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世界最強の原点 下


 魔法学校に入学する農民の数は全員で50人だった。

 俺以外の村が9つもあったことになる。

 

 俺以外の農民は皆が皆暗い表情をしていて、そこに会話はなかった。

 これからどうなるのか少し不安たが、自分でどうにもできないので大人しくしているしかない。

 

 俺たち農民は魔法学校へと連行されるように連れて行かれ、そこで暮らすことになったわけだが、環境は最悪の一言に尽きた。

 まず与えられてた部屋が酷いものだったのだ。

 

 具体的に言うと天井にはクモの巣。床には黒く汚れたシミがついていたり、壁に穴が開いていて外の寒さを防ぐことができなかったり、さらには布団が用意されていないと来た。


 ……なぜ俺たちを入学させたかったのだろうか。

 という疑問は、魔法学校の授業が始まってから解消されるのだった。



 魔法学校は前世の学校と同じような作りで、違和感を感じることはなかった。

 ここでは農民に対しても机は用意されていたが、教科書や筆記用具といったものは与えられることはなかった。

 農民はそれぞれ5人ずつ違う教室に配属され、横一列に並んで座らされていた。

 場所は教室の一番前。

 俺以外の農民は顔を青くしながら俯いていた。


 魔法学校での初めての授業は何事もなく進んだ。

 教師は農民を目に入れないようにしていたが、俺からしたら問題はなかった。

 魔法について知りたいとは思っていたし、面白い授業だったので退屈もしない。……隣に並んでいた農民たちは苦しそうにしていたが。


 魔法学校に入学した当初はしばらく同じ状況が続いた。

 劣悪な部屋で日々を過ごし、教室の真ん前で授業を受ける。

 普通の農民はそうだった。


 が、俺はそれだけではつまらなかったので、魔法学校の中を探検したり、周辺の町に出かけることもあった。

 外出は許可されていたのだが、少なくとも同じ部屋の農民は怯えて部屋から出ることはなかった。 


 そんな中で1人、仲良くなった魔法使いがいた。

 その魔法使いは生徒ではなく教師だった。その教師は生徒から人気があまりないらしく、俺が話していても生徒から変な目で見られることはなかった。

 ……なんでこんな奴と話しているのだろう、という不審な目で見られることはあったが。


 なぜそこまで人気がないのかというと、彼が使える魔法は固定化魔法というものだけで、戦闘には使うことができないものだから、らしい。 

 固定化魔法というのは、言葉通り物質等を固定するもので、主に建造に使われるものだ。

 だが、彼が使う固定魔法は物質には使えなく、人間に作用するものという話だった。

 

 彼はその固定魔法で、生徒たちの魔力を固定させる仕事をしていると語った。

 いわく、魔法使いの魔力の最大値を固定させているらしい。


 ……魔力というものにピンとこなかった俺に対して、彼は親切に語ってくれた。

 魔力というのは、魔法使いが持っているもので、農民に例えると体力と同じだという。 

 魔法は無制限に使うことができるわけではなく、使えば魔力というものを消費して、魔力が無くなれば魔法は使えなくなるらしい。


 魔法を使えば使うほど、身体に貯めておける魔力の量が増える。

 しかし、逆に魔法を使わないでいると、貯めておける魔力はどんどん減ってしまう。

 そこで彼の固定化魔法の出番が来る。


 魔法を使い上昇した魔力の最大値をそこで"固定"させることによって、魔法を使わないでいても魔力の最大値を減らさないようにすることができるのだ。

 所謂セーブ機能のようなものかと納得した。


 なぜ魔法使いたちはこんな便利な魔法ちからを下に見るのだろうか。

 と疑問には思ったが、そんな関係ないことより俺は固定の魔法を身体能力にも反映できないかと考え、彼に固定魔法をかけてもらうように頼むことにした。

 彼は快くそれを引き受けてくれて、俺は身体能力も固定されるか実験を行うことにした。

 1ヶ月何もせずにいても今の力が落ちなければ、彼の固定化の魔法は魔力だけではなく筋力も固定できるという証明になるだろう。


 

――――



 1ヶ月経った。

 以前と比べても、筋力が落ちた様子はない。

 彼の固定魔法は筋力にも通用することが証明された。

 

 そのことを報告すると彼は喜んだ。

 魔力以外も固定することができるというのは、色々と応用が利くらしい。

 ……であれば、なぜ今まで試したことがなかったのだろうか。謎である。


 彼との関係はそれからも変わらなかった。

 魔法使いの生徒や、他の教師との関係も向上したというのに、俺との交流は続けてくれていた。

 

