<3>初依頼のようです
片やシャツ1枚。片や上半身裸という奇妙なパーティが出来上がっていた。
どこからどう見ても不審者2人組だが、幸い町を出るまで人とすれ違うことはなかった。
「へぇ。こっちからも外に出れるんだな」
「そりゃあ、おめぇ1箇所からしか外に出れないなんて不便だろ?」
「……そりゃな」
ユウたちが町の外に出た場所は、最初ユウが町に入った場所とは正反対の位置にあった。
前方に広がっているのは砂の大地。舗装された道はなく、あるのは転がっている大岩と、ぽつぽつと生えている木だけだ。
簡単に言えばここは砂漠だった。
「砂漠……? それにしてはあまり暑くないな」
日が傾いているとはいえ、まだ十分暑い時間帯だ。
それにシャツ1枚だというのに、そこまで日差しが強いとも思えない。
「ん? お前がいた世界じゃこういう所を砂漠って呼んでるのか?」
「……ここじゃそう呼ばないみたいだな」
「ああ。俺たちは砂地って呼んでる。別に名前に大した意味はないだろ?」
「……そういうものか?」
「そういうもんだ」
ムバムがガハハと笑う。
「さて、まだ時間があるとはいえ、日が暮れてからのウルファー狩りは面倒だからな。さっさと片付けちまおうぜ」
「ああ、頼むよ。……ところで、ムバムはその格好で寒くないのか? いや、今なら日差しとか大丈夫なのか?」
しつこいようだがムバムの格好は上半身裸というわけのわからない格好なのだ。
外の環境に対してもだが、これから魔物と戦うのに防具をつけなくてもいいのだろうか。
「ん? ああ、流石に夜までこの格好じゃちと寒いがな。さっさと終わらせれば問題はねえ。つか、これから戦闘で暑くなるのに上着なんて着てられるか」
「……そうか」
ユウはもう細かいことに突っ込みを入れるのをやめることにした。突っ込みを入れれる立場かどうかと言われれば微妙な立ち位置でもあるし、と。
ムバムが進み始めたのでユウもそれに続く。
町の外とはいえ、いきなり魔物に襲われるという展開にはならなさそうだ。
「今俺たちが探しているウルファーってのは、四足歩行で青い毛並みをした犬みたいな奴だ。この砂地じゃ結構目立つ色だからな。いたらすぐわかる」
だから周りをよく見て探せよ、とムバムが続けた。
そういえば、とユウはこの世界に来て出会った四足歩行の魔物を思い出す。
「ここに来て茶色の毛並みをした魔物を見たんだが、そいつらはウルファーって奴じゃないのか?」
「ほう。茶色の毛並みに会って生き残っていたとは」
関心したような声音でムバムは言葉を返す。
「茶色の毛並みをした魔物も恐らくウルファーだろう。だがそいつらは普通のウルファーから色が変わった姿だな。ウルファーの毛色は最初は青、次に茶色と変化するんだ」
「毛色が変わると強さも変わるのか?」
「強さが変わる、というより生きた時間で自然に色が変わるだけだな。といっても生きた時間が長いってことだから普通より強いのは間違いないがな」
「はー。面白い変化だな」
「うーん、俺らにとっちゃ常識だから面白いって感情はねぇな。ユウがいた世界じゃそんな違いはなかったのか?」
「俺がいた世界? うーん……、同じ魔物の強さの違いなんてあってないようなもんだったしな……」
「へぇ? それにしても、茶色に変化したウルファーから逃げ切るなんてユウは運だけじゃなく実力もあるようだな」
「……大した事ないよ」
「へへ、謙遜すんなよ」
一旦会話が途切れたが、そこに気まずさは無かった。
ユウは考える。
ここではウルファーの茶色毛並みを倒せれば、実力があると見られてしまうのだろうか、と。
ユウの実力は前の世界で言えば最強といっていい程の物だ。
魔法が使えない農民と蔑まれた中で魔法使いを圧倒し、世界を滅ぼすと言われた龍を1対1で倒す。
そんな実力を付けてしまったから、世界から排除されてここにいる。
だからユウはこの世界ではなるべく自分の強さを示さないようにしようと思った。
ウルファーを倒すだけで実力があると見られてしまうこの世界で、その何十倍もの強さを見せ付けてしまったら、もう誰もユウを人として見てくれないだろうから。
「なぁ。ユウの世界のこと色々話してくれよ」
「俺の世界のこと、ね……」
