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世界最強は異世界でも最強ですか?  作者: 鯨鼠さん
世界最強は異世界に召喚されたようです。
19/23

<17>白く巨大な魔物のようです




「っ! ~~~!! なんなんだよあれ!! 殺す気まんまんじゃねぇか!」


「ええ!! この町ごと滅ぼす気なんでしょう!」



 屋根伝いに移動しながらユウと勇者は叫び合っていた。

 白く巨大な魔物は、一度町を蹴り飛ばしてから今のところ動く様子はなかった。

 

 体勢を整える時間はありそうだが、整えたからといってアレをどうにかできるとは思えなかった。

 たった1撃で町の一角が消し飛ばされてしまったのだ。

 ただの(、、、)人間が束になったところで、一体何ができるというのだろう?



「フーリさん大丈夫ですか?」


「は、はひ……」



 勇者に抱きかかえられているフーリがなんとか声を絞り出す。

 ちなみにユウが運んでいるトオヤは既に気絶済みである。



「……それで、どこに行くんだ? このまま走り回っても、あの怪物に狙いをつけられたら終わりだぞ?」


「闇雲に走っているわけではありません。町の人たちの様子を見てどこに集まるのか探っているところです。……ユウさんは避難場所知っているんですか?」


「俺が知っているわけないじゃないか」


「だからですよ!」



 屋根伝いに走るのをやめ、地上に降りたユウたちは町の中心部へ向かう。

 人の流れがそこに向かっているからだ。

 白い魔物に吹き飛ばされた場所が、町のはずれだったのは不幸中の幸いだ。

 人がほとんど住んでいないので、死人はほとんどいないだろう。



「……とりあえず、中心に向かいましょう」


「…………流石に勇者でもアレの相手は無理なのか?」


「やってみないとわかりませんが、やりましょう。ですが、まずは人々の安全が優先です。迂闊に手を出してあの魔物に暴れられ始めた方が厄介です」


「……了解」



 町人の慌てようは凄まじいが、誰も町の外に出ようとはしていない。

 町の中心部に集まるのには理由があるのだろうか?

 

 しばらく町を歩いているとムバムに見つかり、



「なんでも屋に集まってくれ!」



 と言われたのでなんでも屋へ向かうことになった。

 フーリとトオヤを放っておくこともできないので、連れて行くことにする。



「っ!」



 なんでも屋に入ると一気に空気が変わった。

 あちこちから勇者だ……。などと呟きが聞こえる。


 なんでも屋には受付のアリアや、門番のジョンソンやイズミ。

 その他にもなんでも屋で活動していたメンバーが集まっていた。

 


「この建物の中からじゃアレの動きが見えないが大丈夫なのか?」



 集まれと言われて来たものの、今白い魔物にここを襲撃されたら一溜まりもない。

 


「今のところは問題ありません。外の者があの怪物を見張っていますので。……それにしてもまずいことになりました」


「……あんな魔物見たことねぇよな」



 他のなんでも屋で活動しているグループが会話に入ってくる。



「アリアさん。あの魔物の情報はないのか?」


「申し訳ありません。あのような魔物の情報は1つもありません。そもそも、アレほどの巨体を持っているのは"国喰い"しか判明していません」


「国喰いと同列扱い……冗談じゃねーよ!」


「…………国喰いってなんだ?」



 嘆いている人を横目にユウは勇者に尋ねる。



「国喰いっていうのは、文字通り国を食べようとしてる魔物です。……なんですが、その魔物は巨大すぎて国の兵力だとただの的当てになっているので、さほど脅威ではないんです」


「ちなみに、この町くらいだったら……?」


「……すぐに食べられてしまうでしょうね」


「…………どうすんだよこれ」



 ユウが本気を出せば、あの白い魔物に対抗することはできるだろう。

 しかしそうなってしまうと、町の人たちに実力がばれてしまうわけで……。



「今戻ったぞ! 声をかけられる奴には全員かけてきた!」


「ありがとうございました」



 ユウが深い思考に入る前に、ジョンソンが入って来たので一旦その思考を打ち切る。

 いつも座っているアリアが立ち上がり、なんでも屋の中心に移動した。



「今日集まってもらったのは言うまでもありません。突如現れたあの魔物に関してです」



 なんでも屋の誰もが黙って、アリアの言葉の続きを待つ。



「つい10分前に現れたあの白い魔物は、たった2歩で町の塀を破壊し、町の一角を消し飛ばしました。……正直、どうすればいいのか私もわかりません。……何か意見を聞かせて貰いたいのが本音です」


