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世界最強は異世界でも最強ですか?  作者: 鯨鼠さん
世界最強は勇者と旅に出たようです。
21/23

<19>




 第2国と第4国を線で結び、丁度その線の真ん中にある町から旅立つ人影が2つ。

 

 1人は異世界最強ユウクラリア。

 肌触りの良いもこもことした上着に、動きやすい無地のズボン。

 手には鞘に収まっている剣を持ち、所々それで地面を擦りながら歩いている。


 もう1人は世界から恐れられる勇者ロザ。

 銀の髪に銀の鎧。普段ならば彼女の雰囲気も合わさって、まるで幻想のように感じられるのだが、今はなんだか不満気な顔つきで台無しだ。

 そんな彼女は目の前を歩くユウクラリアの数歩後をしぶしぶ歩いている。

 その足取りは私不満です。と表しているようだ。



「……なんだよ」



 ついに耐え切れなくなったユウが勇者に尋ねる。

 それでも視線は正面に固定したまま、後ろの崩壊した町は見ないようにする。

 


「……なんだよ、じゃないですよ。私の誘い断っておいて、なんだも何もないじゃないですか……」


「いきなり世界を救ってくれなんて言われて、食いつく奴がいるか?」


「ならいきなりじゃなきゃ良い!?」


「っ!?」



 地面を勢いよく蹴り飛ばし、砂埃を立つのも気にせず勇者はユウの隣に急接近した。

 そんな勇者の目はキラキラと輝いており、ここ3日では見たこともない目をしていた。



「っ! 近い近い! 良いとも悪いとも言ってないだろ!」


「なら良いって言って! なんでも説明するから! 勇者のことなら勇者にお任せだよ!」


「だから判断するために説明しろって言ってんだろ!? お前町から出てから態度……てか言葉使い変わりすぎじゃないか!?」



 ぐいぐい身体を押し付けて来る勇者を手で退け、勇者から距離をとる。

 とても不満そうな勇者だったが、我慢することにしたようだ。



「態度って、貴方は私の何を知ってますか?」


「あん?」



 言葉使いがいきなり戻って、ユウは不審な声をあげる。



「勇者である私はこの3日で知っているかもしれません。ですが、普段の私を貴方はどれだけ知ってると言うのですか!!」


「……朝弱かったり、変なところで抜けてたり、貞操観念が低かったりするのも勇者の顔か?」


「わー! ごめんなさい! それは勇者ではなく普段の私ですー!」



 貞操観念が低いというのは、朝無防備な状態でドアを開けたり、異性がいる風呂に普通に入って来たりしたことを指す。

 勇者はごほん、と咳払いをしてから。



「それでは、何から聞きたいですか?」


「また勇者モードだな」


「……普段通りの方が良いですか?」


「勇者の仮面被ってる方が楽ならそれでいいけど。そうじゃないなら俺しかいないんだから、通常ってかお気楽モード? で良いんじゃないか?」


「お気楽モード……。なら普通に話しますけど……」


「難儀な奴だなぁ」


「注文の多いユウくんのせいだよ」


「…………」



 突然のくん呼びに、少なからず衝撃を受けるユウだった。

 思わず勇者の方を見つめてしまったが、彼女はそれに気が付いていない。



「そうだねー。何から聞きたい? 時間はたくさんあるから聞きたいところからで良いよ?」


「時間ねぇ……。そういえば次の町までは1日じゃ辿り着かないんだもんな」


「全力で走れば半日だけどね」


「……」


「……?」


「いや、それなら走った方が良いんじゃないかなーって」


「その答えはね。勇者と関係があるのですよ……」



 ふ、ふ、ふ。と暗い表情で笑いながら、勇者は人差し指をくるくる回している。

 


「原則勇者は! 国と国を渡る時に走ってはいけないのです!!」


「…………は?」


「なぜかと言うと、勇者は強くなる為に旅をしているからです!」


「……お前説明下手なんだな」


「はうっ!?」



 勇者はその場に倒れこみ、頭を地に着けて私落ち込んでます! というようなアピールをする。

 が、ユウはそれをスルーして1人歩みを止めることはない。

 

 ちらちら勇者の方を見るが、彼女はまだ復活しないようで――



「ユウくん。止まって」



 凍えるような勇者の声で、ユウは咄嗟にその場で停止した。

 彼女は落ち込んだポーズから起き上がり、魔法で剣を作り上げた。



「どう、したんだ?」


「…………っ!」



 ユウの横すれすれを魔法の剣が通り過ぎる。

 ユウは自分に当たらないと判断していたので、身体を動かすことはなかった。

 

