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第一幕 春/花畑

 とあるお花畑がありました。そこでは美しい花々が咲き誇り、朝日の光を受けて、生き生きとその顔を輝かすのです。


 一日の始まり、そんな時でした。上空から宇宙船が降りてくるのです。


 その宇宙船の赤い機体は気球を逆さにしたような形で、その外装はまるで花のつぼみのように幾重に折り重なっていました。さながらチューリップのつぼみのようです。


 そんな宇宙船が炎の茎を伸ばしながらゆっくりと地面へと近づいてきます。まわりの花々は風に煽られ、いくつかの花びらを舞い散らすのです。


 しかし驚く事にその宇宙船の大きさは、まわりの花々と同じでした。お花畑から舞い上がった一輪のつぼみと言っても、納得してしまうほどです。それほどまでに宇宙船は小さかったのです。


 宇宙船が着陸し、ひたとその動きを止めました。静寂があたりを包みます。まるで息をひそめてその様子をうかがっているかのようです。


 不意にビーブ音が静寂を破りました。するとどうでしょう、まるでつぼみが花を咲かせるかのようにして、宇宙船が開いたのです。


 開かれた宇宙船、その中には宇宙船よりもひとまわり小さい女の子が乗っていました。その女の子の顔はまだあどけなく、日の光を受けて金髪の髪が輝いています。女の子は白いワンピースを着ており、背中には羽をあしらったような大きなリポンがついています。その姿はまるで妖精のようでした。


 女の子は両手を組んでそれを頭上高く掲げながら背伸びをすると、ほっと一息つきました。そしてそれからあたりを一望するのです。


 どこまでも続いていそうな美しいお花畑。でも小さな女の子にとっては自分の背丈の倍以上ある花ですので、さながら巨大な花を咲かせた森のようでした。


 女の子が花の森を歩き出します。その表情は好奇心に満ちていました。未知の惑星に対しての冒険に胸を躍らせているようです。


 しばらく歩いたところで、自分と同じぐらいの背丈の花を見つけました。その花は黄色くて、七枚の花びらは朝露でしっとりと濡れています。


 女の子は花びらを掴むとそれを傾け、水滴を集め始めます。そして集めた水滴を、大きく開けた自分の口の中へと落とすのです。


 その瞬間、女の子の口の中には甘い感覚が広がり、さわやかなにおいが鼻孔をすり抜けて行くのです。それはまるで甘いレモンティーのようでした。


 飲み終えた女の子は思わず笑みになります。そして再びおかわりを口に運ぶのでした。


 花のレモンティーに満足した女の子は歩き出します。


 すると今度は地面から直に咲いている花を見つけました。その青い花はバラによく似た形をしており、黄色いめしべの周りには、白い綿毛のタンポポのようなおしべがたくさんついていました。


 女の子は耳の後ろに髪をかきあげると、めしべを一本採りました。そしてそれを耳のそばの髪の毛に挿すのです。


 きれいな耳飾りに満足げな笑みを浮かべ、女の子はスキップで歩き出します。


 女の子が楽しげにスキップを続けていると、花をかきわけてこちらへ向かってくる巨大生物の姿を捉えます。それは魚のような姿に四本指の手足が生えた生き物で、黄土色の皮膚をヌメヌメとテカらせ、カメレオンのようなぎょろりとした大きな目玉をせわしなく動かしているのです。


 女の子は立ち止まり巨大生物を見上げます。大きさは花よりは高くないものの、その全長は花を三本並べて置いたほどあり、女の子を丸呑み出来そうな大きさでした。


 ですが女の子は臆する事もなく、巨大生物と対峙します。


 巨大生物も立ち止まり、キョロキョロと動かしていた視線を女の子に定めるのでした。


 女の子は微笑みながら手を振りますが、巨大生物は何の反応も示しません。


 女の子は肩をすくめるとワンピースのスカート部分のポケットから、ピンクのオカリナを取り出すのです。そして大きく息を吸うとオカリナに口を付けます。


 ゆっくりとした音楽が鳴り響きました。それは短いフレーズの繰り返しでしたが、繰り返すたびにそのテンポを早めていきます。


 三度目の繰り返しの時でした、巨大生物が音楽に合わせて、コアックス、コアックス、と鳴き声をあげたのです。


 女の子と巨大生物による演奏会が幕を上げました。女の子はどんどんとテンポを上げて行きます。それに負けじと巨大生物も鳴き声を早めました。


 十三回目の繰り返しが終えたところで、女の子がオカリナから口を離し、息苦しそうに喘ぎました。


 巨大生物はしばしの間、女の子を見守ったあと、きびすを返して立ち去って行きます。


 それを見た女の子は走ってそのあとを追いかけました。

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