「……逃げる」


「降参する!」


「諦める!!」


「ふざけないでください!!」



 あははと少しだけ笑いが漏れ、若干空気が軽くなる。

 だが、ふざけている場合ではないのは事実だ。

 咳払いを1つ。アリアが話しを続ける。



「……あの魔物が動き出す前に今後の方針を――」


「方針って言っても、討伐するか逃げるかしかないだろ」



 アリアの言葉を遮って、ユウは声を上げた。



「だが逃げたとしてどうなる? 森から町まで二歩で来れるらしいじゃないか。そんな奴からどうして逃げられる? ……方針も何も、倒すしかないだろ」


「っですが!」


「幸いこっちには勇者がいる。彼女を主体にして、どうにかするしかないだろ」


「…………勇者様はどう思いますか」



 アリアは勇者に話しかけるが、勇者は室内から魔物がいる方向を見るだけで質問には答えない。

 すると、外で見張りをしていた町人が慌てた様子で入ってくる。



「大変です! あの魔物が動き出しました!!」


「糞!! このままじゃ町が無くなっちまうぞ!」


「っ!」



 全員が一気に外へ出ようとする中、ユウは勇者の方へ向かって、



「……勝てるのか?」


「…………私は勇者ですから。あれくらい倒してみせます」


「……俺は――」


「ユウさんは!」



 聞き慣れない勇者の大声に、きょとんとしてしまう。



「ユウさんは、ここで待っていてください」


「……」


「前みたいになりたくないんでしょう?」


「だけど――」


「大丈夫です。勇者を信じてください」


「…………」


「あと、魔法が使える(、、、、、、)皆さんに援護を頼みます。と伝えるのが貴方の仕事です」



 そう言うと勇者はなんでも屋の天井全てを吹き飛ばし、魔物の方向へ向かって行った。

 ユウにはそれを見送ることしかできなかった。



「あの……勇者様は大丈夫なんでしょうか?」



 やりとりを見守っていたフーリが小さい声で疑問を放つ。

 


「……わからない。だけど、どうすることもできない……」



 このままの生活を続けるなら、勇者を1人で行かすことしかできない。

 勇者1人で巨大な魔物を倒せればそれでいいが、駄目な時は……。



「ユウさん、今はとにかくここから離れましょう?」


「……そうだな」



 勇者がいなくなってしまったので、フーリを背中に負ぶさりながらユウは移動を開始した。




――――



「……格好つけて見たものの、私1人でどうにかできるかなぁ」



 誰にも声を聞かれなくなり、勇者は1人ぼやき始める。



「大体、こんな巨大な魔物がいるならなんで誰も気が付かなかったんだろう?」



 身体に魔力を循環させ身体能力を強化。

 魔力で剣を作り、戦闘の準備をする。

 

 勇者というのは全体を一まとめにした言葉である。

 他の勇者と差別化する時に彼女はこう呼ばれる。

 魔剣の勇者、と。

 

 しかし、彼女――ロザは剣と魔法を使うのが得意というわけではない。

 剣の腕はそこそこだし、魔法も単体ではそこまで大規模なものが使えるというわけではない。

 どうして魔剣の勇者と言われるか。それは、



「せやぁぁぁぁっ!!!」



 気合と共に、魔法の剣から飛ばされたのは火の塊。

 その塊は白い魔物に近付くに連れて、段々と大きく、そして鳥の形になり――



『っ!!』



 火の鳥は白い魔物に巻きついた。 

 そのまま魔物を焼き尽くすことができれば良いのだが、残念ながら耐性があるのか燃え尽きることはなさそうだ。

 このまま町に倒れられると困るので、ロザは火の鳥を操り白い魔物を後ろに仰け反らすことに成功。


 厚い上半身に比べ、細い手足の魔物は自身の体重を支えることができなくなり後方に倒れる。

 町を消し飛ばされた時と同じくらいの轟音が響き渡った。

 細い手足のくせに、体重は重いようだ。



「大きいから鈍いのかな」



 何はともあれ大きな隙が出来たので、ロザも大きい技の準備をする。




――――



「……すげーな、勇者ってのは」



 火の鳥が魔物を押しているのを見て、ユウは思わず呟いた。

 再び町の中心に移動したユウは、フーリとトオヤと共に屋根の上で勇者の戦いを眺めていた。

 屋根にいるのは、人の多い下の道を歩くよりは何かあった時に逃げやすいからだ。

 


