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世界最強は異世界でも最強ですか?  作者: 鯨鼠さん
世界最強は異世界に召喚されたようです。
10/23

<8>迷子を捜すようです 上

「外に出たってどういうことだ? まさか宿から一回も出たことがないってわけじゃないよな?」


「違います! 町の外に出てっちゃったんです!」



 ベンチで和んでいたユウのところに、焦った様子でフーリがやって来たのだった。

 服装は普段通りだが、走って来たせいで髪型が乱れている。



「……とりあえず落ち着いて。なんでトオヤが町の外に出たって言い切れるんだ? 普通に町にいるかもしれないだろ?」


「それが……こんな書き置きを見つけて……」



 フーリが差し出したのは一枚の紙だった。

 そこには書き殴ったような文字で『南の森にあるエーデルを見つけてくる』と書かれていた。



「エーデル? なんですかこれ」


「エーデルっていうのは、昔から度胸試しに使われる花なんです。ここに書いているように南の森に生えるって言われてるんですけど、滅多に見つかることはないんです……」


「そんなものがあるのか……。でも、トオヤがこの手紙を書いていない可能性もある」


「どういうことですか?」



 フーリが首を傾げる。



「普段からトオヤが悪戯したりする奴ならこういうことがあってもおかしくない。だけど、俺が知ってるトオヤは少なくとフーリを心配させるようなことさせないと思う」


「それは……そうですね」


「うん。だからフーリさんも少し落ち着くれ。俺が宿から出て行ってからの出来事を教えてくれないか?」


「はい……。少し待ってください」



 深呼吸を繰り返してから、フーリが話し始める。



「ユウさんが宿から出て行った後、あの子も宿から出て行ったんです。どこに行くの? て聞いたら町の友達と遊んでくるって言って。普段から町の子たちと遊ぶことはよくあったのでその時は何も気にしていなかったのですが、宿の掃除が一段落して部屋に戻ったらこの紙が置いてあったんです」


「……その時の部屋の様子で、気になった所とかは?」


「…………ごめんなさい。慌てて出てきたのでわからないです」


「そっか……。とりあえず南の門の方に行ってみよう。門番もいるはずだし……、というか、門番なら子供が町の外に出ようとしてたら止めてくれるんじゃないかな」


「……そ、そうですよね! 最初に門に行くべきでした!」


「それだけ慌ててたんだから仕方ないよ。急ごう」


「はい!」



 と言ったものの、フーリは靴ではなくサンダルのようなものを履いてるので、走るには少々辛そうだ。

 さらに様子から見ると、ユウを探すのにもかなり時間がかかっていて疲労が溜まっていそうだった。



「フーリさん。無理しない方がいい。俺が確認してくるから」


「で、でも私黙っていることなんてできないです!」


「それなら、なんでも屋に行って依頼を出しに行ってもらえないか?」


「……ごめんなさい。私の手持ちじゃ依頼を出すことはできないんです……」


「……そっか。なら急ごう」



 そういう理由があるならユウを頼ったのもわかる。

 なんでも屋に依頼できるなら、最初からそうしているだろうと今更ながらに考えが行った。


 だがサンダルで走らさせるわけにもいかない。

 移動も遅くなるし、途中で転んで怪我をされても困る。

 なので、



「最初に謝る。ごめんなさい。あと舌噛まないように……!」


「へ? っきゃ!?」



 ユウはフーリを抱き上げ地面を蹴った。

 夕方のこの時間は人通りが多いので、下の道を通ると走ることは難しい。

 なのでユウは上を選んだ。

  

 建物の上なら誰かにぶつかる心配もないし、足の力加減さえ間違えなければ屋根を壊すこともない。

 少々目立ってしまうことが難点だが、知り合いの命がかかっているのでそんなことは言っていられない。



「あわわ……速いです……!」


「荒い移動で悪いな」



 屋根を蹴り、時には壁を蹴りユウは移動する。

 これでもフーリを抱えているので、自重はしているのだが……。


 3分程度でユウとフーリは南門に辿り着くことができた。

 だがフーリは目をぐるぐる回している。



「……すまない。大丈夫か?」


「だ、大丈夫ではないですけど……あわわわ……」


「……すまない」



 どうしようもないので、ユウは謝ることしかできなかった。

 足元が覚束おぼつかないフーリの手を引いて、ユウはジョンソンたちがいる小屋に向かった。

 今門を見張っているのは、名前の知らない門番だった。



「ジョンソン! 今大丈夫か?!」


「誰だ……てユウじゃないか。どうしたんだ? ……とその女性は?」


「ああ、今話す。悪いんだけどこの人、フーリさんって言うんだけど、座らさせてもらえないか? 体調が悪いんだ。……俺のせいで」


「後の言葉は聞こえなかったが……。どうぞ、お座りください」


「あ、ありがとうございます」



 頭をくらくらさせているフーリはすぐに椅子に座った。

 飲み物を取ってきます、と言って小屋にいたイズミが席を立ち、ユウはジョンソンに向き合った。



「実は、彼女の子供が南の森にあるエーデルってのを探しに行ったらしいんだ。でも森に行くにはここを通るしかないから、子供が通ってないか教えて欲しいんだけど」


「子供は誰1人として通っていない。しかし、町から出るのはここから以外にも道があるのは知っているだろう?」


「知ってるが、子供の体力で他の門から森まで行けるとは思えなくてな……」


「ふむ……一理ある」



 イズミが飲み物を持って来てくれたので、ユウとフーリは受け取った。

 一口のみ、息を整える。甘くておいしい。



「……まだあの子は町にいるのでしょうか」


「言い切れませんが、その可能性は高いでしょう」



 話を聞いていたイズミが答えた。

 


