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初めての魔法

 トレーニングを開始してから一週間が経った。


  俺は魔法を使えないでいた。

  魔法の知識もろくに無いのに、すぐに使えるようになるわけないのだが、俺は少し焦っていた。


  使えないのならまだいい、俺の場合は魔力の通し方の感覚すら掴めないでいたからだ。


  目には魔力を通す事は出来る。魔力を通すと、瞳孔が開くような感覚がするからすぐに感覚は掴めた。

  今ではスムーズに通す事が出来る。


  だが、腕や足といった部位には魔力を通す事が出来なかった。


  (魔力を通すという考え自体が間違っているのか?)


  このままでは魔法を使う事が一生できる気がしないので、魔力を通すという考えが間違っていると仮定して、もう一度じっくりと考え直す事にした。

 


  ⋯⋯だが、いくら考えても全く思いつかなかった。

  魔力を通すという考えを捨てようとしても、魔法を発動するには魔力を体に通さなくては発動出来ないという考えが浮かんでしまう。

現に目には魔力を通せている。


  思考の渦に埋まりそうになったが、俺はこの世界には画期的な物があるという事を思い出した。


  それは本だ。


  本は何千年先の未来だとしても存在するはずだ。

  どんなに科学が発達しようとも、魔法という未知の力があろうとも、本は絶対に無くなっていないという確信が俺にはあった。


  俺の前世は科学技術が進んでいて、古い物はどんどん消え去って行ったが、本は全くと言っていい程消え去る気配が無かった。

  それも何千年も前から根強く残っていた本の事だ、たかが千年程度で滅びるとは到底思えなかった。

何よりも人に物事を伝えるにはどんな言葉よりも、図面や字で伝えるのが一番伝わりやすい事を人間は知っている。


  そして、この日本には魔法がある。ならば人に魔法を教える、魔法教本なる物があるはずだ。

  その本を見つける事が出来れば、魔法を使用出来るかもしれない。




  さて、本を探すという方針が出来た。

  俺はさっそく行動に移した。


 ――



  「⋯⋯見つからない」

 

  探し始めてから二日が経ったが、本自体が一冊も見つからなかった。


  赤ん坊の体を酷使し、全ての部屋を見て回ったが見つからなかった。


  (まさか本が消え去ったのか?⋯⋯)


  俺は本が消え去ったのかと一瞬思ったが、すぐにそれを否定した。理由はないが、何となくそれは違うと思った。


  「深夜〜」


  そんな事を考えていた時、母親から呼び出された。


  「あ〜い」


  俺は返事をしながら母親の元に向かった。

  余談だが、俺は舌足らずではあるがある程度話せるようになっている。


  母親の元に着いたら、見た事も無い物を渡された。

  前世の知識で例えると、USBの棒状の所に数字が振られた様な物と、電子辞書の様な物だった。


  「これは本って言うんだよ」


  母親からはこれが本だと言われた。


  (いやいや、これが本?俺が知っている本とは少し⋯⋯いや、全然違うぞ?)


  俺は全く信じていなかったが、母親がUSBの様な何かを電子辞書の様な何かに差し込んだ瞬間、考えが変わった。


  電子辞書の様な何かに文字が映し出されていたのだ。

  試しに読んでみたが、内容は子供が読むような簡単なお話だった。

こんなのをみせつけられては、これが本だと信じざるを得なかった。


  (こんなにコンパクト化されているのか⋯⋯)

  そんな事を考えながら読んでいたが、俺はふと、ある事に気付いてしまう。


  「えぇっ⋯⋯」


  俺は気付いた瞬間唖然としてしまった。

 

  なぜ唖然としているかというと、電子辞書の様な何かに文字が映し出されているのだ。写すのではなく、映しだされているのだ。


  そう、本程度にAR技術が使われていたのだ。

 

「どう?すごいでしょ!」


  俺の驚く様子を見て、母親が無邪気な子供の様な笑顔で聞いてきた。


  「う、うん」


  俺は素直に驚いたと伝えた。


  「驚いている深夜くんに、今から面白いお話をしてあげるね」


  母親は俺の事を抱き抱えながらそう言った。


( 本を読んでくれるのか⋯⋯少し気恥ずかしさもあるが、まぁここは我慢だな)


  俺はそんな事を思いながら、母親が本を読み終えるのを待った。




  さて、行動に移すとするか。

 