「はぁ……何で年下の子に守られてんだろ……」



 思わずため息が漏れてしまう。

 一緒に戦う力はあるのに、一緒に戦えばもっと安全に魔物を倒せるかもしれないのに――どうしても動きたくない。

 ユウには勇者みたいに派手な魔法は使えないけど、前の世界で鍛えた力がある。

 あの魔物がどんなに硬くても、切れ味が固定された剣があれば……。剣が……、



「……ああ!!! 宿に俺の剣置いてたの忘れてた!!」


「え、ええ!? 私の宿はもう粉々になっちゃってますよ!? 多分!」


「いや、壊れる心配はないんだけど……。ああもう! なんで常に持ってなかったんだ!」



 勇者があのまま魔物を倒してくれればそれでいいが、もしもの時に剣がないと戦術が一気に減ってしまう。

 勇者の方を見ると、白い魔物に雷を落としているようで、今のところ心配はなさそうだが……。



「大事な物なんですよね?」


「……ああ。前の世界で、唯一友人といえた人がくれた剣なんだ」


「だったら、取りに行きましょう!」


「……危険だぞ。何かあったらどうするつもりだ」


「その時はユウさんが守ってください♪ 信じてますから!」


「…………わかった。すまないが、探しに行くぞ」


「はい!」 



 ユウはフーリとトオヤを抱きかかえ移動を始める。

 フーリの宿があった場所に行くということは、勇者が戦っている場所に近付くということなので、危険が増すのは避けられない。

 しかし何が起こるかわからない現状では、戦場から離れた場所にいてもらうよりも、一緒に行動してもらった方が安全だ。

 

