Fは8、1/450秒のラチチュードの下で。1
第25毛 「Fは8、1/450秒のラチチュードの下で。1」
*
地下に巣食う、ガウィの巣穴はAの字形で、入口は慌ただしく見えてしまう。
それは朱と碧、二体のガウィがギチギチと口器を鳴らし門番として待機しているからだった。
おぞましい。それでも対峙する彼女は、唇を妖しく尖らせた。桃色の一本結いを靡かせて、汗がキラリと地面に落ちる。ご自慢のピンクの魔法装束は返り血で汚れ、任務に対するひたむきさは、容易に見て取れた。
「こんばんは、蟲さん」
ユーディは疑問に思っていた。目の前の泥で出来た塚は、朱と碧の、他属性――、混合した二色のガウィのモノだ。
まずは、多属性である魔物が友好条約性巣窟とした理由がわからない。
そして、朱と碧の兵隊がいるという事は、女王は二体ということになる。
もちろん、前例など聞いたことがない。二体の女王で、統制はどうなっているのか、わからない。
「…………」
巣穴の入り口へ歩み、徐々に彼らが守るべきテリトリーに、攻撃射程距離に近づく。
生まれつき様々な形態を持つ、個性的な種々で未来が決められている彼ら。
いつか、姫が産まれても選ばれなければ、兵隊のまま死んでゆく蟻モンスター。――その、駆除。
「自らの生き方に疑いを持てず、ただ進み続ける兵隊、か」
ユーディはアイオラの顔が浮かび、ひとりで任務をこなす方が向いていると腹が立った。
桃色の詠唱サークルを展開させつつ、心魂の聖槍を握りしめて、駆けようとした。
「平凡な強さを持っていて、幸せそう。――だから、殺してしまいたい」
沸き立つ殺意の存在に、違和感。
――殺す?
目の前の二体のガウィは意志はなく、ただの本能で女王を守るために、世話をするために生きている。
気にする事はない。それなのに、妬ましい。平凡だけが、妬ましい。
――なんで?
無作為に生まれる殺意に耳がキーンと遠くなり、ぼやける視界。
――意識が霞み、景色は溶けた。
ルチル・ゾンネンゲルブに負けた、あの時と同じ。そう、思った。
《………ゃ……ひゃ………ゃ》
ねっとりとした汚い、笑い声の幻聴。――聞いたことはある。
私は、薄れた意識の中で泣きながらシディアを抱きしめた。
その前だ、その前の声。唾液の糸を引いた唇に、潜んだ、者。
意識に私ではない誰かが、やはりいると確信をする、間もなかった。
ゴキッ。
低くて重たい、鈍い響きは月夜をつき抜けて、自分の影の色に不思議と似合っていた。
キシキシと口器から聴こえる特有の牙を研ぐ音は、ユーディの耳の奥底へ後から付け足すように届いた。
不協和音と共に身体は宙へ飛び、地面にすぐに叩きつけられて、跳ねる。
転がる石ころに、焦点を合わせようとするが、合わない。
《……ひゃ……ひゃ……ゃ》
背中を撫でるように、気持ちの悪く通った甲高い声が、さらにヴィオラの“音色”と重なる。“音色”は今まで聞いたことはなかった。
微かな意識に痛みは広がり、感情は殺意でしかない。
冷たく響いた独特のヴィオラの音色が心に沁みて。
深紅の血はゆっくりと顔面を濡らしてもなお、余ったように地面へ広がり――、詠唱サークルは閉じた。
先ほどの一発。不意の一撃は、金槌状の腕で助かった。腹を殴られ、肋骨がやられただけだ。
しかし動けない。目の前に碧のガウィが横たわる彼女の額を狙い、槍型の腕を振りかぶった。こいつを食らうと確実に助からない。
額を貫かれる恐怖――、痛い。死ぬ。
殺意の感情は水泡のように、なおも膨れるが“妬ましい”を主軸とするこの気持ちはルビィ・スカーレットを襲った時の、殺意と同じものとは気がつかなかった。
