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世界最強は異世界でも最強ですか?  作者: 鯨鼠さん
世界最強は異世界に召喚されたようです。
8/23

<6>黒い影は魔物のようです

 巨大な影の魔物は、接近して来るユウをただ眺めていた。

 誘っているのか? とも思ったが構わず突撃することにする。


 影の魔物に剣が届く範囲に入るか入らないか、という所まで近付いてからユウはさらに加速した。

 その動きに影の魔物は付いてくることができず、上空へと(、、、、)吹き飛ばされていた。



「……ラァ!!」



 上空に向けて剣を振るい、斬撃を飛ばす。

 ユウが前の世界で使えるようになった数少ない技の1つである。

 ちなみにユウが魔法学校の大会で優勝した時に愛用した技でもあるのだ。


 斬撃は影の魔物をあっさりと斬り裂いた。

 真っ二つに斬り裂かれた影の魔物を見て、呆気なかったなと思っていたユウだがそれは間違いだと気付かされる。

 


「……! 再生した!」



 2つに別れた影の魔物は、すぐにその身体を結合させ、元の形に戻っていた。

 そして上空にいる状態のまま、ユウに向けて小さい影を飛ばしてくる。

 

 丸い形をした複数の影がユウに迫る。

 全てを躱せる量ではない。

 ユウは自分の身体に当たりそうな影の弾だけを弾きながら、滞空している影の魔物を観察する。

 丸い影の弾の威力は地面を凹ませる程度なので、あまり気にする必要はない。



「……」



 上空に蹴り上げたのは間違いだったか、と後悔していると影の魔物に変化が現れ始めた。

 小さな影の弾を繰り出すたびに、段々と本体も小さくなって来たのだ。

 このまま待っていればいずれ地上に戻ってくるだろうと、ユウは今は待ち続けることにする。



「……!」



 唐突に上空の影が掻き消えた。

 ユウは本能に従い、身体を回転させながら360度水平斬りをした。 

  

 その判断は正しかった。

 ユウの周りに小さな影が複数滞空していたのだ。

 水平斬りによって、その影たちは飛ばされ一箇所に集まり、元の巨大な影の魔物へと姿を戻した。


 

「……ダメージはないのか?」



 蹴り飛ばしても駄目。斬っても駄目。

 ユウができるのは殴るか斬るか。魔法は使えないので打つ手なし、だ。



「今更だけど……意思疎通できないか?」



 ユウは最初に出会ったら白い巨大な魔物を思い出していた。

 あの魔物は自称勇者を食い殺していたが、ユウに対しては敵意を持っていなかった。

 

 少し考え、無理だと判断する。

 こちらが攻撃する前にこの巨大な影はこちらを攻撃してきたのだ。

 友好的であるはずがない。



「攻撃が効かない、か。なら弱点を見つければいいだけだな」



 幸いこの影の魔物の動きは見切ることができる。

 それにこちらの攻撃には反応することができていないようなので、勝機はある……!

 

 斬っても身体が分かれるだけということがわかったので、剣は地面に突き刺して放っておくことにする。

 弱点を探すために影の魔物の全身を叩くことにする。


 影は人型なので股間から心臓、さらに顔の部分まで連続で打撃を加える。

 ついでに両手の異常に長い指の影も蹴り飛ばして見た。



『……小賢しいッ!!』


「しゃべったぁ!?」



 どうやら影にも発音器官はあったようだ。

 だがどこから音が出ているのか検討もつかない。



「おい、話せるなら最初から話せよ。お前なんで襲って来るんだよ帰れよ」


『…………黙れ人間。貴様に従う理由はないッ!」


「そりゃそうだけど……!」



 受けてばかりだった影の魔物がついに動き出した。

 長い指先を振り回し、ユウの動きを捉えようとする。

 

 影の魔物は指の間を広げたり縮めたりして、大雑把な広範囲の攻撃や一点に集中した攻撃を分けて使用している。

 一点集中型の攻撃は、威力は高いが躱しやすい。

 逆に広範囲の攻撃は大雑把なだけあって、躱すことは困難だった。



「ちっ!」



 地面に突き刺しておいた剣を回収して舌打ちした。

 相手を攻撃するのに剣は使えないが、相手の攻撃を防ぐには剣が必要だった。


 影の魔物の攻撃を剣で往なしながら隙を見て、打撃を加えていく。

 未だに弱点らしきものは見つからない。

 本当に無敵なのかもしれないという考えが浮かぶ。

 もしくは魔法でなければダメージを与えられない等。



『……ぐ、ゴバァ!』



 物理攻撃が全く堪えていないようなので、思わず剣で斬り裂いてしまった。

 上空で真っ二つにした時と同じように、再び影の魔物は2つに分かれた。  

 そして、丸い小さな影が複数浮かび……。


「!!」



 一瞬の閃き。

 ユウはすぐに実行に移した。

 

 丸い小さな影をさらに斬り裂いたのだ。

 するとどうだろう……。さらに細かくなるだけかと思われたそれは、増えることもなく消滅したのだった。 

 つまり、この小さな影を潰せば影の魔物を倒すこともできるということ……!



