お母さまsの幸せ
翌月、創立記念パーティーで、婚約が発表されました。
綾乃さんは、かおるお母さんプロデュースの振袖で登場。金糸銀糸が目にまぶしいです。
出席者の方々の反応は、あまり驚きはなく、顔なじみのおば様たちとそのご主人達に祝福されました。溶け込んでるってこういうことか~と、頭の隅で思いながら、笑顔を貼り付けお礼を言い続けます。
婚約と半年後の結婚が発表されました。半年で、間に合うのかと綾乃さんは心配しましたが、かおるお母さんが前から準備していた様子。まあ、この結婚を一番望んでるのは、かおるお母さんとゆきえお母さん(綾乃さんのお母さん)ですから、まあいいかと綾乃さんは納得します。
お仕事のほうは、3カ月後に退職と言う運びになり、現在引き継ぎの真っ最中。綾乃さんの仕事は、会社のほとんどの部署と関係が有るので、後任の子はいっぱいいっぱいになっていました。その様子を見て、自分がおば様から引き継いだときもそうだったな~と、懐かしく思い出すのでした。
さて、引継ぎと平行して、結婚式の打ち合わせもしなくてはなりません。そこは、カガミコーポレーションのこと、会場となるホテルの担当者が来てくれます。各務のおうちに、帰国したばかりのゆきえお母さんもやってきて、ウェディングプランナーの仕切りの下、着々と必要事項が決められていきます。。
綾乃さんは、通常業務と引継ぎとでかなり疲れていました。なので、プランナーさんに、衣装以外に新婦がいないと決まらないものはあるかと聞いたのです。プランナーさんは、一瞬の間のあと、リングのサイズさえわかればと、答えました。さすがプロです。
それを聞いた綾乃さんは、衣装合わせとリング以外のことは、両方の母に任せますと丸投げしたのでした。プランナーさんは、いろんなカタログを広げまくってキャッキャしているお母さまsを見て、了解しました。
ここのところとみにと忙しい拓也さんは、おうちで開かれる打ち合わせに参加できず、もっぱらプランナーさんに会社に来てもらっていました。今日も休日出社なので、各務のおうちの帰りにプランナーさんに寄ってもらいました。今日の進捗状況を報告され、衣装合わせの日のスケジュールを決めます。帰り際にふと、思い出したようにプランナーさんが言いました。
「新婦様もお仕事おいそがしいんでしょうか?」
「ああ、今退職に伴う引継ぎもあってかなり…」
「それでしたら…」
プランナーさんが、納得したようにうなずきます。
「なにか?」
「いえ、衣装合わせ以外は、すべて両家のお母さまにお任せすると仰ったので、ちょっと気になって」
「――そうですか」
「では、失礼します」
プランナーさんが出て行った後、残された拓也さんはなにか考え込んでいました。
その日の夕食後、部屋に戻る綾乃さんを、拓也さんが呼び止めます。
「結婚式の準備、母さんたちに任せたんだって?よかったのか?」
「うん。私その気も体力も時間もないから。それに口はさむ隙もないし~。元々あの2人の夢だったもんね」
「そ、そうか」
「もういい?じゃお休みなさい」
「ああ、お休み」
若干ふらつきながら綾乃さんが部屋に入ると、拓也さんは唸りながらガシガシと頭をかいて自分の部屋に向かいました。
ゆきえお母さんは、毎日のように各務のおうちを訪ねます。笑顔で迎えるかおるお母さんと結婚式の様々な手配をするためです。
今日も2人はカタログを広げ、打ち合わせという楽しい時間を過ごすのでした。