《……あーあー、テステス。――なんだ、繋がったと思ったら死にかけてるじゃねえか。やっぱりてめえは落ちこぼれみたいだなあ、淫乱魔法使い》
ユーディは自身の指をピクリと動かすことが出来たが、地面を掻くことしか出来なかった。
――淫乱魔法使い。久しぶりに言われた。どこのどいつか知らないやつに、罵られた。
だが、そんなことはどうでもいい。今の現状、腹が立つ要因の排除をしたい。
殺意が沸いているにも関わらず、目の前の雑魚をバラバラにすることが出来ない。
悔しいと叫びたかった。叫べなかった。その言葉が思いつかなかった。
――ヴィオラの響きが消え、ギシリと節足を動かした音でさえ、耳に聞こえなくても。
《お前は、国にとって必要がない、下衆な魔法使いなんだよ》
「ユーディさんは国を支える、立派な魔法使いですわ」
すっと掠った。聞きたくはない言葉と、もう一度聞きたい思い出の言葉が複雑に混じり合って、突風のように心を過ぎて、へし折って。涙が頬をすらりと濡らす。鋭い矛先が風を斬り、額を貫くその前に、言うべき言葉が脳から喉へと走った。
――自分が“死ぬ”と、下衆な声へ“死ね”。双方が一緒になっている言葉は存在しない。
しかし、ユーディは見つけることが出来た。言葉を口に出すことが出来た。
「ありがとう」
それは彼女の本質を裏切った言葉で、この場に限りなく近い言葉だった。
おもわず、唇がゆるんだ。
「――ありがとうって、そんなことを言う方だったんですね。ユーディさん」
わかっていた。目が霞んでいたとしても、その高貴な魔力の色に、ピリピリと肌を針で刺すような電気の痛みは、嫌でもわかるのだ。あの時と同じで静かに怒ってくれている。
ゆっくりと彼女へ焦点を合わせた。
――守ってくれた金髪のお嬢様は、ナイトキャップのパジャマ姿にウサピィの人形を引っさげて。
「必ず、守ります」
彼女はご自慢の聖剣を振るい、敵を見失わないように金色で綺麗な瞳を真っ直ぐ向けて、いとも簡単に真っ二つにした。じんわりと消えてゆく殺意は裏返り、感謝は生まれた。“ありがとう”という言葉は、ぽっかりと空いた胸を塞ぎ、涙の意味を変える。
見惚れる。――ここまで、誰かを頼もしいと思ったことは、今まであっただろうか。
彼女は金色の髪を靡かせ、勇敢な顔で立ち向かっていた。敵を切り裂き、瞬いた雷光は、夜空を満月と同色にした。
回避の残影の輝きは高潔。その姿に胸を締めつけたが、妬みなどではない。それでも、全てがなくなってしまったように空っぽで焼き焦げて。でもそれは、これぽっちも焦げてなどはいなくて、ただ嬉しい。本当に温くて、やさしくて、地面にすがっているはずなのに心地よい。
本当は彼女の事が大好きで、尊敬していると気がついて、それはとても恥ずかしい。顔を隠すつもりで目を瞑ったら、涙はすでに涸れていた。
彼女は高貴な金色の詠唱サークルをひとつだけ展開し、最後の一体に向けて唱えた。
「邪に背きし首刈る刃よ、天から降ろして一望無垠の情景にしろ。雷騰雲奔」
静かに怒る彼女の華奢な掌から放たれた中級魔法の雷は、心臓の一鼓動よりも速く、頭部から地面へと貫いた。敵は炎に包まれ、八本の節足を痙攣させながら――徐々に、炭になっていく。
風で火の粉と狐火の花びらが重なるように散った。
ルチルはウサピィ人形を強く抱いて火の粉から守りながらも、ユーディを心配して手を差し出した。
「ユーディさん」
「……大丈夫、よ」
ユーディは、はじめてルチルと手を繋いだ。
