第6話 チャッピー
さっきまでいた活気のある街道とは違い、薄暗い雰囲気が漂う酒屋通り。
俺はリザさんに半ば強制的に連れられある人物に会おうとしていた。
ことはリザさんからの突然のお願いだった。
「少年!君のセンスを見込んで頼みがある」
「お、俺ですか?」
戸惑う俺へ間髪入れずにリザさんは続ける。
「実は知り合いにちょ――と問題児がいてね……お灸をすえてやりたいんだけど、中々相手になってくれる人がいなくて困ってたんですYO」
「でも俺、まだルールもまともに……」
「大丈夫、大丈夫♪負けても骨の一、二本で済むだろうし何かあったら全力で逃げればOK!」
「いや、そんないかにもな事に首を突っ込みたくないですよ!!」
「ただでとはいわないから!ちゃんとお礼はするからッッ!ね?」
正直関わりたくないので髭面にヘルプの目線を送ってみたが
「自分の食い扶持くらい自分で稼いで来い」
とでも言いたげな目をしながら顎であしらうだけだった。
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「さあ、着いたYO!少年」
そんなこんなで俺は厄介事の押しつけもといトラブルシューターとして古びた酒場へ来ていた。
壊れた椅子や折れたテーブルの脚が無造作に放置され荒れた様子が手に取るようにわかる。
床には壊れたビンが散乱しあちこちにあるワインのシミにはハエが集まっている。
「そろそろ来てる頃だと思うんだけど……」
リザさんがチラリと目を向けると店主は目線で奥の方だと教えてくれた。
軽く一礼し、床に散乱したビンを足で除けながら奥へと進んでいく。
それにしても妙だ。いくら昼間だといっても客が一人もいないなんて。
大抵、大衆酒場は昼夜関わらず多少はにぎわっているイメージがあるのに入って数分、今だ店主としか顔をあわせていない。
店の荒れ方といい、これから会う人物は思っていた以上にヤバいのかもしれない。
俺は額からにじみ出てくる冷汗をぬぐいながらリザさんの後をついていく。
「久しぶりですね……噂はかねがね聞いていますが、また暴れたそうじゃないですか……」
リザさんが声をかけた先にはピンク色の毛皮を被る物体がいた。
一目でわかる、ヤバい奴だと
「リザさん……。このチャッピーに話しかけるなんていい度胸してるッチャ」
少し不機嫌そうにダンディな声がリザさんへ反応する。
そしてさっきまで背を向けていたチャッピーはゆっくりとこちらを振り返る。
毛皮には可愛くつぶらな目と子犬を思わせる小さな口。
明らかに声と顔のイメージが合わない。
「リザさん……。まさか、お話っていうのは新人教育ってことッチャ?」
「YES」
一瞬の間があく。
その時間はおおよそ1秒にも満たないだろう。
だが、その間は妙に長く不気味に感じた。
「チャッピーは……なめられることが一番嫌いッチャねぇぇぇぇぇ !!!!」
激しい怒号と共にテーブル満杯のビンが四方八方へ一気に飛び散る。
体が動かない。
チャッピーから放たれる強烈なプレッシャーに俺は蛇に睨まれた蛙の如く、じっと息を飲むだけ。
「そんなにチャッピーと戦いたいなら戦ってあげますよ……」
刹那、部屋中を目がくらむほどの閃光がはしる。
同時に光に飲み込まれるように意識が遠のいてゆく。
「イエーーーーーーーーーーイ! チャッピーパラダイスの始まりーーーー!!!!」
怒鳴りともとれるチャッピーの声と共に意識が戻っていった。