綾乃さんと拓也さんの出会い 2
雨が降らないうちに迎えに行って来るわ~と出かける母親達を見送ると、綾乃さんは無言になりました。隣の拓也さんに、どう接したらよいのでしょう。困りました。
とりあえず、別荘の中に入ることにしました。拓也さんが、ドアを開けて待っていてくれてますから。
意外にも、拓也さんは気を使ってくれているのです。有名お嬢様校出身の卓也さんのお母さまかおるさんは、きっちりしっかり息子さんを躾けておりました。女子はエスコートすべし。
初めて別荘を訪れる綾乃さんに色々と教えてくれます。一通り別荘の中のことをおそわると、綾乃さんは自分にあてがわれた2階の部屋へと落ち着きました。窓の外は、夏だったら清々しい森林です。
急に暗くなったと思ったら、雨が降りだしました。お母さんたち、間に合わなかったなぁ、なんて考えていたら、あっという間に豪雨になりました。
雨はなかなかやみません。もうかれこれ1時間は降っていました。なんとなく一人で部屋にいるのが寂しくなって、綾乃さんはリビングへと降りていきます。
ワンちゃんが尻尾をふってお出迎えしてくれて、ほっとした自分に気がつきました。
拓也さんは、ちょっと困ったような顔でテレビで天気情報を見ていました。
「雨、どうですか?」
「う~ん、あんまり良くない。これから激しくなりそうだ。道路が心配だな」
ちょうどその時、ゴロゴロと空がいいはじめました。二人は顔を見合わせます。風もひどくなり、窓がガタガタいっています。
ひときわ激しい風が吹いたと思ったら、2階でガチャンとなにかが割れる音がしました。
あわてて2階に上がると、綾乃さんの部屋の窓が割れて、雨が吹き込んでいます。
呆然としていると拓也さんが部屋から綾乃さんの荷物を取ってきてくれました。並びにある拓也さんの部屋の窓もヒビが入っているので、荷物を引き上げます。
2階は危ないからと、荷物を持ってリビングに戻ります。ワンちゃんが心配そうに綾乃さんに寄り添ってくれました。
ワンちゃんを抱き締めて座ると、綾乃さんはほっとしました。それを見て、拓也さんは今のうちに自家発電を見てくると地下へ行きます。
テレビは画面が乱れてきたので消しました。外はまた嵐のようです。
拓也さんが戻って来ました。自家発電はいつでも使えるそうです。拓也さんは、ワンちゃんの隣に腰をおろし、頭を撫でました。
「いいコだ。綾乃ちゃんを守ってくれたんだな」
ワンちゃんは誉めて誉めて!と尻尾をブンブンふっています。どや顔してるように見えて、綾乃さんは笑ってしまいました。
嵐の音の中に、機械音が響きました。電話です。拓也さんが受話器を取りました。
お母さんたちでした。道路が通行止めになったので、駅前のホテルで足止めされてるそうです。このまま泊まることになります。二人で一晩大丈夫かと。
「わかった、大丈夫だよ」
電話を切った拓也さんは、やれやれといった様子です。
「母さん達は、ホテルで足止めだって。2階は危ないから、リビングにいよう」
綾乃さんは拓也さんにうなずきました。雨は、一時ほど激しくありませんがまだ降っていました。
夜になって寒くなったので、暖炉をつけました。電気式なので、煙くなくて快適です。
お夕飯は、管理人さんが用意してくれてたシチューとパンで済ませました。
心配した管理人さんの電話もありましたが、拓也さんは笑って答えてました。
何から何まで拓也さんがやってくれるので、綾乃さんはついていくだけです。なんて楽チン。
暖炉前のラグの上にに客室の布団を持ってきて、ワンちゃんを真ん中に川の字で寝転がります。
「大丈夫だよ。キャンプだと思えばいい」
「キャンプ…。初めてです!」
「じゃあ、楽しもう」
拓也さんはそう言うと、綾乃さんの頭をぽんぽんとたたきました。綾乃さんははにかみながらコクンとうなずいて、お兄さんってこんなかなーと思います。
それから色んな話をしました。学校のこと、友達のこと、趣味のこと、将来のこと。卓也さんの話は面白くて、綾乃さんの拓也さんに対する評価はマイナスからずい分回復しました。そうして話してるうちに、綾乃さんは眠ってしまったのです。
翌朝は、すっきりとしたいい天気でした。
朝食をとり、二人が別荘の中を片付けていると、お母さんたちが帰って来ました。
管理人さんも加わって、別荘の後始末をします。
とんだ旅行になっちゃったねえ、と笑いながら帰途につきました。お父様sと弟は帰りも電車です。
帰りの車の中、行きとは違って話が弾む綾乃さんと拓也さんの姿に、後部座席のお母さまsが、あの二人いいんじゃない?という話をしていたことを、二人は知りませんでした。
お母さまsの策略はここから始まる…。