「そうそう。俺が手伝ってるのはそれが聞きたかったからよ!」
「あー……、そういえばそうだったな」
ここまでの道中ではムバムが上半身裸だったり、砂漠なのに気温がそこまで暑くなかったりと、ユウの今までの常識では考えられないことばかり起こっていたので、その報酬のことまで頭が回っていなかったのだ。
なんでも聞いてくれ、とユウが言うと自然と歩幅もゆっくりとなった。
ユウがいた世界ではどんな暮らしをしていたかとか。
どんな生物がいたとか。
どうでもいい話をしながら砂漠を歩いていると、ついに目的の魔物が姿を現した。
……探していたようには思えないが。
「お、いつの間にかウルファーがいるじゃねえか」
「……というより囲まれてるな」
6、7匹の青毛色ウルファーがユウとムバムを取り囲んでいた。
2人が話に集中している間に待ち伏せされていたようだ。
「ふむ、お前さんは茶色のウルファーを倒すくらいの実力があるから力に関しちゃ心配してねえ」
「俺は一言も倒したなんて言ってないんだが?」
「なぁに! 生き延びてれば倒したも同然よ!」
「その理屈はおかしいと思う!」
話している最中にウルファーは飛び掛って来たが、2人は気にせず話を続ける。
「で、だ。こいつの遺体を持っていけば依頼完了ってわけだが、殺すときに注意しなきゃならねぇことがある」
「続けてくれ」
ひょいっと身体の位置をずらしてウルファーの攻撃をかわす。
それに続いて2匹、3匹と体当たりを仕掛けてくる。魔物同士で連携する程度の知能はあるようだ。
「もう気付いていると思うが、依頼の報酬は明確に決まっているわけじゃない。俺たちが狩った魔物の死体の質で決まるんだ」
あと数でも変わるか、とムバムは続けた。
「全然気付いていなかったが……。っ、しまった」
飛び掛ってきたウルファーをユウは思わず蹴り上げてしまった。
ウルファーが短い悲鳴を上げ、空中に蹴り飛ばされる。
そこから着地にも失敗し、地面に叩きつけられた衝撃でコホコホと苦しんでいる。
「おっと、そいつはマイナスポイントだぜ。最高に良いって状態は死因以外何も傷ついてない状態さ。見てな」
そう言い終わると、ムバムは近くにいたウルファーに接近して拳を構える。
そしてよく見ると、ムバムの拳は赤く光っており、離れているユウの所まで熱気が伝わって来た。
「……あれは、魔法か? この世界にも魔法があるのか?」
答えはムバムの攻撃で明らかになった。
ムバムの拳がウルファーの身体に当たると同時に、ムバムの拳の赤い光が一層明るくなり……、
「ボォン!?」
ウルファーの悲鳴だけが空しく残った。
ムバムの拳を受けたウルファーはそのまま爆発四散し、見る影もなかった。
やっぱり魔法だったのか、とユウが納得していると、ふと違和感を感じた。
ウルファーが爆発四散した。
……死体はどこに行った?
「ムバアアアアアム!! てめぇ死体の質がどうとかこうとか言ってるくせに何欠片も残らないくらい吹き飛ばしてんだよ!? 死因が今の一撃だから四散してるのが最高品質だとでもいうつもりかあ!?」
「…………すまん、張り切りすぎた」
「あほー!」
こうしてはいられないとユウは急いでウルファーの方を見やる。この依頼の報酬次第で明日以降の服装と宿のありなしが決まるのだ、と気合を入れる。
今のムバムの爆発でウルファーは怯んでしまったのか、何匹か逃げの体制に入ってしまっていた。
ユウは剣を抜刀、逃げようとしていたウルファー3匹の頭を一気に両断した。
実力隠さないのか? とも思われそうだが、この魔物くらいなら倒しても実力があるというだけで、そんなに目立つことはないだろうという判断だ。
残りのウルファーの数は3匹。
だがウルファー同士が離れた距離にいるので、今のように一気に両断というわけにはいかなさそうだ。
「ムバム。近い方の奴逃がさないようにしててくれ。絶対、絶対手を出さないでくれよ」
「わかったよ! ったく完璧求めすぎじゃないか?」
爆発四散させる奴に言われたくはない。
ユウの剣は"固定化"の魔法がかかっているので、例えどんな使い方をしても刃こぼれする心配はないし、まして折れる心配もない。
だから、単純に力任せに、一撃で相手を絶命させるよう急所を狙う……!