彼女は、心配そうにしている。だからこそ、ありがとうだなんて、ふたたび言いたくはなかった。せめて、それでも。自分らしくいたいと思った。
「……ふんっ、だ」
「――任務中、ですよね。彼らの同属性の友好条約性巣窟は聞いたことがありますけど、これは……」
「ええ。“何か”が起こっている」
ユーディの不安がり、おずおずとした表情にルチルは。
「……ルビィさんを連れ去ったガウィが向かった方向に、先回りしたのはいいんですけど。まさか、ユーディさんがこんな所でやられているとは、思いませんでしたわ」
イラッ。
上空から聞こえたガウィの羽音にルチルは気がついて、微笑んだ。
「――あっ、来ましたよ。ルビィさんですわ」
これから女王に献上されるであろう、メイド姿のルビィ。
暴れ疲れたのか、夜空を飛んだのが気持ち良かったのか。
捕まっているにも関わらず、様子が少し違った。
「……寝てるみたいだけど。なにあれ?」
「さっきのユーディさんと同じですね」
ブチッ。
ユーディは詠唱サークルを瞬時に開き、跳んだ。
――心魂の聖槍、一振り。桜色の魔力が散った。
ただそれだけ。それだけで二つに裂けたガウィは満月を背に、黒く映った。
ユーディの表情は見えなかったが、しっかりと柄を握り締めている掌で感情の強さがわかる。
「やっぱりユーディさんは、こうでないと張り合いがありませんわ」
ルチルはルビィを抱いた姿を、目を凝らして確認して微笑んだ。
着地したユーディに、横っ腹の激痛が走るが。
「――ルチル・ゾンネンゲルブ。あなたは私より弱いんだから」
「はいはい」
「ふぁああ……。あれ、ルチル……? えっ、ユーディ?」
ユーディはルビィを降ろして、目を擦る彼女に優しく言った。
「危ないったらありゃしない。薬師は早く帰りなさいよ」
「うるさいなあ……。言われなくても帰るよ。素材も手に入ったし……」
「……本当に、危ないって自覚してるの? 」
「自覚してますよーっだ」
「……本当に、可愛げがないわね。はいはい帰った帰った」
「ばいば~い。さあルチル、帰ろっ!」
ルビィはルチルの手を引いたが、まじまじとユーディを見て、少年のように笑った。
「しょうがないなあ、ユーディは~」
ルビィはポケットから薬袋を取り出して、ユーディの服をぽぽーいと脱がした。
「ひゃあ?!」
身体を触れるルビィを押しだして、身体を恥ずかしそうに両腕で隠すがルビィは容赦しない。
「傷ついた人を癒すのも、ボクの仕事の内なんだから、早く傷を見せて! ……うわっ、骨折れてるじゃん!」
「見くびらないでよ! 初級治癒魔法くらい使えるんだから!」
「へんっだ。初級治癒魔法なんてボクだって使えるし、ルチルだって使えるもん。これはね、そういう問題じゃないよ。全て魔法で済むのなら、薬師も武具屋さんもいないよ? ボクは、ボクが作った薬でユーディを介抱したいからするんだよ? だからボクにまかせて!」
反論もなにも、言えなかった、というより、彼女はルビィ・スカーレット。
真っ直ぐで、自分の思う通りに、熱く優しく突き進む、猪突猛進。
どうせ、何を言っても聞く耳を持たない。――だから、何も言わなかった。
ルビィはスカートの一部を破いて、包帯を作り彼女の横っ腹に結び付けて固定をした。大きな蝶々結びが特徴的だったが、きちんと固定されず、ずり落ちた。
「ううん、難しいなあ。やっぱり魔法を使う? でも痛み止めはあるから、絶対に飲んでね?」
ルビィは丸薬を、服を着る彼女に手渡した。
「使えないわね、バカ」