 俺はというと、彼以外とは友好関係を誰とも築くことができていなかった。

 農民たちは積極的に魔法使いと関わろうとする俺を嫌悪し、魔法使いは農民である俺に良い感情を向けることはなかった。


 そんな日常が続いていた所、固定化使いから文字の読み書きを教わることになった。

 今更だがこの世界の文字は前世のものとは全く違い、農民である俺たちは学ぶ機会がなかったので文字を知りもしなかった。

 なので、その提案はありがたく受けることにする。


 なぜそんなことをいきなり始めたのか疑問に思い尋ねたが、彼ははぐらかすばかりで答えてはくれなかった。

 だが、その答えは後日知ることになった。



「テストをやるので教科書はしまうように」



 ある日のこと。唐突に教師が言葉を放ちプリントを配り始めた。

 その時だけ農民である俺たちにも筆記用具が配られ、テストを受けることになった。


 ……なるほど、と。固定化使いの彼がなぜ文字を教えてくれたのかその理由がわかった。

 農民である俺たちは基本的な読み書きすらできない。それに対してテストなんてもっての外だ。

 だから彼は俺に文字も読み書きを教えてくれたのだろう。


 幸い俺は授業をまじめに聞いていたので、文字さえわかれば問題を解くことはできる。

 しかし、他の農民は文字を読むことさえできないのだ。これではどうやっても点数を取ることはできない。

 

 時間が過ぎテストが終わる。

 隣の農民のテスト用紙を見ると、当然ながら白紙だった。

 その農民は青い顔をしながら、俺のテスト用紙に文字が書いているのを見て困惑していたが気にしないことにした。



 テスト返却が終わると、魔法使いたちの態度が一変した。

 テストが0点だった農民を攻撃するようになったのだ。

 俺の他にもテストで点数を取っていた農民は少しだけいた。なんでも、一部魔法使いと仲が良くなり文字の練習をしていたらしい。

 

 テストで0点を取ってしまった農民は無能の烙印を押され、魔法使いのストレスの捌け口となっていた。

 テストが終わると、魔法の実技授業が始まった。


 そこで無能と呼ばれた農民は、魔法使いの試し撃ちにいきなり攻撃される、また魔法がどんな効果があるのか示すために無理矢理見本にされたりと、人間として扱われなくなってしまったのだ。

 

 そんな状況になって1ヶ月。農民の数は50人から23人まで減ってしまった。

 魔法使いに殺された農民や、この状況に耐えられなくなった農民が自殺してしまった結果である。


 ……これが本来の魔法使いの姿なのかと思うと、あまりにも醜くくて吐き気がする。

 固定化使いがそっち側でないだけマシと思うしかなかった。

 

 俺は改めて強くなると決意する。

 魔法が使えなくても魔法使いに勝てると証明して、他の農民がこれ以上虐げられないようにしたい。

 

 身体能力を固定してもらえることによって、身体の能力は飛躍的に上がった。

 筋力が落ちないというのはここまで影響があるのか、と改めて固定化魔法の恐ろしさを知る。

 固定化使いは、俺が魔法使いを倒そうとしていることを知っていながら協力をしてくれていた。

 だが、突然その関係は終わることになった。



「この学校に居れなくなった」



 唐突に固定化使いは告げた。

 あまりにも突然のことで、俺は最初彼が言っていることが理解できなかった。

 彼が学校に居られなくなった? 

 ……何が原因かなんて分かりきっている。俺が原因だ。

 

 この学校で一番目立っている農民は、自惚れるわけではないが俺だ。

 魔法使いの実技授業で狙われる農民を庇ったり、朝早く起きて身体を鍛えては固定化使いの所へ向かい、魔法をかけてもらう。


 そして授業も魔法使い以上に集中して聞いている(筆記用具など提供されていないため聞くことしかできない)し、テストの点数も悪くはない。

 

 こんな生活を続けていれば農民の中では目立ってしまうだろう。

 そんな俺と特に仲良くしている教師がいれば……目を付けられてしまうのもわかる。

 

 もしかしたら彼には何か警告があったのでは?

 そう思い尋ねると、苦笑しながら肯定した。

 

 だが、俺との関係をそんなもので終わらさせられるなら、この学校から出て行った方がいいと彼は語った。

 その気持ちは素直に嬉しかった。

 嬉しかったが、その結果がこれでは俺は申し訳なくて、どう言葉をかけていいのかわかずただ俯くことしかできなかった。


 そんな俺に彼は一振りの剣を手渡ししてきた。

 曰く、彼が物に対して唯一固定化魔法をかけた剣というものだった。


 ……彼は物に対して魔法をかけれないという話はどこにいったのだろうか?

