋯俺は今の自分の姿を一度も見ていなかったので分からなかった。


  「しんや君?その髪の毛は地毛なのかな?」

  「地毛ですが⋯⋯何かおかしい所でもありますか?」


  やはりまりんの母親は、俺の髪の毛を気にしていた。


  「⋯⋯いえ、なんでもないわ」


  その間が気になる!⋯⋯とても気になるが、何でもないと言っているのに追及するのは、却って藪蛇になる可能性があるので追及する事をやめた。


  「ママ!私しんやとお友達になったの」


  まりんのその一言によって、一方的なマシンガントークが始まった。

  内容は、今日俺と会ってからの事を事細かに説明するといった感じだ。


  「では、俺は帰るので⋯⋯お邪魔しました」


  キリがよくなった所で、帰る旨を伝えた。


  「あら、もう帰るの?また遊びに来なさいね」


  まりんの母親はそう一言言い、俺の事を見送った。

  去り際のニヤついた目が少し気になったが⋯⋯


  さて、これからは地獄のトレーニングだ。

  俺は憂鬱になりながらも家に帰宅した。

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