「うるさいなあ。バカって言う方があれでしょ。今からお医者さんに行く? 頭の方の」
「うるさいわね。早く帰れ、バカ」
「冗談だよ。怪我をしているんだから、任務を放棄して帰ってほしいんだけどね……ボクは知ってるよ? どうせ、帰らないんでしょ?」
「……当たり前じゃない。私は魔法使いなんだから」
見え透いたように、ルビィはユーディに言った。
ルビィは騒がしい者たちの声に気がついて、ニシシと笑って手を振った。
「やっほ~~ウサピィ~~!」
女達に走り寄る男達。ルビィは三人が勢いよく走って起きた砂煙でくしゃみをした。
カコクは、ルチルに向かって片膝をついた。
「ルチルさん……オレとの結婚は考えてくれましたでしょうか」
「嫌ですわ」
マサムネが、ルビィに向かって土下座しながら、拳を何度も何度も地面に叩きつけた。
「お父さんは心配で夜も眠れなかった! ああああ!! メイド服が破れてるゥゥゥウ!」
「気持ち悪い」
ウサヒコは、傷ついているユーディに気がついて。
「ユーディ、もしかしてルビィを助けてくれたのか?」
「……別に、仕事のついでよ」
「ありがとうな」
「うるさい」
ウサヒコの目に、もはや憂いはない。
毅然とした態度でシザーケースからお気に入りの櫛を取り出した。
「俺もきちんと仕事をしなきゃな。その髪留め、いいじゃないか。俺にセットさせろ。続きだ」
「…………」
ユーディは黙って。当たり前のように、ウサヒコに身をゆだねた。
髪留めを解いた。乱れた髪の表面を櫛で整えて、揚々とセットを始めた。
「ルチルさん、月が綺麗ですね」
「嫌ですわ」
桜色の魔力と共に、二人の笑みは自然と零れた。
「ルビィ、反抗期なのはわかっている。そうなるとお父さんは一体何をしたらいいんだ」
「死ねばいいと思う!」
満月よりも光り輝く桜色の光――。
ウサヒコは、不思議と眩しくは感じなかった。
俺は世界一の美容師になる。だから一からやり直そう。その初めてのお客さんはユーディだ。
仕事をすると言うひたむきさ、真剣さを越えて。欣喜雀躍。
物を作る初めての歓びに、物を作れるという環境に感謝を。
ウサヒコの髪から真っ白な小さな光の粒が落ちて、ユーディの髪の魔力と混じった。
「ねえ、ウサピィ。私、さ」
「うん?」
「前よりも楽しい」
「何が?」
「秘密に決まっているでしょ?」
「……そっか」
ユーディは照れているように笑い、施術が終わる。
魔力の光は解き放たれず、一本結いに集まりおぼろげに浸透していった。
ウサヒコは彼女に頑張れと、心の中で呟いた。
「うるさいわね、頑張るに決まっているじゃない。私は立派な魔法使いなのよ?」
「!?」
「あれ? 今、何も話していないわよね? 空耳かしら……?」
「あ……ああ、そのあれだ。シディアとあの子は一緒じゃないのか?」
「……えっと」
ユーディは、うつむいた。
ルチルに助けられた。ルビィに優しくされた。
そして、当たり前のようにウサヒコに髪を整えてもらった。
その温かい出来事が“恥”とさせ、うつむかせた。
「お、おいおい。お前先輩なんだろう? 魔法使いの仕事はどういったものか知らないが、面倒を見るのは先輩の務めじゃないのか」
「うるさいわね、私はひとりの方がいいの! 後輩の面倒なんて見れないわよ!」
「そもそも、先輩というか、先生って言われていたじゃないか」
「あー!! うるさいうるさい! 何にも聞こえない!」
ルチルは、カコクの求婚を無視し続けながらも、ユーディに言った。
「ユーディさん、今回の任務を教えていただけますか?」
「しゅ……守秘義務……!」