 尋ねると、俺に固定魔法使っているうちに、物に対しても使えるようになったのだとか。

 

 彼は言った。この剣を使い魔法学校の大会で優勝して欲しいと。

 その大会は年に1度だけある大会で、優勝者には1つだけ叶えられる範囲の願いを聞いてくれるという。


 俺は彼に誓った。

 この剣を使って優勝し、今の農民の状況を変えて見せると。

 彼は満足そうに笑い、実家に戻ると俺に告げると2度と姿を現すことはなかった。



 大会の内容は簡単にいうと1対1の決闘で、トーナメント式だった。

 この魔法学校の大会が行われるまでに、さらに農民の数は減ってしまっていた。

 残っているのは俺を含めて14人しかいない。

 ……なんとしてでも優勝して、今の農民の状況を変えなければならない……!

 

 俺たち農民は魔法が使えないという理由で、大会には参加はしないで良いとなっている。

 そこへ参加したいといって、大会に参加できるかが問題だ。

 しかし、それは杞憂に終わった。

 

 最初俺は参加を拒否されるかと思ったが、魔法学校の教師たちは喜んで参加させてくれたのだった。

 学校で目立っている俺を、魔法大会で殺してしまおうという魂胆があるのかもしれないが、こちらとしては好都合である。


 

―――


 

 大会で優勝した。

 魔法使いたちを全員倒して達成感があったかと問われれば、そんなになかった。

 逆に、この程度なのかと失望したくらいだった。

 

 学園長に農民の状況を変えろと願ったら、俺たち農民は元いた村に戻されることになった。

 ……魔法使いたちは俺たちを魔法の的にしようとしていただけだったようだ。

 

 俺以外の農民は村に帰って行ったが、俺は1人魔法学校の外の町に残ることにした。

 今更家に戻っても邪魔になるだけだろうし、あの村に戻ってももう幸せを掴みとることはできない気がしたからだ。





――――



 出会いを求めて旅を始めた。

 本音を語り合える相手か恋人が欲しい、なんて考えながら旅をしていたが気の合う者には出会うことができなかった。


 魔法使いは俺が農民と知ると態度を変え、農民は強い力を持っている俺を恐れて近付いて来ることはない。

 怯えた表情で見られるのも、もう慣れてしまった。


 俺はなんのために強くなったのだろうか。

 最近よく疑問に思うようになった。

 

 いつか大切な人が出来たときに守れるよう力を付けたはずだった。

 俺は一体何を間違ってしまったのだろう……?


 



――――



 世界を滅ぼせし古龍(エンド・ドラゴニア)という伝説の龍が次々と町を灰に変え、世界を滅ぼしにかかっていたらしい。

 なんでも、封印を誤って解いてしまったのだとか。

 

 その龍が目の前に来た。

 古龍のサイズはそこまで大きくはなかった。

 精々10メートルかそこら。想像では龍というのはもっと大きいものと思っていたので、驚きは少なかった。

 瞳は黄金。 

 肌は灰色

 口からは鋭い牙が生えていた。

 羽を広げ、尻尾を逆立てて威嚇をしてきた古龍は、俺を敵とみなし襲って来た。



 

 だから倒した。

 腹をぶち抜かれた古龍は地に墜ち、対して俺は目立った外傷もなくその場から立ち去った。

 それにしても、これが本当に世界を滅ぼすと言われていたのだろうか?



――――



 ………………どうやら、人類は俺を消すことにしたらしい。

 古龍を倒してからしばらくの年月が過ぎた頃、俺は一人暮らしてる家の中で魔法の気配を感じた。

 

 俺に魔法は使えないが、なんとなく魔法が来るような感じはわかるようになったのだ。

 俺は今隠居というか、誰とも関わりを持たないように森の中で暮らしていたのだが、それでも人類は俺を敵と決めたようだ。


 なんとなく上空に魔法の気配を感じるので、この周辺全て吹き飛ばす気なんだろう。

 この範囲の魔法は、魔法使い1人で使えるようなものではない。複数の魔法使い同士協力して呪文を完成させようとしているのだろう。学校で習った。


 ……逃げようと思えば逃げれるかもしれない。

 だけど、もう逃げようとも思わなかった。


 もう俺はこの魔法で死んだ後のことを考えていた。

 また同じように違う世界に転生するのか? 

 それとも今度は意識すら無くなるのか。


 どちらでもいいか。と結論付けた所で、俺は光に包まれて……。

 意識が――。



 ……………………誰かが呼んでいる?


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