8009E列車 ファーストネーム
小学校2年生の春。
「あれ。今日ナガシィ君どうしたの。いないけど。」
磯部ちゃんが聞いてきた。
「ああ。ナガシィ肺炎になっちゃったんだって。」
「えっ。肺炎。なんかヤバくない。」
「うん。それで1週間入院しないといけないんだって。」
「うわぁ・・・これから家庭訪問だっていうのに間が悪い時に入院しちゃったね。」
「まぁ、もともとナガシィが大きな声ではしゃいでるからだし。」
心配なのは変わらないので、日曜日にお母さんに連れられ、ナガシィが入院している病院に行ってみた。
「どうだ。少しは楽しめるか。」
「こんにちは。」
お母さんが声をかけて、その声につられて坂口ちゃんも声を上げた。
「あっ。萌ちゃんのお母さん。こんにちは。」
「ごめんなさい。前は萌が無理言っちゃって。」
「いえ。そんなことありませんよ。なぁ。智。あっ。僕は智の従兄の南って言います。よろしくお願いします。」
「よろしく。これからも萌がそちらのお宅に遊びに行くと思うから、その時はよろしくね。南君。」
「はい。」
「ナガシィ。さっきから何見てるの。」
「これ。駿兄ちゃんが僕のためにとって来てくれた写真だよ。全部100系が写ってるよ。中には0系とか500系とかのツーショットもあるけど。」
「よかったねぇ。ナガシィ。」
「うん。」
この時僕のお母さんと萌のお母さんが知り合うことになる。まぁ、これ以来親も交えて、どこかへ行こうという話も持ち上がるのだ。
「ところで。萌。あっ・・・。」
「えっ。今。私のこと名前で呼ぼうとした。」
「・・・。」
視線が僕に集中して恥ずかしくなった。今のはふいに出た言葉だから、自分でも意外になって、言ってしまってからすぐに口をふさいだ。
「よかった。ようやっとナガシィが私のこと名前で呼んでくれた。これからは私のこと名前で呼んでいいからね。」
「えっ・・・うん。」
こういう中になったのはこの時であった。しばらく病院での生活が続いて、学校に戻ってくると、
「おはよう、ナガシィ君。」
「おはよう。」
「久しぶりでしょ。みんなと会った感想はどう。」
「えっ。」
どう反応するべきだろう。反応に困っていると磯部は何も言わなかった。別に答えろと強要しているわけでもなさそうだ。
「あっ。ねぇ、萌。僕が来てなかった1週間の授業のノート取りたいんだけど。」
「えっ。いいよ。」
萌が僕にノートを渡す。それを自分の机でとってるのを、萌と磯部が覗き込んでいる。
「ねぇ、萌。ナガシィ君、萌のこと萌って呼ぶようになったわけ。」
「えっ。うん。」
「いいなぁ。そういうことは全部萌がもぎ取っちゃうんだから。」
「どういう意味よ・・・。」
萌にはその意味が分からなかったらしい。僕にもその意味は分からなかった。でも、萌と呼べるようになったのは進歩かな・・・。
本当はいじられているときに不意に呼ぶでもよかったのだけど・・・。