第5話 ルール考えるのをやめた件について
「どういう意味ですか…」
警戒気味に俺はリザさんへ問う。
するとリザさんは困ったように少し笑みを浮かべる。
「えっ――と……そんなに警戒されても困るんだけど……なんか勘違いさせちゃった?」
か、勘違い?
意味深な物言いに構える俺へリザさんは付け加える。
「ゴメンYO…緊張してたからちょっとミステリアスな雰囲気を出してみてようと思ったんだけど……失敗みたいだね……」
リザさんの一言に全身の力が抜けていく。
そしてなぜか残念そうに肩を落とすリザさんを尻目に髭面は大きくため息をつく。
本当になんなんだ、この人は…。
とりあえず俺は気を取り直して髭面にさっきのことを再び聞き直す。
「その…お得意さまってどういうことですか?」
「ああ、実は俺はデバイスの修理をしていてな……リザはよく仕事を頼みに来るんだ」
「ちなみにデバイスっていうのはコレのことだ」
そういうと髭面は黒い長方形の機械を見せた。
「この機械にデッキを差し込むことでクロノアーツの力を起動させる」
髭面は持っていたデバイスをこちらへ投げ渡す。
「クロノアーツを扱うなら必要になるからな。お前にやる」
「おう!?珍しい型をあげるなんて大将、太っ腹!!」
茶化すようにリザさんは髭面の肩を揺する。
そして思い出したように俺へ話しかけてくる。
「よかったですね少年。偉大な魔装技術者様からこんな珍しい型をもらうなんて」
「魔装……技術者?」
「YES!平たくいうと魔力を制御するための装置を造る職人さんみたいなものです」
「そして大将はこんななりですけど、国家から実力を認められたすんごい人なんですYO!」
「なりは余計だ……」
意外にすごい人だったんだな…この人。
髭面の姿からは想像がつかない一面に俺は感嘆する。
ふとテーブルに目を移したリザさんが顎に手を当て神妙な面持ちで盤面を覗く。
「ふぅん…いい勝負になってじゃないですか……」
カードの配置を軽くみただけで今の状況を把握したのだろう。
リザさんはニヤニヤと髭面の方を見る。
「大将。こりゃ、一本とられたんじゃないですかァ?」
「まだ始まったばかりだ。どう勝敗がつくかなんてまだ分からんだろ。ただ…」
一瞬、髭面は言葉を止める。
その時、まるで察していたようにリザさんはつぶやいた。
「なかなかいいものをお持ちみたいだねェ。少年は」
こちらに顔を向け少し悪戯っぽく笑うリザさん。
いいものをお持ちって、下ネタじゃないですか…。
俺の頭に一瞬、思春期男子のような思考がよぎったが、リザさんがいっているのはそういうことではないことくらいわかった。
すると不敵な笑みを浮かべリザさんは髭面とアイコンタクトをとり始めた。