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父親との出会い

  半年が経った。


  俺はハイハイが出来るようになった。

  ついに、移動手段を確保したのだ。


  俺はそのハイハイで家の中を隅々まで探索した。


  「ハイハイが出来るようなって嬉しいのかしら?目を離すとすぐにどこかにいっちゃうのね」


  母親は、俺がハイハイしている姿を見失う度にこんな風に言った。



 

  家を探索していると色々な事が分かった。


  まず、やはり魔法は存在していた。

  部屋の明かりを消す時に俺の母親は、LEDライトの様な物に暗闇ブラックアウトと言っていた。

  明かりをつける時は、光源ライトオンと言っていた。


  言葉を発した後、すぐに明かりがついたり消えたりしたので最初は音声認識か何かだと思ったが、テレビで見た魔法暦という文字を思い出し、音声認識では無くこれは魔法だと思い直した。


  俺も真似をして暗闇ブラックアウトと唱えてみたが、


  「あーうああーう」


  出てきた言葉はやはり赤ちゃん言葉だった。もちろん明かりは消えなかった。




  次に分かった事は、ここの家は裕福ということだ。

  建物は最低でも三階建て以上、部屋数は一階だけで八部屋。

 

  立地はまだ分からないが、外にはテニスコートが三面以上は作れるくらいの広い庭がある。


  しかし、この庭は広いだけで何も無いのだ。

  広い庭を何度見渡しても、地面いっぱいに広がる芝だけしか見当たらない。


  (さすがにこれは勿体無い⋯⋯テニスコートでも作ってもらおうかな?)


  俺は内心で庭改造計画を建てるのであった。




 そんな事を考えていられたのは数日の間だけだった。


  家の探索も一通り終えた俺は、風通しの良い場所を求めてハイハイをしていた時だった。


  突然庭からとんでもない爆音が聞こえてきた。


  俺は驚いたのと同時に、この謎の爆音に好奇心が湧いた。


  今の日本には魔法がある。もしかしたらこの爆音の正体が、魔法かもしれないと思ったからだ。

 

  俺は今出せる全力のスピードでハイハイをし、庭に向かった。


  そこで見たのは、見えない何かを家の塀に繰り出す若い男の姿だった。


  (え、誰だ?不法侵入か?)


  庭に知らない人が居れば誰でもそう思うだろう。


  俺は急いで母親に知らせに行こうとしたが、突然後ろから肩を掴まれた。


  あろう事か、そのまま抱き抱えられてしまった。

  俺は自分を抱きかかえている正体は、間違いなくさっきの謎の男だと分かった。

  今ここに居るのは俺と謎の男だけだからだ。

 

  (やばい、見ていたのがバレたのか。赤ん坊とはいえ殺されるのかな⋯⋯)


  抵抗しようにも赤ん坊の力では、全く歯が立たない。

  俺は抵抗する事を諦め、死を覚悟していた。


  しかし、その諦めは杞憂に終わった。


  「しんや」


  俺の事を抱きかかえている謎の男から、優しい声色でそう呼ばれたからだ。


  (確か、しんやは俺の今の名前だよな⋯⋯なぜこの男が俺の名前を知っているんだ?)


  生まれて一年もしない赤ん坊の名前なんて家族、もしくは親戚ぐらいか知らないはずだ。

  では、なぜこの男が知っている?

 

  俺はこの謎の男について考えようとした、

  その時だった。後ろから得体の知れないチクチクした何かを押し付けられた。


  俺は反射的に振り向いた。

 

  そこで目にしたのは⋯⋯


  「じょりじょりじょり〜どうだい?パパのお髭はくすぐったいかい?」


  楽しそうに髭を押し当ててくる謎の男だった。


  (何で髭を押し当ててんだよ!てかパパって誰のことだよ⋯⋯まさかこの謎の男が俺の父親なのか!?)


  正直言って、自分の家の塀に見えない何かをぶつけたり、いきなり後ろから髭を押し付けたりする男が、自分の父親だとは思いたくない。


  こうして俺と父親の出会いは、最悪の印象で終わったのだった。


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