凛耶の心情[3]
遂にこの日がやってきた。
今日は契約最終日。つまり、深夜と勝負をする日だ。
俺は深夜との勝負に期待をしつつ、万全の装備で如月紅夜の家に向かった。
案の定深夜は俺の事を待っていた。
「おう、深夜待たせたな」
俺はとりあえずお決まりの言葉を掛けた。
これはいつもの事で、俺が如月紅夜の家に行くと、必ずと言っていい程深夜が出迎えてくれる。
「いや、待っていない」
いつもの深夜なら、ここは超待ったとか言うのだが、今日の深夜は言わなかった。
(なるほど⋯⋯真剣ってわけか)
「⋯⋯そんじゃ始めるか⋯⋯隔離空間」
俺は深夜の意思に答えるように、無駄な言葉は言わずに隔離空間を発動した。
(なかなか仕掛けてこないな⋯⋯)
隔離空間を発動してから数分が経ったが、深夜の方からは仕掛けてこなかった。
(俺から仕掛けるか?⋯⋯いや、それは無しだ)
俺から仕掛けようかと思ったが、それは止めた。
それをしてしまうと、折角の楽しみを潰してしまう可能性があるからだ。
そんな事を考えていると、遂に深夜が動いた。
深夜は全身に強化をかけていた。
(まずは接近ね⋯⋯セオリーではないな)
普通魔法を使う者同士の戦闘は、小回りの効く魔法で牽制しつつ、大技を決め込んでいくというのが一般的な戦い方だ。
時折近接の武器を得意とする魔法使いも居るが、深夜はそれには当てはまらない。
(天才とは言え素人だしな⋯⋯)
深夜の戦闘スタイルを分析していると、既に五mの距離まで接近して来ていた。
「炎拳!!」
深夜は魔法を発動した。
(炎拳ねぇ⋯⋯まぁ通用しない事を教えてやれば戦術も変えるだろう)
俺は接近してくる深夜に、無発声で烈風を発動した。
俺の烈風を直撃した深夜は、三十mぐらい飛ばされていた。
「俺が接近戦に弱いと踏んだようだが、それは甘い⋯⋯それに俺は接近戦は苦手ではない。お前が懐に入れたとしても、何も出来ずに終わってたぞ」
俺は追い討ちを掛けるように、接近戦は苦手ではないと示唆した。
「そうかい⋯⋯ならこれはどうだ?」
しかし、深夜はまたしても接近して来た。
(⋯⋯馬鹿なのか?いや、作戦があるのか?)
俺は少し戸惑ったが、先程と同じく烈風を発動させた。
「烈風!!」
だが、俺の烈風は深夜の烈風によって相殺された。
「!?相殺か⋯⋯」
この事に俺は驚きを隠せなかった。
深夜は俺の無発声の魔法を相殺したのだ。
無発声の魔法を相殺するには、長年の経験が必要になる。
いくら天才とは言えど、実戦経験皆無の深夜に相殺出来る筈が無かった。
だが、俺は今になって思い出した。
深夜は贈り物持ちだった事に。
(深夜の贈り物は、魔法を見る事が出来る類の物だったか⋯⋯)
そして、深夜の贈り物の種類に気付いた。
(⋯⋯イカれた贈り物だな⋯⋯さすが親子と言ったところか)
俺はどこまで深夜が出来るのかを試したくなってきた。
(さっきより威力を高めたやつにするか)
俺は接近してきた深夜に、先程の数十倍の威力を誇る烈風を放った。
(さぁーて、当たったら腕は飛ぶかな)
俺は軽く腕を飛ばすつもりで烈風を放った。
「!?」
だが、深夜は突然炎拳の発動を止め、俺の烈風を完璧に避けた。
深夜は、一mmも掠らずに完璧に避けたのだ。
「やるじゃねーか!今のを避けるとはな」
俺は無意識の内に、賞賛の言葉を投げ掛けていた。
それと同時に、俺は深夜の秘策を見たいという欲求が湧いてきた。
俺とヤリあおうとしているのに、この程度の作戦で挑んで来るわけがない。
更なる秘策がある筈だ。
そう考えたら、俺はもう欲求を抑えられなくなっていた。
「おいおい、まさかこれで終わりじゃねーよな?」
俺は、烈風で抉れた地面を見続ける深夜に問いかけた。
「まさか、そんなわけないだろ?」
「なら、早く秘策を見せろ。こんなちまちました事をやってても、俺にかすり傷さえ与えられないぞ?」
俺の言葉を聞いた深夜は、逡巡した様子を見せたが、直ぐに決断をしたようだ。