「やっと見つけた弱点! もうこっちのもんだ!」



 まだ丸い小さな影が複数中に浮いている。

 それ自体襲ってくることはないので、斬り放題である。



『人間が調子に……!!」



 調子が上がったユウは、踊るように動きながら丸い影を潰していく。

 丸い影を10以上潰したところで、影の魔物は元の姿に戻った。

 ユウの身長の倍以上だった影の魔物の大きさが、今ではもうほとんど同じくらいの高さになっている。

 ユウの仮説はあっていたようだ。 


 

「……!」



 影の魔物が小さくなったからと言って、決して弱くなったとは限らない。

 ユウは油断することなく、再び影を斬り裂いた。

 

 話かけるなんてことはしない。

 敵対するしか道がないのだから、倒すしかないのである。

 

 しかし、縦に斬り裂かれた影の魔物は、今までと同じように小さな丸い影を生み出すことはなかった。

 そのまま右半身と左半身に別れ、身体の面積を小さくし分身したのだった。



「新技!」



 よく見ると異常に長かった指が1つに纏まり、棒状の武器となっていた。

 2つの影は同じ意識を持っているのか、うまく連携してユウに反撃の隙を与えない。


 距離を離そうにも、前後に1体ずついるので難しい。

 横に飛んでも、すぐ同じように付いてくるので意味がない。


 力を込めて剣を振るおうとすると、すぐに別の1体が邪魔してくる。

 現状維持が精一杯だった。



「別人だったらいいんだけどな……」



 何が厄介かと言うと、この2つの影の連携が一番の問題だった。

 怪我するのを覚悟で突撃すれば倒すことはできるだろう。しかし、この世界の医療がどの程度の物なのかわからないので、あまり怪我をすることは避けたかった。

 かと言って、このままの状況だと結果はあまり変わらないようにも思える。


 それに、ちんたらやっているとジョンソンたちが帰って来てしまうかもしれない。目立つのは避けたいので、できれば彼らが帰って来る前に終わらせるか、逃げてしまいたい。

 ……と、



『終わりだ!』



 どうやって状況を覆そうかと考えた結果、露骨すぎない隙を見せてみようという結論に至ったところ、影の魔物は簡単に釣れた。

 やったことは簡単、足を滑らせて身体を傾かせたのである。

 すると、隙を見せたからか2つの影の連携はお粗末なり、状況を覆すこれとないチャンスとなったのだ。


 空中で体制を崩した状態から、空を(、、)蹴り一気に影の魔物に肉薄する。

 驚愕する気配を感じてさらに勢いをつける。

 2体いるうちの1体を、わざと遠くへ行くように打撃で吹き飛ばす。

 そして、残った1体の影の魔物を再生しないよう、連続で斬り裂いていく。

 

 首、手、足と斬り裂き、再生しそうな動きをした影はさらに斬り刻んでいく。

 全ての影が動きを止めたのを確認して、吹き飛ばした方の影に向かう。

 半身が消えた影響か、大分動きが鈍くなっていた。



『やめろ……!!』


「襲いかかって来たことを後悔しろ!」



 動きが鈍くなっていた影の魔物をなんなく斬り裂いて、戦闘は終了したのであった。

 一体何の恨みがあって襲って来たのやら。とユウが一息ついて、


「……外からの音やんでる……?」



 周りを見てみると、石造りの建物の壁には凹みができているし、地面には穴が開いているので、この場を見られたら何かあったことは明らかだ。

 ジョンソンたちが帰って来てこの場を見られたら、何か言われることは間違いない。



「くそー! 礼を言いに来たつもりだったのに逃げることになるとは!」



 捨て台詞を吐きながらユウはその場から急いで離れた。

 ……異世界は厄介事が多そうだ。



――――


「あら……? もうおかえりですか?」


「なんか、疲れたからお昼ご飯もらっていいですか……?」


「はい♪ 任せてください!」



 ユウは宿に戻って、食道のテーブルでうだうだとしていた。

 露店で昼食を取るのは、また今度になりそうである。


――――


「これはどういうことだ」


 人間の声とは思えない、機械染みた声が薄暗い部屋に響き渡った。

 その声の主の姿は見えない。

 しかし、薄暗い部屋の一室にいた女はその声に応えた。



「仕方ないじゃないか。まさかあんな奴がいたなんて予想できなかったんだ」



 囁くように、相手に聞かせるつもりのないような声音だった。

 しかし、それでも相手は聞き取ることができたようで、



「仕方ないで済ませるつもりか? アレが倒されたせいで、彼女《、、》の成長は大きく遅れることになるぞ」


「悪かったわね!! 言っておくけどあんたにだって予想できたっていうの!? 魔法で外敵を吹き飛ばすような脳しかない人間《、、》の中にアレを倒せる人間がいるなんて!!」



 囁くような声から一遍、女の声が激しいものへと変わる。



「……わかった。この件は不問とする。しかし代替になるものを用意しなければならない。このままでは計画に影響が出る」


「それに関してはもう次の手を打ってあるわ。まだ早いかと思ってたんだけど、アレを倒せる人間がいるなら問題ないでしょ」


「……くれぐれも力加減を間違わんように、な」


「はいはい」



 機械のような声が途切れ、薄暗い部屋の中で女が一息ついた。


 

 






 


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