「本当に、真面目ですね……。では、任務に、女王の調査は入っていますか?」
「え、え~と……」
「……もしかして。自主的に、動いています?」
ユーディは、目を泳がせた。
「では。わたくしがかわりに女王の調査をいたします」
「はっ?!」
「ユーディさんが、自分の手柄を立てるためだとか、そんな邪な魔法使いでは無い事は知っていますよ? でも、わたくしも国を守る魔法使いです。協力させてください」
「ああん、もう! パジャマ姿のくせに何言ってんのよ! 私ひとりでも、大丈夫だっての!!」
カコクは耳を大きくして、マサムネに呟いた。
「おいマサムネ。ルチルちゃんが巣穴に行くらしいぞ。オレ達も行くぞ」
「えー……今すぐ帰って、ルビィにご本を読むという大事な父の仕事が……」
ルビィは耳を大きくして、ルチルに大声で言った。
「家に帰りたくなくなってきた! ボクも巣穴に行くよ!」
マサムネはメガネを光らせた。
「ああっもちろんだ、カコク! 僕達は親友じゃないか! 僕も巣穴に行くよ!」
ルビィは溜め息をついて。
「頼むから帰ってよ!」
マサムネは聞いちゃいない。
ルビィはウサヒコが気になり、後ろから抱きついた。
「うおっ」
屈託のない笑顔で、頬を擦る。
「ねえねえ、ウサピィはどうするの?」
「わ、わ、わ……わ、私の任務なのに、契約違反よ! 絶対にだめーーーー!」
ユーディはざわつく彼女達を見て、人間離れした怒りの顔つきをして皆を驚かすが、カコクがずいっと対抗して、睨みを利かせた。
「ああン、馬鹿か。ウサ兄は、オレ達と一緒に行くンだよッッ!!」
「え、……はい? どういう意味?」
カコクの効かせた睨みはユーディに向けていたが、言葉はルビィに向いていた。
――ピン、と。空気は気持ちが悪く張りつめる。めちゃくちゃだった。何が何だかよくわからなかった。
ゆっくりと言葉を理解した時。人と話す時は目を合わせて話せ……と、マサムネ以外、全員思った。そのままカコクはユーディの肩をガシリと掴む。
「ひゃあ! わりゃしにひゃわらないでよぉ! ばかがうちゅりゅ!」
ユーディは男に触れられ、支離滅裂。
そこにルビィが乗っかるように――。
「ユーディ。ここはボクたちに任せて! ウサピィは危ないから帰ったほうがいいよ」
「ちひゃうの! わりゃしだけれ、らいじょうぶらの!」
「ピンクは一体何を言ってンだ。バカだな」
「わらしに、ふれにゃいで! ばらぁ!」
あーだこーだ。あーだこーだ。
ユーディは、女王の調査を、一人でやるという。
ルチルは、それは私がやるという。
ルビィは、マサムネがついて来るから家には帰りたくはないし、危ないからウサヒコを帰らせたい。
カコクは、ルチルについて行きたいし、ウサヒコを帰らせたくはない。
マサムネは、ルビィに頬を擦られたウサヒコがうらやましい。
ウサヒコは、ぽつんと騒ぎ立てるメンバーをただ、見ていた。
マサムネは、何も言わないウサヒコに微笑んだ。
「――カコク、まとめよう。頼むよ」
「……おう!」
「にゃりゃりゃりゃ! ……もう、これから私に一切触らないで! バカ!」
「うるせえ、黙れ。口を閉じねえと、抱きつくぞ」
「?!」
身を引いたユーディを横目に、カコクは大きく息を吸い込んで……。
「よーーーく聞け! オレは今まで、マサムネしか友達がいなかった! どうだ、すげえだろ! だからな、わかるンだよ! 一人より、二人。二人より三人。三人より……無限! おめえら、せっかく盛り上がっている所に仲間を捨てて楽しいかよ! はっ。オレは楽しくないね! そこには共感できねえ、バカだからな! あっはっはっは! だから、オレは何がなンでも、たとえ嫌がっても、泣いても、殴られても、世界がぶっ壊れても、全員を一緒に連れていく!! どうだ、まいったか!」