 勇者の剣はユウの横を通り越し、さらに進んでいく。

 剣は重力に従い地面に落ちて……



「ガラガァ!?」


「ふー。危ない危ない」



 勇者が投げた魔法の剣は、ただの地面に見えた魔物に突き刺さっていた。

 魔物は苦しみ悶え、やがて動かなくなった。



「…………」


「余計なお世話だった?」


「……ありがとよ」



 ふふん、と威張っている勇者の顔が腹立つ。

 頭をぽりぽり掻いて、なんとか気を紛らわすことに成功する。



「と、まぁ。こんな感じにでてくる魔物の退治も勇者の役目なんだよ」


「へぇ?」


「国と国を旅するのは勇者だけじゃないからね。一般の人が通る時に少しでも危険が減れば良いなって思ってる」


「ほんと、魔物多いな」



 今周りを見渡した限りでは魔物の影はない。

 あの巨大な魔物の影響のせいかもしれないが、今となっては少ないに越したことはないのだ。



「そういえば、地面に擬態してる魔物はいたんだな」



 まだそれほど町から離れているわけではないので、少しだけ不思議に思うユウだった。



「んー、多分今のは地面に潜って隠れてただけじゃないかな。あの魔物の気配がなくなったからすぐ出てきたんだよ。きっと」


「なるほど。なら、もう少ししたら普通の魔物も増えそうだな」



 魔物の肉が途切れることはなさそうだぞ、と別れたトオヤに向かって気持ちを送る。

 そんなこんなで2人は歩みを再開する。



「とまぁ、私たちが歩いて国を渡る理由はこんな感じかな」


「なるほど。んじゃ本題だが、世界を救うってどういうことだ?」


「そうだね……。ユウくんは勇者って何の為にいるかわかる?」


「ええ……? ……俺の中の勇者は、魔王を倒すためにいる」


「その通り!」


「え」



 ユウが目的を当てたことに対して、何の驚きも感じていないといった声音で勇者は続ける。



「勇者がいるのは簡単! 魔王を倒すため!」


「おいおい。本当に目的は魔王なのかよ」


「魔物の王。だから魔王。単純だね。わたし達勇者の目的は魔王を倒して自由になること! そのために5年に1度の間隔で西の大陸に沸く魔王を倒しに行くのが最大の使命!」


「……5年に1度?」


「はい。魔王は5年に1度復活するの。今は4年と少し過ぎているので、もう少しで倒しに行けるんだ」


「……倒してどうするんだ? 5年に1度復活するなら、倒したところで自由になんてなれないだろ」


「勇者は西の大陸で魔王を倒すと自分の力を失える(、、、)の。それは倒した本人だけじゃなくて、その時西の大陸にいる全ての勇者が力を失う――つまり、勇者は使命から開放され自由を得ることができるの」


「それじゃあ5年毎に勇者は全員消えてるんだな」


「いや、魔王に挑戦できる勇者は5人だけ。つまり解放される勇者は最大でも5人しかいないの」


「……なんで?」


「そこまでは私も……。そういう決まりだからとしか」


「怪しい、なぁ!」



 地面から出てきた魔物を蹴り飛ばしながら返事をする。

 その魔物は平べったく、ユウの前世でいうエイのような形をしていた。ここは海ではないが。



「……会話の最中に割って入ってくるなんて、命知らずだね……」


「だから命散らしてるんじゃないか」



 もう力を隠す気がないユウの一撃を喰らった魔物は、地面に落ちる前に絶命していた。

 死体を回収する気もないので、魔物の見た目も酷いことになっている。



「それで?」


「ん?」


「私の旅について来てくれる?」


「……なんで?」


「え?」


「いや、勇者の目的が魔王を倒しに行くというのはわかった。だけど、何で俺が行く必要がある?」


「…………」


「勇者5人で行う魔王退治に、勇者でも何でもない一般人を連れて行く必要があるか、てことだ」


「ふふ。一般人なの?」


「一般的ではないことは確か……。て、それは今いいんだよ」


「うん」


「それで、旅に付いて来いっていう理由は何だ? どうして俺に付いてきて貰いたい?」


「理由を話せば来てくれる?」


「まぁたそうやって……」



 はぁ、と大きくため息。

 ユウがどうしてそうしているのかわからないのか、勇者はきょとんとして目で見ている。

 諦めたような口調で、ユウは話を再開した。



「考えてやるよ。納得できたら一緒に行っても良い」


「本当? 私が貴方に来て貰いたい理由はね」



 ぴょん、と飛び跳ねるようにして勇者はユウの前に立ち、



「一緒に行きたいって、そう思ったから!」



 満面の笑みで勇者はそう言った。

 初めて勇者の笑顔を見て、固まっているユウを気にせず言葉は続けられた。



「勇者である私と普通に会話してくれて。見詰め合ってくれて。……お風呂も入ってくれて。貴方と一緒に旅ができたら良いなって。そう思ったの」



 それが理由かな。

 と照れたように勇者は笑った。

 


「……一緒に行きたいからって、なんだよそれ」


「おかしいかな?」


「さぁな。俺にもわからない。……それにしても、一緒に行きたいからかぁ……」


「不満そう……」



 確実にユウのため息の数は増えていた。

 歩みを止めた2人はしばし見詰め合う。

 その見詰め合いは、覚悟を決めたユウが、



「…………保留」



 と言葉を捻り出すまで続いたのだった。











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