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魔法

家の塀は魔法でコーティングされていて、かなりの強度を誇っています。

 体が成長し、俺は歩く事が出来るようになった。

 しっかりとした言葉は喋る事は出来ないが、擬音程度なら喋れるようになってきた。


 ――


  俺は魔法が使いたい。

  転生してからそこそこ経つが、今だにその熱は冷めなかった。


  しかし、魔法の使い方が全く分からない。


  転生物の主人公達は、自分の体内を意識したら魔力を感じたとか、お腹を意識したら魔力を感じたとか言っているが、俺の場合はそれらを試しても全く効果が無かった。


  解決の意図口が掴めず悩んでいると、ふとある事を思い出した。


  父親と初めてあった日は確か謎の爆音を聞いて、その爆音に興味が湧いて庭に向かったはずだと。

  庭に向かった結果そこに居たのは父親であっただけで、父親に会いたかったわけではないと。


  そして、何よりも父親が見えない何かを塀にぶつけて、爆音を鳴らしていた張本人だった事を思い出した。

  あの時は、父親の事を不審者だと思って冷静ではいられなかったが、今ならあの爆音を目の前で出されても冷静に観察出来るはずだ。


  さて、行動に移すか。


  俺は父親の元によちよちと歩きながら向かった。




  父親の元に着いたが⋯⋯

  さて、どうやって説明しようか。


  今の俺は擬音程度しか話せない。

  擬音で庭でやってた見えない何かを出してと伝えるのは至難の業だ。


  あーでもないこーでもないと思考している時だった。


  「じょりじょりじょり〜」


  父親が俺の事を抱き抱え、髭を押し付けてきた。

  これはいつもの事で、俺の事を見かけると絶対と言っていいほどやってくる。


  俺は抵抗しても無駄だと諦めていて、されるがままにしている。

もちろん抵抗しないだけで、嫌悪感は抱いている。

出来れば今すぐにでも降ろしてほしいし、髭を押し付けてくるのもやめてほしい。


  ふと、とある作戦を思いついた。


  俺に物凄く構ってくる父親の事だ。

  赤ん坊の短所である脆さを利用すれば、降ろしてくれるのではないか?

  そして、その後は赤ん坊の武器であるピュアスマイルを利用し、庭に誘い出せるのではないか?


  ⋯⋯やってみるか


  俺は恥ずかしさと戦いながらも作戦を実行した。


  「キャッキャッう〜あ〜」


  腕の中で持てる力を全て出して暴れた。

  まずは降りたいという意思表示をしてみた。


  「おお!暴れると危ないぞ」


  対する父親は俺を落とさないようにより強く抱き抱えてきた。


  これでは本末転倒だ。このままでは作戦に失敗してしまう。

  ならば⋯⋯

  俺は究極奥義を使う事にした。


  「うっ⋯⋯うわぁあああん」


  究極奥義⋯⋯それは泣く事だ

 

  なぜ泣く事が究極奥義かというと、俺が泣き出すと必ずと言って言いほど、母親が駆けつけてくるからだ。


父親に抱き抱えられて泣いている俺を見れば、母は状況を何となく察し、俺を助けてくれるだろう。


「ど、どうすれば⋯⋯」


  俺が泣き出した事によって父親は相当焦っているようだった。

 

(なんかすんません)

 

俺は心の中で父親に軽く謝った。


  「紅夜!何やってるの!!」


  お、来たきた

  泣き出してから数秒後、俺のお母様が降臨した。


  「深夜が急に泣き出して⋯⋯」


  父親はしゅんとしたような雰囲気を醸し出しながら母親に事情を説明していた。


  「あなたねぇ⋯⋯それは抱き抱えられて嫌がっていたんだと思うよ?」

 

  母親は、超どストレートにそう言った。

 

  「ガーン」

 

  父親はそう言葉に出しながらヘナヘナと座り込んだ。


  「嫌がっていたのに強く抱きしめたら泣くに決まってるよね」


  母親はさらに追い打ちをかけた。


  やめて!父親のライフはもうゼロよ!


