だって女の子だもん
各界を代表する来賓の方々のやたら長い祝辞を聞き流し、お色直しで一休みし、三時間強の披露宴を綾乃さんは乗りきりました。何しろ各務の結婚式。プランナーさんもホテルも力が入っています。ホテルでは、11月のベストシーズンなのに、今日の結婚式は一件だけだとか。
なんだか盛りだくさんすぎて、よく覚えていない綾乃さんでした。
控え室でドレスを脱いで、やっと楽な格好になりました。このまま成田へ直行です。
綾乃さんはくたくたで拓也さんについてくだけで精一杯。
気がついたら、ハワイ・ホノルルの超高級ホテルのハネムーンスイートについてました。
あ~海がきれいだな~と現実逃避をしているうちに、綾乃さんはウトウトしていたようです。拓也さんに肩を揺すられて、目が覚めました。
「ほら、そろそろディナー行く仕度した方がいいんじゃないか?」
拓也さんは、シャワーを浴びたらしく、髪が濡れています。
「ふえ、そんな時間?!」
綾乃さんは、あわてて着替えを持ってバスルームへ駆け込みました。服をディナー用に変え化粧を直します。
バスタブの上には、まだ濡れている拓也さんの水着が干されています。
ふつー新婚旅行で花嫁おいて泳ぎに行く?
綾乃さんは、やっぱり妹扱いだよねと、大きくため息をついたのでした。
ディナーは、ホテルのメインレストランです。ハネムーンということで、ホテルからシャンパンがサービスされました。お料理を大変おいしくいただき、綾乃さんも満足です。
拓也さんも、いつも以上に気を使ってくれて、ひさびさにゆっくり話ができました。
最後にシェフからデザートもプレゼントされて大喜びな綾乃さんでした。
それから数時間後。本来なら、初めての夜にうれしはずかしな花嫁のはずですが、現在綾乃さんは、ベットの上であせっております。
どどど、どうしよう!拓也さんの義務は後継ぎ作りも含まれるのよね。それは覚悟してたはずなのに~!?いざとなったら、受け入れられないよう。拓也さんにとっては義務。男の人は愛がなくても抱けるって言うけど、でも私は、それじゃ嫌!愛のない行為なんて…!
そう思ったら、綾乃さんの目から涙がダーっと流れました。
ドアの開く音がして拓也さんがバスローブ姿で入って来ます。
「綾乃?」
いぶかしげに近づく拓也さんに綾乃さんはびくっと後ずさりました。
拓也さんが、傷ついたように顔を歪めましました。
「そんなに嫌いか…」
「ち…が」
「いいよ、綾乃から断れる話じゃなかったもんな」
「違うよ!拓也さんのこと嫌いじゃないもん。好きだもん!でも、た、拓也さんに妹だと思われてるのは、わかってるから。ぎ、義務で結婚したのも」
「綾乃?」
「それでいいと思って、たけど、やっぱりダメだったの!愛してほしかったの!」
ぎゅっとつぶった綾乃さんの目から新たな涙がこぼれました。
ぽすんと綾乃さんの隣に拓也さんが座りました。バスローブの袖でやさしく涙を拭いてくれました。
綾乃さんがそっと目を開けると、拓也さんが情けない顔で見ています。
「あのなぁ、俺が好きでもない奴と結婚するか?義務で妹と結婚するか?」
「え~と」
「綾乃は俺にとって妹じゃなくて、女だよ」
「ほんとに?いつから?」
「最初から。わかんなかったのか?」
「うん。言ってくれなかったし。ずっと妹扱いされてると思ってた」
「ま、これでわかっただろ」
「…まだです。だからちゃんと言って?」
「いや、今さら…」
「だめ、言葉にしたほしいの。だって女の子だもん」
「だもんって…。はぁ、わかったよ」
拓也さんは、綾乃さんの手をとると真面目な顔になりました。
「綾乃、女性として好きです。僕の奥さんになってください」
「はい」
綾乃さんは、頬を染めて答えました。
二人の心が通じた夜でした。