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婚約は突然に

 それは、いつもの朝のスケジュール確認の時でした。


「…以上が、今日の予定です」


「りょーかい。あ、そうだ、来月の創立記念パーティーで、婚約発表するから、そのつもりで」


「え、拓也さん婚約するの?誰と?」


「お前と」


「は…?」


「知らなかった?俺と綾乃って許婚いいなずけなんだよ」


 という爆弾発現を残して、卓也さんは取引先へと行ってしまいました。残された綾乃さんはもうパニックです。専務室にこもって、海外のお母さんに電話です。時差なんて知ったこっちゃありません。


「お、お母さん!私と拓也さんが許婚って、どういうこと~!!」


「ふええ~?あ、許婚の話ね、聞いたの~?そうよ~、あなたを各務のおうちに預けるときに、そういう話になったの~」


 寝ぼけてるのか、頼りない声のお母さんに、綾乃さんは、ヒートアップしました。


「そんなの知らない!いきなり来月婚約発表するって、それも創立記念パーティーでよ!?」


「そうなのよ~、ちょうど私達も帰国するから、出席できるの~。やっと日本にもどれるわ~、各務さんの紹介でね~」


「ちょっと、お母さん!拓也さんと結婚したら、将来の社長夫人じゃない、そんなのムリ!」


「大丈夫よ~、かおるさんが、教育してくれてるじゃない~、もう他の社長夫人達にも溶け込んでるって聞いてるわよ~」


「…おやすみなさい」


 綾乃さんは、電話を切りました。頭を抱える手が震えています。

 ショックでした。

 みんな綾乃さんと拓也さんの結婚の為だったのです。綾乃さんが日本に残ることが許されたのも。各務のおうちにお世話になることも。振り袖の日も。

 拓也さんが、面倒みてくれるのも。



「綾乃ちゃん、大丈夫?」


 心配した紫さんが、専務室をのぞきました。綾乃さんは会社だということを思い出して、はっとしました。

 仕事しなきゃ。


「ごめんなさい、ちょっと、めまいがして…。もう大丈夫です。仕事にもどります」


 綾乃さんは、何もなかったのように仕事に戻りました。いつも以上にてきぱきと働く綾乃さんを見て、紫さんは心配そうです。


 いつも通りに、仕事が終わりました。途中で卓也さんも帰って来ましたが、綾乃さんの様子を見て、何も言いません。正直綾乃さんは今日の仕事のことは何も覚えていませんでした。誰も何も言ってこなかったから、何とかなったのでしょう。一日中、綾乃さんの頭を占めていたのは、もちろん婚約のことです。

 真っ先に思ったのは、なんとしても断ってやる、ということでした。けれども少し冷静になって考えられるようになった時、お母さんの電話の言葉を思い出したのです。

 お父さんの次の仕事は、各務のおじさま絡み。弟もカガミの関係会社に内定もらっています。ここで私が断ったら、一家そろって路頭に迷うことに…?!

 思い至った時に、綾乃さんは固まりました。


 こ と わ れ な い。


 冷静にならなくては。綾乃さんは客観的にこの婚約について、考えてみることにしました。


 嫁姑問題→かおるお母さんだから無い

 いずれ社長夫人→もう教育されてるらしい

 お相手→世界のカガミコーポレーション専務次期社長の拓也さん3高イケメンの超優良物件


 条件だけ抜き出すと、なんていい縁談なんでしょう!

 問題は、綾乃さんの気持ちでした。ショックだったり反抗しようとしたのは、自分がのけ者にされていたからだとわかっています。これは、みんなにひどいと怒れば、治まるでしょう。ここまで、自分の中で考えられるようになったら、終業時間になりました。


 いつものように拓也さんと一緒に帰る車中で、綾乃さんは自分の気持ちを振り替えります。

 綾乃さんは拓也さんのことが嫌いではありません。むしろ好きです。ハイスペックな拓也さんと一緒に暮らしてエスコートされたりかまってもらって、ほのかな恋心を抱くのは自然でしょう。

 けれども、拓也さんの綾乃さんに対する態度は、どう見ても妹だと、綾乃さんは思います。だから、気持ちに気がつかないフリをしていました。が、この騒動で自覚してしまったようです。

 前に、拓也さんが、各務家の息子として適当なときに適当な相手と結婚するといってたのを聞いたことがあります。拓也さんは今29歳。ちょうどいい頃合いです。そこにちょぅどいい年齢で母のお気に入りで自ら教育した綾乃さんが差し出された。拓也さんにとっては、この結婚はそんな結婚なんだろうと綾乃さんは思うのです。


 相手が義務で結婚するってわかってるのに片思いって辛いなあ、と綾乃さんはため息をつきました。


「考え事は終わったか?百面相してたぞ?」


 いつものように声をかける拓也さんに、綾乃さんは引きつった笑いを返すのでした。

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