  「俺嫌われたのかな⋯⋯」


  父親の口からはそんな言葉が漏れ出していた。


  さすがに可哀想になってきたので、父親にピュアスマイルを繰り出すことにした。


  「うあ〜」


  俺は二パッっという効果音が出るくらいの微笑みを浮かべた。

  さらに、可愛さが増すように赤ちゃん言葉を発しながら微笑むというアクセントも加えた。


  「父さんを慰めてくれてるのか?」


  微笑みを見た父親は、俺が慰める為に微笑んだと思い込み、俺に縋るようにして近づいてきた。


  だが、俺は近づいてきた父親を微笑みながら避ける。

  なぜ避けるか?それはこのまま避け続けて庭に誘い出すとい作戦だからだ。


  ただ、これには重要なポイントがある。

 

  それは、微笑みだ。

  微笑む事によって拒絶して避けているのではなく、じゃれているだけだと思わせなくてはならないからだ。

 

  「なんで避けられたんだ⋯⋯やっぱり嫌われてるのかな俺⋯⋯ん?笑っているだと⋯⋯もしかして誘っているのか?」


  父親は、俺に嫌われたと思い込み一瞬表情が暗くなったが、俺の顔を見てすぐに表情が戻った。

  そして、ゆっくりと手を伸ばして来た。

 

  (まんまと引っかかったな⋯⋯ふっチョロいぜ)


  俺は心の中で父親をバカにしながら、庭に誘うように何度も避けた。


 


そして遂に、庭に誘い出す事に成功した。

  庭に出ると同時に父親にあえて捕まった。


  「お〜よく何回も避けたな」


  俺の事を捕まえた父親は、抱き抱えながら俺の頭を撫でてきた。





  さて、ここからが問題だ。

  無事に庭に誘い出す事に成功したが、俺の擬音が通じるとは限らない。

  寧ろ通じる方が奇跡なくらいだ。


  (でも、やってみないと分からないよな)


  俺は駄目もとで擬音を発してみた。


  「あ〜ばーんばーん」


  俺は家の塀を指差しながら、爆発の効果音を発してみた。


  擬音を聞いた父親は、思案顔をしていた。

  そして、何かを思いついたのか手を叩いた。


  「もしかして⋯⋯あの時の魔法のことかな?」


  父親はそう言いながら塀に見えない何かをぶつけた。

  あの時よりは小さめの音だったが、しっかりと聞こえた。


  「うぁあああ〜い」


  俺は音がなった瞬間全力の喜びの表現をした。

  手を叩く動作も付けた。


  「おお!やっぱり魔法のことか!!」


  父親は俺が喜んでいるのを見て気を良くし、何回も塀に魔法を放ってくれた。


  俺はすかさずその魔法を観察した。


(相変わらず何も見えないな⋯⋯)


父親の放つ魔法は、やはり見えなかった。


  だが、四回目にして薄らと何かが()()

  感じたのではなく、()()のだ。


  俺はこれが一体何なのかもっとよく見るために、さらに目を凝らして魔法を見た。


  次はハッキリと見えた。

  それは無数の魔法陣の様な何かだった。


(これは一体⋯⋯)


  そこまで分かったところで、前触れも無く視界の端から黒い波のような何かが襲ってきた。


  視界全てを黒い波に飲み込まれたと同時に、俺の意識は途切れて行った。




 ―――




  「はしゃぎ過ぎて眠ってしまったのか⋯⋯自分の子供ながら本当に可愛い子だな」


  起きた時には、俺ははしゃいでいて疲れて寝た事になっていた。

 

  (べ、別に魔法を初めて見て興奮していたわじゃないんだからね!)


  心の中で、そんなわけあるかとツンデレみたいな言葉でツッコミを入れてみた。

 

  (それより、なぜ視界がいきなり黒一色に染まったのだろう?)

 

  俺はつい先程まで、黒い波のような物に襲われて意識を失っていたのだ。


  これは大問題だ。


  なにが問題かというと、突然意識を失った事が問題だった。

  視界が黒一色に染まった事は問題ではない。


  なぜなら、俺は視界が黒一色に染まる現象を前世で体験しているからだ。

  それは失神だ。


  他の人はわからないが、俺は失神しそうになると視界の端から黒い波のような物が襲って来る事があった。

  今回起きた現象は、それに酷似していた。

  だから、黒い波のような物が襲って来た事はどうでもよかった。


  しかし、失神した理由の方は皆目見当もつかなかった。


  失神するほど動いたわけでもないし、ストレスを抱えていたわけでもない。

  持病持ちの可能性は考えたくなかった。


  そうなると、魔法を見ていた事が原因の可能性が浮上して来る。

  もしそうだとしたら俺にとっては嬉しい限りだ。

  よし、もう一度父親に頼んで魔法を見してもらおう。

  そうすれば魔法が原因かどうか分かるからな。



 ――



  翌日、さっそく父親に魔法を使ってくれと頼んだ。

  父親は嬉しそうに了承してくれた。




  父親が魔法を発動した。


  (やはり魔法陣の様な何かが見えるな)