「……ここから出ていないなら可能性は低い……よな。ジョンソン、何か外の方でおかしい様子とかあったか?」


「いや、特に何もなかった」


「そうか。ありがとう。一度戻ろうフーリさん。もしかしたら宿にトオヤが戻ってるかもしれません」


「そう……ですね。わかりました。一度戻りましょう」


「突然来て悪かった。今度何か奢るから許してくれ」


「これくらいで奢らせたりしないぞ」


「ええ。この程度門番の仕事のうちの1つです」



 笑いながら門番2人は答えてくれた。 

 


「何かわかったら教えよう。なんて名前の宿にいるんだ?」


「あ、はい。ミイロ・アルザムという宿を経営しています!」


「ほう。ユウは中々高い宿を選んでいるようだな」


「え、高いことで有名なのか? ま、いいけど、じゃあ何かあったら頼む」



 フーリを再び抱えて、ユウは小屋から出た。

 抱えなくて大丈夫ですー! という悲鳴を無視してユウは再び走り始めた。

 最初より遅く走ったはずなのだが、それでもフーリは目を回してしまった。



――――


「トオヤ! いたら返事して!」



 宿についてフーリが中に戻っていく。

 ユウは宿の周辺を観察してから宿に入った。

 

 留守にしている間に、宿の中が荒らされた形跡はない。

 フーリの宿が目的というわけではなさそうだ。



「……嫌な感じがする」



 ユウはいつもとは違う何かを感じていた。

 でもその違和感が何かわからない……。

 宿の中にトオヤがいないことを確認してから町に探しに行こうとフーリが戻って来るのを待っていると、



「ユウさん! 来てください!!」


「っ!?」



 フーリの悲鳴のような叫びを聞いて、ユウは駆け出した。

 声は2階のフーリの部屋から聞こえたので、急いで向かう。



「どうした!?」


「み、見てくださいこれ……」



 フーリが持っているのは一枚の紙。それも、最初に見た南の森に行くと書いてあった紙と同じものだった。

 


「……どういうことだ?」


「読んで、ください……」



 震えている手で手渡された手紙には、トオヤの居場所が書かれていた。



「『子供は預かった。日が落ちてから1人で南の森に来い。さもなくば子供の命はない』か。どの辺りとか指示しとけよ……」


「……どうして」


「フーリさん?」



 震えた声で呟くフーリの方を思わず見ると、彼女は何かを堪えるように俯いていた。



「わたし……頑張ったんです。あの人がいなくなって1人でトオヤを育てて、なんとかここまで生活を続けて来れたのに、なんで……」



 ぽろぽろと涙を零しながら言葉を紡ぐフーリに、ユウはどんな言葉をかけていいかわからなかった。



「……ごめんなさい。ユウさんに言ってもどうしようもないですよね……。結果はわかりきってるかも知れませんが、行って来ますね」


「……と、待った」



 すぐにでも宿から飛び出して行きそうなフーリの両肩を押さえつけて、ユウは引き止めた。

 フーリは困惑したような表情をしている。



「なんですか……? 離してください。早く行かないとトオヤの命が……」


「ああ。だから待てって言ってるんだ」



 ハンカチでフーリの涙を拭きながら言葉を続ける。



「その紙には1人で来いって書いてたけど、別にフーリが来いって書いてたわけじゃないだろ?」


「え……?」


「最近身体動かしてなかったからな。それに、お気に入りの宿が潰れるのはよろしくない。というか、こっちのが本音だ」


「……なんで、ですか? 放っておけばいいじゃないですか。わたしが戻って来なかったら好きなだけここを使ってくれて構いませんよ? それに危険な目に会わなくて済みま――」


「心配してくれるのか。優しいなフーリは……」



 フーリの頬を手で撫でて、彼女の言葉を止める。

 

 前の世界で心配などされたことがないユウはその言葉が新鮮で、何と言ってフーリを説得しようか悩み、



「大丈夫、俺は死なないから。ちょっと遅めの夜ご飯でも作って待っててよ」


「…………譲っては、くれないのですね……?」


「フーリが行くより、俺がトオヤを助けに行った方がいいって言い切れるからな。昼間の男にいぢめられちゃうフーリよりは、強い自信があるぜ」


「も、もう!」



 瞳に涙を溜めながらも、ようやく笑みを見せてくれたフーリにユウも微笑む。



「任せてくれるか?」


「断っても、行く気まんまんじゃないですか」


「ああ、諦めが肝心だ」



 困ったように笑いながら、お願いします。とフーリは頭を下げた。





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