第3話 まさにgdgd
腹なんて減ってるとは思ってなかったけど体は正直だ。
俺は髭面に出された固いパンを勢いよく口に詰め込む。
「慌てるな。むせるぞ」
呆れながら髭面が水を差しだてくる。
「す、すいません」
「しかしなぁ。あんな街中で裸で寝そべってるなんて普通に考えて非常識すぎるぞお前。盗賊に身包み剥がされたのか」
盗賊みたいなアンタがそんなこと聞くか。
俺だってなんであんな所でぶっ倒れたのか知りたい。
俺自身、自分に何が起こったのか全く分からない。
まるでほとんどの記憶が抜かれたように頭が真っ白。
唯一覚えてるものといえば日常動作ぐらいだ。
「……覚えてないんです。何も」
「はぁ!?」
髭面は顔を鋭くしかめ訝しめにこちらを見てくる。
「本当に何も覚えてないんです。倒れる前の事どころか自分の名前も自分がどんな人間だったかも」
あからさまに「そんなバカげた話があるか」と言いたげな目をする髭面。
でも、本当に何も覚えていないのだから返答しようがない。
しばらく頭を掻きながら髭面は唸る。
狭い部屋をホコリと一緒にふけが舞い、薄い木の板のテーブルの表面に薄く広がる。
「お前が嘘ついてるとはいわねえが参ったなぁ。ただの浮浪児ならコキ使おうと思ったがまさか、ここまで問題児だったとは……」
いくら浮浪児だと思っても、いたいけな少年を家に連れてきて働かせようとか、完全に悪役の思考じゃないですか。
恩人に対して失礼だとは思うが正直な感想を頭の中で述べる。
「しゃあない!なら、いちから仕込むか」
すると髭面はいきなり立ち上がると俺の目の前へ立った。
「とりあえず名前を思い出すまで、お前のことはナナシと呼ばせてもらう」
安直なネーミングセンスでナナシになった俺へ髭面は懐からボロボロに錆びた鉄のケースを差し出す。
長方形で手の平より少し大きめなケースには不思議な印が描かれている。
「クロノアーツ。まずお前には外へ出る前にこれを覚えてもらう」
そう言うと髭面はケースに入っていた大量のカードをテーブルへ広げ始めた。