  俺は本を読み終えた母親が、部屋から出て行くのを見計らい部屋にある魔法関連の本を探した。


  だが、探すと言っても片っ端からUSBの様な物を電子辞書の様な物に差し込み、一覧という所から目当ての本を探さなくてはならない。

  そう簡単に見つかる物ではない。


  ⋯⋯と思っている時期が俺にもありました。

  俺は運良く一本目から魔法関連の本を引き当てた。


  俺はワクワクしながら本の内容を見た。


  (よし、魔法について書かれているぞ)

 

  やはり、期待通り俺の知りたいような事が書かれていた。


  そこに書かれていた内容をザックリ纏めるとこう書かれていた。


  1.魔法には様々な種類がある

 

  火属性・水属性・風属性・氷属性・地属性・光属性・闇属性・無属性


  どうやら八属性の魔法があるらしい。


  八属性と言っても無属性魔法は特別らしく、他の七属性に当てはまらない魔法を総じて無属性と言うらしい。


  例えば、身体強化魔法や転移魔法などは無属性魔法に当てはまるようだ。



  2.魔法には級が存在する


  生活魔法、初級魔法、中級魔法、上級魔法、超級魔法、天災級魔法があるようだ。


  生活魔法が一番簡単で天災級魔法が一番難しいようだ。

  生活魔法は誰でも出来るらしく、初級魔法からは才能が必要らしい。

 


  3.魔法は全ての人間が使えるわけではない


  魔法を発動するには、脳内に魔核がある人間でないと発動出来ないらしい。

 

  (魔核ってなんだ?⋯⋯というか魔法発動の為に、魔力が必要なんて一文字も書いていないな)


  魔核についてはそれ以外詳しいことは書いていなかった。

  そして、魔力については一文字も書いていなかった。


  (この世界には魔力が存在しないのか?⋯⋯だとしたら俺が今までに感じた目に何かを通す感覚は一体⋯⋯)


  魔法は分からない事だらけなので、考えるよりも本を読み進める方が建設的だと思い、考えることを止めた。

 


  4.魔法を発動する時は脳内で魔法を構築し、魔法名を発声しなくてはならない


  これは俺が一番知りたかった事だ。


  魔法を構築するというのはおそらく、父親が魔法を発動していた時に見えた、魔法陣の様な物を構築する事を言うのだろう。

  発声に関しては、優秀な魔法使いになると不必要な物になると書いてあった。


  そして、魔法を発動を補助する道具もあるようだ。


  それは、魔法具ブースターと言って、脳での魔法構築スピードを格段に上げる道具らしい。


  しかし、父親は魔法具を使わずまるでボールを投げるかの様に魔法を発動していたが⋯⋯しかも発声もしていなかった。

 

  (もしかして、父親は優秀なのでは?)


  遺伝子は確実に作用するわけではないが、もしかしたら俺は優秀な魔法使いになれるかもしれない。




  とりあえず魔法の発動方法が分かったので、俺は父親の魔法を真似する事にした。


  本に書いてあった通りならば、あの魔法陣の様な物を脳内に浮かべれば発動出来るはずだ。

  発声は⋯⋯おそらくあの魔法は風属性だろうから、適当に風に関係ある言葉を魔法名の様に発声すればいいだろう。

 

  数打てば当たるだろう作戦だ。


  「よし、やるか」


  俺はそう一言言い、脳内で父親の使った魔法陣を思い出し⋯⋯


  「ウインド!」


  俺はまず、一番無難であると思われる魔法名を発声してみた。

  だが、魔法は発動しなかった。


  (やはり魔法名は違うか⋯⋯)


  その後、いくつもの風に関係のある言葉を発したが、魔法が発動する事はなかった。


  (やはり、適当な魔法名では駄目か⋯⋯いや、あと一つだけは試していないな)


  俺は諦めかけたが、一つだけ試していない言葉があった。

  だが、俺はその言葉が正解であるとは到底思えなかった。

  なぜなら、その言葉はテンペストであるからだ。


  テンペストは日本語に直すと、大嵐だ。

  仮に、あの魔法がテンペストだとしたらレベルの低さに思わず笑ってしまう。

  威力はそこそこあったようだが、発動範囲が明らかに狭かった。


  とは言えやってみないとは分からないと思い、俺は駄目元でやってみた。


  「大嵐テンペスト!」


  魔法名を唱えた瞬間、脳内から何かが抜けて行くような感覚がした。


  その抜けて行く感覚が終わった後、それは起こった。


  突然目の前に竜巻が起こった。

  それだけで終わりならまだ良かった。

  次に起こったのは、大雨という言葉では表しきれない程の雨が降り注いで来た。

  そして、追い打ちをかけるかの様に凄まじい雷鳴が轟いた。


  (いやいや、まさかあの魔法が大嵐だったのか?⋯⋯それよりもこの状況かなりまずくないか?)


