8012E列車 インフルエンザ
萌と仲直りしてから。小学校4年生の冬。僕はインフルエンザにかかって、学校を休んでいた。
「コン、コン。」
という何かをたたく音がした。寝返りを打って、そちらを見てみると、
「ナガシィ。大丈夫。」
窓越しで、結構こもった声になってしまっているけど、萌のそういう声が聞こえた。
「開けてくれない。」
そういったので、僕は窓を開けて、萌を部屋の中に入れた。
「きちゃダメって言われなかったの。カゼうつしちゃうよ。」
「平気だよ。バカはカゼひかないっていうでしょ。」
「そういう問題じゃないと思うけど・・・。とにかく、萌はここに入ってこないでよ。僕が怒られちゃうじゃん。」
「まぁ、私を部屋に入れてる時点で怒られると思うけどねぇ。」
「・・・。」
何も言えないけど・・・。て言うかその通りかぁ・・・。
「で、何しにここに来たの。」
「えっ。ナガシィと遊びたいと思ったから。」
「遊びたいって・・・。今は遊べないよ。こんなんだし・・・。それにさっきも言ったけど、萌にカゼがうつったら、僕が困るもん。」
「大丈夫だって。私はカゼひかないから。」
どうしてここまで自信を持てるのかなぁ・・・。
「コラ。」
そういう声がして二人ともびくっとする。
「もう。萌ちゃん。どうしてここに入ってるの。それに智ちゃんはどうして萌ちゃんもこの部屋に入れているの。」
「あっ。」
「ごめんなさい。すぐ帰ります。」
そういう萌をお母さんはつまみ出して、僕はそのあと思いきり叱られた。泣きそうなぐらいに・・・。
しばらくたつとインフルエンザは完治して、学校に行かなくていい生活は終わった。でも、今度は・・・。
「えっ。萌が今度はインフルエンザになった。」
「うん。もしかして、萌ってインフルエンザになってる永島君のところに行ったの。」
端岡が疑り深い目でこちらを見た。
「そうだけど・・・。あいつバカはカゼひかないとか言ってたくせに・・・。」
「・・・カゼって・・・。萌インフルエンザのことカゼと一緒って思ってるのかなぁ・・・。」
「えっ。インフルエンザってカゼのすごいバージョンじゃないの。」
「あんたもか・・・。」
その日の放課後。僕は萌の家に行くことにした。当然家の中に入れてくれるはずはない。もちろんそれはわかっている。今日出された宿題を伝えに行くためだった。萌のお母さんにそれを伝えたら、すぐに家に帰った。一週間それを続けて、萌のインフルエンザが完治すると、
「誰が、バカはカゼひかないだよ。」
「こうなるなんて思ってなかったんだってば。」
「・・・端岡が言ってたけど、インフルエンザってカゼじゃないらしいよ。」
「えっ。マジ。じゃあ、インフルエンザって何。カゼじゃなかったらカゼのパワーアップバージョン。」
「そうでもないって。」
ふたりの認識は今までこうだった。
よくある認識ではないかと思われます。