ウルファーは悲鳴を上げる暇もなく絶命した。
先ほどから首を断ち切っているが、この場合質としてはどうなんだろうか。
ムバムが注意を引いている以外のウルファーを片付け、ユウは残りの1匹に取り掛かる。
が、それも今と同じように両断しただけなので割愛する。
「はぁ……。終わったか」
「おつかれさん! なんだよなんだよ! やっぱり俺が見た通り倒す実力あったじゃねぇか!」
「ああ……。まあ、柔らかかったしな」
少なくともユウが前の世界で相手した龍とは比べ物にならなかった。
……比べる対象がおかしいようにも思えるが。
「それで、こいつらはこのまま運ぶしかないのか?」
「ああ……。ここまで綺麗な状態で死体が残っていたことはなかったから俺も初めての経験になるが、その通りだ」
「ええー……」
ここでユウが声を上げたのは、死体をこのまま運ばなければならないからではなく、ムバムが狩ってきて中でこの程度の質が初めてだということに対してだ。
「なら今まではあの爆発させた死体でも買い取ってもらえてたのか?」
「そうだぞ? まあここまで細かくしちまったら報酬は低くなるがな」
「駄目じゃねーか」
何はともかく、倒したウルファーの数は7匹。
うち1匹は粉々になってしまったものの、残りの6匹は原型が残っているので、なんでも屋に死体を持っていけば依頼は完了である。
「……このまま運ぶならどっちにしろ服は汚れてたな」
「がはは! だから上は裸で十分なんだよ」
「…………でもこれ裸とか関係なしに持って帰れなくないか?」
ユウが倒した6匹はどれも頭と身体が別れているだけなので、荷物として持ち帰るにはあまりにも多い。
首を全て置いていくとしても6匹の身体、つまり1人3匹ずつ持って町まで帰るのは難しい。
「何言ってんだ? こんなの収納魔法でしまって帰ればいいだけだろ?」
「……魔法か」
「…………もしかして、ユウは使えないのか?」
「……その通りだ。俺は魔法はなに1つとして使えない」
「まじかよ!? 異世界人は魔法使えないのか!」
「使える奴と使えない奴がいた。俺は後者だっただけだ」
「あー……、なんかそこら辺は聞かない方がよかったか?」
「いや? そんなことはないが……」
何かおかしい物言いをしてしまっただろうか、とユウは顎に手をあて考える。
「いや、お前がそう言うならいいんだけどよ……。ただ、表情暗くなってたぜ?」
「……それは悪かった。気をつける」
「気にするもんじゃねぇだろ! にしても、魔法が使えない人間がいるとはな。俺らが住んでるここじゃ魔法使えない人間は誰1人としていないぜ。みんな体内に魔力があって、日常生活でも使ってばっかだ」
「……それって、魔法使えなかったら暮らせないレベルで魔法が普及してるのか?」
「いや便利になるくらいで、別に魔法を使わなくても暮らすことはできるぜ。それに、体内に魔力が無くなったら魔法使えなくなっちまうからよ。魔法が使えなくても不便なく暮らせると思うぜ」
「……なら大丈夫そうだな」
俺が回収しておくぜ。とムバムは言いながら魔物の死体を集め始めた。
彼が死体に手をやると、死体の周りが光で溢れ、少し経つと光と共に死体も消えた。
その間時間がかかりそうだったので、ユウは空を見上げながらこれからのことを考えようとしていたのだが――
空に広がる夕焼けが綺麗で、考えるは一旦置くことにした。




