8004E列車 100系と会う日
1年生の8月。
「ねぇ、駿兄ちゃん。駅連れてって。」
(・・・お前が言うことはそれしかないのか・・・。)
駿兄ちゃんはおそらく心の中でそう思っているだろう。でも、僕が行きたいというのは聞き入れてくれている。
「わかった。わかった。連れてくから、おとなしくしてろ。」
「はーい。」
それからしばらくして戻ってくると、
「いいか。今日もちゃんといい子にしてるんだぞ。」
「うん。」
そういう経過を経て僕は浜松の駅に来た。目的は浜松にやってくる新幹線を見ることが目的だ。もう東海道新幹線から0系が撤退してしまっていて、ここに来る新幹線は100系、300系、500系、700系新幹線となった。
「うわぁ・・・。ねぇ、駿兄ちゃん今300系が走ってたよ。」
「そうだな・・・。」
駿兄ちゃんはちょっと笑ってそういってくれた。
「南。」
と声がした。駿兄ちゃんがその方向を見ると少し驚いているようだった。
「直人。お前なんでここにいるんだよ。」
「それこっちのセリフだよ。南こそなんでここにいるんだよ。」
「駿兄ちゃん。誰なの。この人。」
そう話しかけた。しかし、駿兄ちゃんは僕の問いなんかそっちのけだった。その人と話している。
「ところで。さっきからお前のズボン引っ張ってるそいつは誰なんだ。妹か。」
「妹じゃねぇよ。弟っていういいか・・・。従弟。」
「いとこ。ていうかさっきお前弟って言ったよなぁ。こいつ妹じゃないのか。」
「勘違いする人多いだけだよ。正真正銘男の子だよ。」
「へぇ。まじか。女の子にしか見えねぇなぁ・・・。にしても、お前の親戚には女顔の人間多いのか。」
「たまたまその血筋が強いだけだと思う。」
「駿兄ちゃん。」
「おっ。なんだ。」
「早くしないと100系きちゃうよ。」
駿兄ちゃんは腕時計を見てから、
「おっ、そうだったな。で、直人お前はどうせ撮影だろ。」
「まぁな。100系の「ひかり」はそろそろ見納めだと思うからな。」
「まぁ、それもそうだな。」
「お前は撮影しないのかよ。」
「あのなぁ。こいつが100系が来たときおとなしくしててくれたら、俺も安心して撮影するって。」
「へぇ・・・。手焼いてるんだ。」
そういって駿兄ちゃんは話していた人と別れた。
しばらく新幹線ホームで100系が来るのを待った。100系新幹線がどっちに来るのか駿兄ちゃんわかってるからすごいんだよなぁ・・・。
「駿兄ちゃん。あと何分。」
「えっ。そうだな・・・。あと少し。」
「新幹線をご利用いただきましてありがとうございます。間もなく6番線に・・時・・分発。「ひかり・・・号」新大阪行きが参ります。黄色い線まで下がってお待ちください。列車は前から1号車、2号車の順で、一番後ろ16号車です。グリーン車は8号車、9号車、10号車。普通車の指定席は6号車、7号車と11号車から14号車。普通車の自由席は1号車から5号車と15号車、16号車です。おタバコの吸える自由席は3号車、4号車、15号車です。カフェテリアは8号車です。この列車は途中名古屋、京都に止まります。」
「間もなく6番線「ひかり・・・号」新大阪行き到着です。黄色い線の内側まで下がってお待ちください。」
機械的声が普通の人間の声に変わると反対側のホームに黄色い光が移り始めた。そして、白くて大きな車体がこちらのホームの陰から現れる。
「駿兄ちゃん。100系だよ。100系。あれってG編成かなぁ・・・。それともV編成かなぁ・・・。」
「さっきアナウンスで「カフェテリア」があるって言ってただろ。それだったらどっちだ。」
「えっと。「カフェテリア」があるのは・・・。あっ。G編成だ。」
少ない知識ではあるが、この時僕はすでに100系の特徴をすべて理解していた。だから、おおざっぱに何があるか言われれば、どれかまで判断できた。ちなみに食堂車がついているのはX編成。さっきセリフの中に出たV編成は2階建てを4両連結している。
列車が停車するとここまで100系に乗っていた人が下りてきた。僕たちはその人の波を一番端から見ている。
「ねぇ、触りたい。」
「えっ。触りたい・・・。もう、しょうがないなぁ・・・。あんまり長く触ってるなよ。こいつだってくすぐったいんだから。」
「あ・・・。」
僕はそれで笑った。これだけでも結構幸せを感じることができる。
「はい。終了。」
「あ。まだ触りたいよ。もっと触らせてってば。」
「ダメだって。あんまり触られるといやなんだって言ってるぞ。」
「本当に手焼いてるな。」
そういってさっきの人がまた駿兄ちゃんに話しかけてきた。この時少し駿兄ちゃんに抑えられていたのが外れたので、それで、駿兄ちゃんの腕から抜け出した。
「そう。これがなかったら安心できるんだけどねぇ。」
「へぇ。家庭じゃ世話の焼ける弟の面倒見てるのか・・・。家でも大変だな。」
「ああ。って。」
「うわぁ・・・。」
「こら。もうちょっとで発車するんだから、もう触らない。」
「えっ。まだ・・・。駿兄ちゃんのいじわる。」
「いわれてるぞ。」
「しょうがねぇやつ・・・。まぁ、子供だから仕方ねぇか・・・。」
100系と会う日は駿兄ちゃんにとっては大変なのである。
当時との現実との差異が多少みられると思いますが、ご了承ください。私の当時の知識は著しく乏しいのです。この時100系新幹線を使用した「ひかり」運用が存在したのかさえ定かではありません。
最後に、この話のタイトル「嫁と会う日」にしようかなぁ・・・。