上
※こちらの作品は上下で終了予定です。
※行為、GL、吸血表現が雰囲気のみ含まれています。
私自身がグロ苦手なので残虐な表現はありません。
どうぞ、お楽しみください。
真夜中ー。
滴る真紅は甘くて
どんどん彼女の喉を潤してゆく。
そう、彼女は吸血鬼である。
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漆黒のベルベットのドレスに
ツヤツヤとした金色の髪を
背中に少し触れるくらいに
外側にカールさせていて
絹のような少し赤みを帯びた肌
そして人形のように長い睫毛
ルビー色の瞳
まるで映画に出てくる
レトロガールのような
出で立ちの彼女の名前は
『マリア』
皮肉にも
吸血鬼の嫌う十字架などのような
宗教的象徴の"聖母"の名前を
付けられている。
それには理由があるのだ。
それは
彼女は人間との混血。
すなわち『ハーフ』という事だ。
彼女には
太陽の光も十字架も
或いは大蒜も効かない。
しかし
人間の様に食事をして
その上
血液を摂取しなければならない。
家族を離れて
暮らし始めた彼女は一体
どうなるのか……
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彼女が血液に
舌鼓を打っている時と
同じ頃ー。
彼こと『アンゼル』は
ベッドの中に居た。
その隣には女性が居る。
お察しの通りだろう。
女性は未だ起きていて
彼を愛おしそうに
見つめている。
彼は舞台俳優をしているから
とても美しい顔をしているのだ。
白銀の髪
から
長い睫毛
まで
しかし彼は夢の中のようだ。
おや?
朝が近づき
彼は起きた瞬間
女性を外に放り出したではないか。
そう。
彼は
自分の愛した女性の記憶を
愛した次の日には
無くしてしまう人間なのだ。
果たして彼は
本当の愛を見つける事は出来るのか…
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昨日はかなりお酒を
飲み過ぎてしまったらしい。
派手に女性を家から
追い出してしまったようだ。
しかし彼女の名前も思い出せないし
彼女が何処の誰だか知らないし
もし
"もう一回帰っておいで
君の事は覚えてないけど"
なんて言ったら
平手打ちを食らうだろう。
嘘は苦手だから
極力吐きたくない。
そんな事を考えながら
外の空気を吸おうと
裏庭に出てみると
異様な光景が広がっていた。
今朝僕が追い出した女性が
世にも奇妙なほどに美しい女性に
首元から血を
吸われているではないか。
いやいやそんな事あるまい。
あまりにも衝撃的な光景なもので
目を奪われていると
吸血鬼らしき女性と目が合った。
彼女はそっと
血を吸った女性を置いて
こちらに向かって歩いてきた。
夢だと思うし
夢だと思いたい
何もこのまま
起きない訳が無いけど
何もこのまま
起きなければいいと思った。
そして彼女は言う。
『ここに住まわせて
頂いてもいいですか。』
それが僕とマリアの出会いだ。
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『マリアは掃除がホント好きだね。
吸血鬼は蜘蛛の巣と一緒に
暮らしてるイメージがあったよ。』
そうアンゼルは言った。
『普通の人間みたいに
蜘蛛を怖がったりはしないけれど
自分の住処を脅かされるのは嫌ね。
まぁ、私は特別にお掃除が
好きなのだけど。』
そう言って
マリアははたきをかけ続けた。
アンゼルは困った顔をして
話を続けた。
『マリア。そろそろ働かないの?』
数秒の沈黙の後
マリアは口を開いた。
『そうね。
アンゼルが私を雇えばいいわ。
私ったら賢い!』
どうしたらそうなるのか……。
アンゼルは呆れて
話を逸らした。
『そんなに掃除が好きなら
ハウスキーパーでもやったらどう?』
そんなこんなでマリアは
一人暮らしのお婆さんの
お手伝いをして働く事になった。
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舞台も千秋楽ー。
外を出れは
煌びやかに着飾った美女達で
溢れかえっている
その中でアンゼルは
今宵のお相手を探していた。
そして見つけたのは
黒髪のオリエンタルな美女。
豪華なレストランでディナー
そのまま家へ帰り……
と、ここまではいつも通り。
だがマリアが来てから
二人の生活は少し変わったー。
女性とアンゼルが眠っている部屋へ
忍び込む。
そして吸血するー。
女性はまた朝起きれば
追い出されてしまう
可哀想な存在だ。
吸血すれば記憶がなくなるので
女性自身も
彼の記憶を無くしてしまう
そして昨晩は
何も無かったことになるー。
アンゼルの屋敷こそが
現代に現れし
『Artificial paradise《人工楽園》』
となったのだ。
読んでいただきありがとうございました!