響き渡った、カコクの自虐含みの叫び。ウサヒコは彼の啖呵が嬉しかった。
もちろん、戦力にならない事には哀しくなったが、それよりも彼の素直さで不思議と負い目に感じず、むず痒くなった。
「……俺が帰る理由は、俺が決めることだろう。危険と言われると、余計に帰りたくなってきたんだが」
「まあまあ、そう言わず。僕達が守ってあげるからさ」
「おい、ピンク。俺たちは全員一緒なンだよ。だから全員で巣穴に行く。これは我儘じゃねえ。俺たち全員の想いなンだよ」
「…………」
カコクはルチルと一緒にいたいだけで。無理やり、そのまま全員を引き連れたいだけだ。
だがユーディには、そんなことはどうでも良かった。
こんがらがった頭が冷えて、シディア達の元へ戻るきっかけになったのだから。
「――ひとりが寂しいなんて、当たり前でしょ。……私は、シディア達の所に行くわ。ルチル、この馬鹿どもを頼んだわよ!」
「はい。もちろんっ!」
カコクは耳をほじり、ふぅっと満月に向かって飛ばした。
「なんだ、意外とわかる奴だったンだな」
「うるさいわねっ!」
カコクは親指を立てたが、ユーディはそんなカコクの素晴らしい笑顔を無視し、丸薬を飲み込み走ったが――、ユーディは仲間が見えなくなった途端に、曇り顔で、激痛を噛みしめた。そして、施術をしてもらう前から気が付いていた。魔力はもう、これっぽっちも残されてはいないと言うことに。
ルビィはウサヒコに抱きつきながらも、うつむいて、しょんぼり。
「ねえ……ボクはね。ウサピィに危険な目にあって欲しくないんだけど……」
「俺も危険な目に合いたくはないんだが。何と言うか、巣穴に行かないとダメな気がしてきた。……そして、何と言うか、早く降りろよ。首が重い」
首をぶん回して、ルビィを吹き飛ばしたウサヒコは協調性のある、純日本人だった。
「痛い! ウサピィのバカ! 来たいなら、来ればいいじゃん! ボクは絶対に助けないからね!」
――ザシュ。
巣穴の乾燥した泥の地面を節足で踏む音はウサヒコたちを一斉に黙らせる。
のそりと巣穴から現れたガウィは、碧で一体。
今まで出会ったガウィよりも一回り、小さかった。
その足取りは、おぼつかない。産まれたての“彼”は鳴いたが、人間である者には、何を言っているのか理解出来なかった。身体に滴る羊水は、月光に反射し真っ黒の複眼をさらに怪しく光らせた。
ルチルは詠唱サークルを展開し、パジャマのスカートのすそを靡かせながらも永劫の聖剣を振るい、ウサピィ人形を抱きしめた。
「大丈夫ですわ。おにいちゃんはわたくしが守りますから」
マサムネは、メガネのブリッジを中指で支えながら、鞘から刀を引き抜いた。
「大丈夫さ。ルビィはお父さんが守るから」
「ふんだっ。守ってもらわなくていいもん。ミドリ色のやつはよゆーだもん!」
「おおっと、マサムネ。刀をよこせ。魔力を入れてやる」
「ちょっと待て、カコク。一つツッコむぞ。俺を連れていくと言ったくせに戦わないとか、ずるくないか?」
「うるせえ!」
――今の小さいガウィは碧色だった。
ルチルは、敵の歪んだ魔力に肌寒く感じた。……それは、アイオラが個別判定式属性結界魔法を展開して、ちょうど三十分経過した頃であった――。
@近況報告
網田めい⇒リアルの仕事の方が忙しくなってきました。休止します。




