綾乃さんと拓也さんの出会い
綾乃さんと拓也さんの本当に最初の出会いは、綾乃さんが生後半月の頃です。いわゆる出産祝いですね。もちろん二人に記憶はありません。
ずっと一緒の学校で親友だった二人のお母さま達は、これで二人とも子どもが出来たから、一緒に遊ばせられるわ!なんて喜んでおりました。
が、赤ん坊と3歳児が遊べるわけもありません。年が上がれば、と期待していたお母さま達ですが、最終的には「赤ちゃんと遊ぶのヤダ」という拓也さんの言葉に1年で諦めました。幼稚園児に忍耐を期待してはいけません。
そのうち、綾乃さんの弟ができたので、それどころではなくなり、綾乃さんと拓也さんが会うことはなくなったのです。
二人がちゃんと出会ったのは、綾乃さん15歳拓也さん18歳の春休みでした。それぞれ高校大学入学を控え、久し振りに二家族で会いましょうとお母さま達が燃え上がり、お父様達まで巻き込んで、拓也さん家の別荘に行くことになったのでした。
拓也さんは、今さら家族旅行なんてと抵抗しましたが、最後の親孝行だと思ってというお母さまの押しに負けました。
都合良く運転手にさせられた拓也さんの車に、拓也さんのお母さま、綾乃さんのお母さま、綾乃さんを乗せて別荘へ。てっきり運転手さん付きの車で行くのかと思っていたら、仕事じゃないから家族だけで行きたい!というおば様の意見が通ったのだとか。
綾乃さんは助手席に乗せられてちょっと困っています。今まで後ろの席にしか乗ったことがなかったのです。
始めての助手席、しかも運転手はカッコいい男の人。たよりの母親達は、後ろできゃっきゃウフフと話に花を咲かせていて、綾乃さんの窮状に気づいてません。どうしようとうろたえる綾乃さんの様子に気づいた拓也さんが、声をかけました。
「綾乃ちゃん、女子校だっけ?」
「は、はい。母とおば様の母校です」
「そっか、じゃ男慣れしてない訳だ」
「う…」
「図星だね。そんなに固くならなくていいよ。別に女に不自由してないし」
「…さよーですか」
綾乃さんはちょっとあきれました。拓也さんに対する評価はだだすべりです。一泊我慢すればいいんだからと心の中でため息をついたのでした。
別荘に着いたのは、お昼過ぎでした。車を降りて、体をほぐします。
綾乃さんは、トランクを開けると自分の荷物をとろうとしました。すると横からスッと拓也さんが取っていきました。
「え…?」
「くくっ、ほんと女子校育ちだな。男がいるんだから、力仕事は任せなよ」
そう言って、拓也さんは全員の荷物を持っていってしまいました。
母親達はもう玄関で綾乃さんを呼んでいます。
綾乃さんは、ちょっとだけ拓也さんを見直してもいいかなと思ったのでした。
別荘の中では、大きな黒い犬が歓迎してくれました。ドーベルマンが入ったミックスらしく、普段は管理人さんがお家で飼っているそうです。拓也さんに非常になついているので、拓也さんが来るときは連れてくるのだとか。
その大きさに最初は引きぎみだった綾乃さんでしたが、人懐こさにすぐ慣れました。
お茶を飲んで一休みすると、お母さまsが後から来るお父様sと綾乃さんの弟を近くの駅まで迎えに行くことになりました。
綾乃さんは自分も一緒にと申し出ましたが、乗りきれないと却下されました。え~!?と思いましたが、顔に出そうになったのでワンちゃんに抱きついてごまかします。
拓也さんがニヤニヤ笑ってるのは、綾乃さんのせいではないのです、絶対。
女子校出身者は、力仕事も自分でやろうとするので、わかるそうです。男に頼らない。
社会に出て指摘されるまで気がつかなかった・・・。