 移動中、戦闘の余波で建物の残骸が飛んで来ることがあったが、特に問題もなく宿があった場所まで移動することができた。



「……見事に壊れちゃってますね」


「……そう、だな」



 何て声をかけていいかわからず、フーリの方を見ることができない。



「まぁ、2分もあれば直るんですけどね」


「えっ」


「ふふ。私こう見えても建設系の魔法は得意なんです♪ 勇者様があの魔物を倒してくれれば大儲けです!」


「…………ああ、だから宿に人がいなくても大丈夫だったのね」


「えへへ」



 ……やはり魔法はずるい。と思うユウだった。

 辺りを探している間も、戦闘の音が止むことはない。

 早く剣を見つけてここから離れたいが、中々見つからない。


 フーリと二手に分かれて探すことができればいいのだが、何かあった時に対応できないので近くにいて貰うしかない。

 しばらく探していると、気絶していたトオヤが目を覚ました。

 何が起こっているのか把握していないようで、少し混乱している。



「な、何が起こってるの!?」


「トオヤ。あんまり大きな声出しちゃ駄目ですよ。今大きい魔物に町が襲われてるんです」


「ええ!? …………た、食べられちゃうの?」


「かもしれません。なので、ユウさんに守ってもらいましょう!」


「わ、わかった!」



 後ろでそんな会話が繰り広げられていても気にしてはいけない。早く剣を見つけてここから離れなければいけないのだか――



「っ!!」



 背後から何かが急接近してくる気配を感じて、ユウは即座に振り向き気配が何なのか確認する。

 それは勇者だった。

 自ら飛んでいるのではなく、魔物に吹き飛ばされたようで着地することもできなさそうだ。



「っごは!?」



 丁度こちらに吹き飛ばされていたので、ユウは勇者を抱きとめた。

 だが生身ではなく、鎧に守られている勇者を抱きとめた衝撃は凄まじいものだった。

 ……正直抱きとめるのではなく、衝撃を和らげる程度にすればよかったと後悔する程だ。



「な、なんでユウさんが!?」


「げ……元気そうだな。くぅ……格好つけて受け止めなきゃよかった……」


「な、な!? それは私が重いってことですか!」


「あんな勢いで飛んでこられたら重いわ!!」


「ふ、二人とも! 後ろに魔物いるんですよ!」


『……すみません』



 声を合わせて謝る2人だが、今はそんな場合じゃない。



「そうだ……! なんでユウさんたちがここに? 来ちゃ駄目って言ったじゃないですか!」


「……その、大事な剣を取りに来たんだ」


「剣と今の生活どっちが大事なんですか! ああもう今はそんなこと言ってる場合じゃないんでした……!」


「……倒せそうなのか?」


「………………」



 魔法を白い魔物に放ちつつ、勇者は何と答えていいか迷っていた。

 正直に言えば……、



「……難しいです、ね」


「そうか」



 白い魔物は勇者の魔法に慣れたのか、面倒くさそうに手で払うだけで魔法はかき消されてしまう。

 追撃してくる様子はないが、勇者の魔法が効かないとなると、これからの展開は厳しいものとなるだろう。



「あ、あった」


「え? お、凄いなトオヤ! お手柄だ!」


「えっへん!」



 建物の下敷きになっていた剣をトオヤが見つけ、ユウに手渡す。

 これから何かありそうな気がした時は、剣を手放さないようにしようと決意して魔物に向き合う。



「トオヤ。ありがとな。悪いんだけど、フーリとトオヤはあっち見ててくれるか?」


「え? ええ、わかりました」


「うん。わかった」



 剣を鞘から抜きながらユウは2人にお願いする。

 そして剣を両手で持って、



「と、いうわけで。今なら勇者以外には見られていない」


「……いいんですか」


「このままじゃどうしようもないだろ」



 白い魔物に倒されることもないが、倒すことも出来ない。

 このまま戦闘を続けて不利になるのは勇者だ。いつかは魔力切れを起こして魔法を使えなくなる。

 ならば、ここで一気に倒してしまった方がいいと判断する。


 この距離には誰もいないし、勇者を受け入れることができるフーリとトオヤにならば、実力がばれてもいいと思えた。

 だから、



「俺があいつを縦に斬る。それで倒せればそれでいいが、多分真っ二つにはできないだろうから、出来た傷口目掛けて魔法を撃ってくれ」


「……斬れるのですか? あんな巨大な魔物」


「全力で行くからやれる」


「……わかりました。合わせます」


「よし!」



 思えばこの世界で全力を出すのは始めてだ。

 影の魔物の時も、トオヤを助け出す時も戦闘は本気でやっていたが、全力は出していなかった。

 ……全力なんて出したら、町の人間にどうやっても実力を誤魔化すことができないからだ。

 だが今は隣に勇者がいる。

 全力を出したとしても、誰もユウがやったとは思わない!



「っ!!」



 剣は上から下に振り下ろすのではなく、下から上に振り上げられた。

 ユウが直接斬りに向かうと思っていた勇者は反応が遅れたが、すぐに意識を白い魔物に集中させる。

  

 飛ばされた斬撃の速度は、意外と遅い。

 だがそれでも問題はなかった。白く巨大な魔物は、斬撃が飛んで来ていることにすら気が付いていないのだから。


 予想通り白い魔物は動くことがなかった。斬撃は厚い上半身を縦に斬り裂くことに成功する。

 白い魔物は、突然上半身を斬り裂かれ驚愕の声を漏らした。 

 今までの戦闘で始めてできた"傷"だ。



「燃やし尽くせ!」



 勇者の号令と共に、飛び出たのは最初に見た火の鳥だった。

 火の鳥が現れたと同時に、魔物の顔色が変わったような気がした。

 

 しかし、もう何もかもが遅い。

 油断していた魔物は予想外の一撃を受け、さらにそこへ勇者の火の鳥の追撃を受けることになったのだ。


 火の鳥が魔物を包み込む。

 今度はかき消さされることはないだろう。

 火の鳥は魔物が逃げられないよう外から自身の羽で魔物を押さえ込み、その他の炎で傷口から内部を焼こうと入り込んで行く。

 


「……ユウさんは勇者わたしより強いんじゃないですか?」


「相性の問題だな。俺は勇者が魔物にやったみたいに魔法をばかばか撃たれたらすぐ死ぬぞ」


「……なるほど。ユウさんに魔力がないのが残念ですね」


「あったら何するつもりだったんだよ……」



 白い魔物は動くことはない。

 暴れることも悲鳴を上げることもなくあっさりと絶命したのだろうか?



「わぁ……ユウさんと勇者様が一緒に戦ったら瞬殺でしたね!」


「すごーい! 勇者様もユウさんもすごーい!」


「……暢気だなぁ」


「ふふ、でもよかったじゃないですか」



 勇者が微笑みながら、



「怖がられることはなさそうですよ?」


「…………よかったよ」



 思わず息を吐き、白い魔物からフーリたちの方へ向こうとした瞬間――。



『感謝しよう』


「っ!?」



 声が聞こえた。

 町全体に響き渡ったであろうその声は、倒したはずの魔物から聞こえていた。



『貴様らのおかげで、漸くこの身体から出ることができる』


「勇者!」


「はい!!」



 何かやばい気がして、ユウと勇者はそれぞれ斬撃と魔法を魔物に向かって放った。

 しかし、それは効果をもたらせなかった。

 ユウの斬撃は腕にはじかれ、魔法は防がれすらしなかった。

 

 魔物の傷口からナニかが出て来た。

 それは肌の色を黒色にかえた、巨大な魔物だった。

 

 非常に細い手と足。異常に厚い筋肉を持った上半身。その丁度真上にある顔の大きさも白い時と同じくらい。

 ただ違うのは全身を黒く染め、瞳が眩く光っていることくらいだろう。

 

 つまるところ、黒く巨大な魔物が無傷で君臨していた――。


 

いつもお気に入りありがとうございます!



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