  今度は最初の魔法から見えた。

 

  次は二度目の魔法発動だ。

  ここで俺が失神すれば魔法が原因。失神しなかったら⋯⋯持病持ちの可能性あり。


  二度目の魔法が発動した。


  結果は⋯⋯


  (⋯⋯失神する気配がないな)


  失神する事もなく普通に立っていた。

 

  この結果に、俺はこの年で持病持ちかと落ち込んだ。

転生してから数年で死ぬなんて、笑い話にもならない。


  そんな俺の内心とは裏腹に、父親は嬉しそうに三度目の魔法を発動していた。


  俺はその魔法をなんとも思わず見ていた。

  その時だった。


  突如、俺の頭部に軽く殴られた様な衝撃が伝わってきた。


  (ん?なんだ⋯⋯)


  俺は衝撃に驚き後ろを向いたが、誰も居なかった。


  (⋯⋯気のせいか?)


  俺は気のせいだったと思い、視線を再び父親の放つ魔法に戻したが、そのタイミングで先程よりも強い衝撃が頭部に伝わってきた。

  これはもう気のせいではないな。


  でも、さっき後ろを見た時は誰も居なかったよな⋯⋯


  (もしかして、魔法を見たら頭部に衝撃が伝わってきてないか?)


  魔法が発動しないタイミングで、父親の方を見てみよう。

  それで衝撃が来なかったら、魔法が原因の可能性大だな。いや、確定と言っていいだろう。

 

  俺は父親に目線を戻したが⋯⋯衝撃は来なかった。


  (やはりな)


  俺は確信した。魔法を見ることによって、前日は失神したと。

  これ以上魔法を見続けるとおそらくだが、また失神してしまうと思ったので速やかに庭から出ていった。


  ⋯⋯父親よ何も言わずに出ていってすまんな。




  俺は庭から出てこの頭痛について考える事にした。


  まずは、この頭痛の謎を解くにあたって重要だと思うポイントをまとめる。

 

  1.魔法を見た初日は、目を凝らさなくては魔法陣を見ることが出来なかったのに、今日は目を凝らさなくても見えた。


  2.初日は魔法陣を見始めてから二度目で失神したが、今日は四度見ても頭痛で済んだ。


  以上の事が重要なポイントだ。


  俺はこの二つの現象の共通点を探した。


  共通点はすぐに見つかった。

  それは、成長だ。


  初日よりも魔法が見えるようになり、すぐに失神しなくなったのだ。

  しかも、急激に成長しているのだ。


  さて、俺の体の何が成長しているのだろうか。

  俺の中ではすでに答えが出ていた。

 

  この世界は魔法があるのだ。ならばこれがあっても何らおかしくない。

 

  ⋯⋯答えは、魔力だ。


  魔法を見るのに慣れない魔力を気付かない内に、限界まで使っていて失神したと考えれば何ら不思議ではない。

  そして、魔力を一度使った事により、魔力を流すことがスムーズに出来るようになったと考えれば、魔法をすぐに見る事が出来るようになったことも不思議ではない。


  ここまで分かればこの世界においての魔法の使い方が分かったも同然だ。


  腕の筋トレをして腕が筋肉痛になるのは、腕の筋肉を刺激するからだ。

 

  ならば魔力もきっと同じはずだ。

  失神するのは脳が原因だ。つまり魔力を使い失神したという事は、魔法を見る際に何らかの魔力が脳に作用した事になる。

  これは、魔法を使うには脳がポイントだということを指していると思う。


  つまりこの世界で魔法を使うには、内なる何かを感じるのではなく、脳で魔法を構成する事が重要な事だと気づいた。




  よし、ここまで分かれば魔法を使えるはずだ。

  すでに目には魔力を通す事が出来ているしな。

 

  こうして俺の魔法を使用する為のトレーニング生活が幕を開いた。

 

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