  俺は内心焦るどころの騒ぎではなかった。

  家が崩壊しているのだ。おそらくだが、父親も母親も無事ではないであろう。


  俺は取り返しのつかない事をしたと思い、自棄になりそうになったが、この現象は唐突に終わりを迎えた。


  「大嵐」


  父親がそう一言発声した瞬間に、先程まで発動していた竜巻や大雨は一瞬にして消え去った。


  俺は思わず、父親が居るであろう方向に振り向いた。

  振り向いた先で、俺は父親と目が合った。


  「深夜お前⋯⋯魔法が使えるのか?⋯⋯」

 

  目が合った瞬間、父親からそう一言告げられた。


  俺は終わったと思った。

  何が終わったかは分からない。ただ、直感的に何かが終わったと思った。


  それは、この世界の暮らしかもしれない。はたまた、俺の人生かもしれない。


  だが、そんな俺の考えは杞憂に終わった。


  「やはり、俺の息子だ。庭で見せた魔法をお前は見えていたんだな」


  父親はドヤ顔とでも言える様な顔で、誇らしげにそう言った。


  (えぇっ⋯⋯)


  俺は父親の態度に唖然の一言だ。


  「うんうん、しっかりと俺の血を引いているな」


  しかも、自分達の家を破壊した行為に対してまるで咎める気配が無い。


  「深冬〜家が壊れたから直して」


  そんな俺の戸惑う気持ちを無視するかの様に、父親はとんでもない発言をしていた。


  父親は母親に家を直してと頼んだのだ。

  それも、自販機で飲み物を買ってきてと頼むくらいの気楽さでだ。


  「記録蘇生リソース・メモリー!!」


  父親が頼んだ直後。母親が魔法名を叫んだ。

  その瞬間、家が直った。言葉通り家が一瞬で直った。

  その間僅か三秒。周囲が光に包まれ、その光が消えた瞬間家が元に戻っていた。とは言っても、完璧に直ったわけではなく、ある程度直っただけに過ぎなかった。だが、ある程度と言っても八割程は元の家に戻っていた。


  (えぇっ⋯⋯)


  俺はまたしても唖然としていた。

  こんな人間離れした出来事を秒単位で行われると、言葉も出なくなるものだ。


  「紅夜!なに大嵐を本気で発動してんのよ!!」


  唖然としている俺をよそに、母親は父親が大嵐を発動したと勘違いして父親を叱っていた。


  「違うぞ?深夜が発動したんだよ」

「そんな見え見えな嘘には引っかかりませんよ〜」


  父親は否定したが、当然信じてもらえなかった。


  「本当だぞ?ほら、深夜の周囲を見てみな」

「え?⋯⋯嘘、本当に発動した形跡がある⋯⋯」


  俺は母親の言う魔法を発動した形跡を見るべく、周囲を見回した。


  それはすぐに見つかった。

 

  俺の周囲三m以内は、そこだけ時間をくり抜かれた様に、大嵐発動前と何も変わらない状態を保っていたのだ。

  家を元に戻したと言っても、少しは違いが出ていた。だが、俺の周囲は全く変わらない状態を保っていたのだ。


  (なぜだ?)


  俺は当然疑問を抱いた。


  「本当に不思議だよね。どんなに強力な魔法でも使用者には被害が出ないなんて⋯⋯」


  俺の疑問に答えるかの様に、母親はそう呟いた。


  (なるほど⋯⋯そう考えるとこの現象も自然だな)


  俺は若干都合が良いと思われる魔法の性質も、すぐに受け入れた。

  受け入れたと同時に、猛烈な疲労感が襲って来た。

 

  (おそらくだが、これは魔法を使用した事による疲労感だよな⋯⋯)

 

  俺はすでに魔法での疲労を今回とは違う形でだが、体験しているので驚きはしなかった。


  まだ二歳児である俺の体は疲労感に耐え切れず、そのまま眠りについてしまった。

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