「凛耶!俺は次の魔法で最後の攻撃にする」
「言うじゃねーか⋯⋯さっさとその魔法を見せてみろ」
深夜の言葉に俺は、自然と身構えていた。
「最後にもう一つだけ聞いても良いか?」
「あ?何だ」
「もし、俺自信が死ぬような技を使ったらどうする?」
だが、深夜は魔法を使用せず妙な質問をして来た。
こんな質問をするということは、おそらくだが深夜がこれから使う魔法は、自傷行為を伴う魔法な筈だ。
だからその魔法に恐怖を感じている。それ故に俺にこの質問をぶつけたのだろう。
ならば俺の答えるべき回答は、これしかない。
「そんな魔法お前が使えるとは思えねーが・・・・・・もし使ったなら打ち消してみせるさ」
俺は直接助けると言うのは気恥ずかしかったので、遠まわしにそれを匂わせる回答をした。
俺の回答を聞いた深夜は、軽く頷き魔法を発動した。
「水作成」
だが、深夜がそこまで言って使った魔法は、ただの水作成だった。
それも、その水作成で隔離空間を埋めて、俺の動きを封じる作戦に出たのだ。
「それが秘策か?⋯⋯俺の行動力を封じると言ったところか」
俺は思わず呆れて言葉に出てしまった。
「そんな事の為に使うわけないだろ?⋯⋯なぁ凛耶、水蒸気爆発って知ってるか?」
だが、対する深夜は違うと言い、唐突に水蒸気爆発について聞いてきた。
「あれだろ?大量の水と高温の熱が接触した場合に起こる爆発だろ⋯⋯お前まさか水蒸気爆発を起こす気か!?」
俺は深夜が水蒸気爆発という言葉を出した事によって、水作成を使った意図がやっと分かった。
だが、水蒸気爆発何て事を起こしてしまえば、深夜本人が死ぬ。
それにこれは魔法ではなく、魔法を使って自然現象を起こす技術だ。相殺する事なんて不可能だ。
打ち消すとは言ったものの、ここまでの事をしてくるとは思っていなかった。
「おい!深夜止めろ」
俺は心の底から叫びながら、深夜の事を止めに行った。
だが、俺には水属性の魔法が使えない。
更に、大量の水で移動が制限されている。
深夜の魔法発動までに、間に合うわけがなかった。
「凛耶今までありがとうな⋯⋯暴走熱量!!」
深夜は暴走熱量を発動させた。
これでもう、通常の手段では止められない。
「深夜!チッ⋯⋯あれを使うか⋯⋯歪み時」
俺は禁術である歪み時を使い、爆発した瞬間で時間の流れを変える事に成功した。
(ふぅ⋯⋯止めたは良いけどこれを使ってしまったか)
だが、俺はここからが正念場だと思った。
一般的に魔法の級位は、初級から天災級まであると言われているが、裏ではそうではない。
禁術魔法とは、世界⋯⋯地球その物に干渉する魔法の事を言う。
歪み時は、隔離空間内の時間の流れる速さを、千万分の一の速さまで遅らせる魔法だ。
もちろん、使用者には効果は掛からないので、隔離空間内だけは無双が出来る魔法だ。
しかし、デメリットがある。
隔離空間はその名の通り、世界から隔離された空間だ。
つまり、隔離空間内の時間の流れを遅くしても、地球の時間の流れは変わらないのだ。
それ故に隔離空間内の三秒は、地球の一年となる。
さらに、歪み時から解放された瞬間、時間の流れは地球本来の流れに戻る。
それ故に、使われた側は歪み時から解放されると同時に、肉体までもが急成長してしまう。
これが、歪み時が禁術魔法と言われる所以だ。
俺は出来るだけ影響を抑えるために、深夜の元に急いだ。
深夜と俺の距離は、約三十m。
俺の泳ぎで、十五秒で着いた。
そこから、俺が禁術魔法を使った事を隠蔽する為に深夜を気絶させる。
時間にして一秒。
隔離空間の発動を完全に止めるのに二秒。
合計で十八秒かかった。
(チッ⋯⋯六年か⋯⋯まぁ俺には身体的な影響は無いから良いか)
こうして俺は十八秒、深夜は六年の月日を経て、隔離空間内から無事に出る事に成功した。
これにて一章が終わりになります。
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