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野原の小さな魔女  作者: 高菜あやめ
第二部 小さな魔女の願い事

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(14)

 イシュは上着のポケットから招待状を取り出すと、うやうやしくカリンに差し出した。金に縁取られたクリーム色のカードには、美しい飾り文字で『西の森の魔女カリン様へ』と記されている。


「実は今夜、延期されていたシェリマの誕生日パーティーが開かれるんだ。それでシェリマが、魔女さんにも是非出席して欲しいって」

「お誕生日のパーティー……」

「シモンズが腕によりをかけて作ったケーキや、他にもおいしいご馳走がたくさん出るよ。張り切って、昨日から徹夜で準備してるようだ。あれはきっと、シェリマのためというより、魔女さんのためだろうな」


 イシュはクスクス笑いながら、そっとカリンの頭をなでた。


「今夜はそのドレスを着て、可愛くしておいで。ドレスは僕の見立てだから、気に入らなくても我慢すること。いいね?」


 カリンは顔を真っ赤にしてコクコク頷く。気に入らないわけがない。こんな美しいドレスを着るなんて、カリンには生まれて初めてだ。






 パーティーは日が暮れてから始まった。

 カリンが部屋でドレスに着替え終えた頃、思いがけない訪問者が現れた。


「よう、カリン!」

「レアス! いつここにきたの!?」


 レアスは「今だよ、今」と笑いながら駆け寄ってきた。その後ろから、なぜかドラード大尉が現れたので、カリンは思わず固まってしまう。


「あ。これ、俺の父上」

「え!?」


 ドラードは、船上で会った時とは別人のように穏やかな微笑を浮かべると、カリンに向かって小さく会釈をした。


「息子が大変お世話になっています」

「……」


 驚きを隠せないまま、カリンは口をぱくぱくさせて、ドラードとレアスを交互に見比べている。一方、レアスは感心した様子で、まじまじとカリンの姿をながめていた。


「へえ、すごいな。カリンじゃないみたいだ」

「え、どうして?」

「だって、そんな格好してるの初めて見たからさ。髪もそれ、どうしたんだよ?」

「ドレス着るのを手伝ってくれた女の人が……私はいいって言ったんだけど」


 カリンは顔を赤くすると、落ちつかない様子で美しく巻いた黒髪に手をやった。耳の横で結ばれた緑色のサテンのリボンが若草色のドレスによく映える。


「とにかくさあ、今夜はご馳走がいっぱい出るから、一緒にたくさん食べようぜ」


 カリンはうなずくと、レアスと手を繋いでパーティー会場の大広間へと向かった。

 カリンはドレスを着て歩くのが気恥ずかしかったが、隣のレアスも絹のブラウスに金ボタンのついた豪華な上着を着ていたので、ちょっぴり心強く感じた。


 大広間には、すでに大勢の人が集まり、音楽に合わせて色とりどりのドレスが、まるで蝶のように室内をヒラヒラ舞っていた。カリンは、夢みたいに鮮やかな光景を前に、口をぽかんと開けてその場に立ちつくす。


「ほら、こっち行こうぜ」


 レアスに引っ張られ、人の群れを縫うように進みながら、カリンはイシュの姿を探した。しかし、ただでさえ背が低いカリンは、大勢の大人に囲まれて視界が遮られているため、目が回りそうだった。

 やがてレアスは、壁際に置かれた椅子にヒョイと飛び乗ると、カリンの腕を引っ張った。


「ほら、カリンも乗ってみろよ。姫のドレス姿が拝めるぜ」

「ちょ、ちょっと待って、今靴を脱ぐから……椅子が汚れちゃう」

「あーあ、見ろよ姫のあの顔! いつもより輪をかけて不機嫌そうだなぁ」


 カリンは靴を脱いで椅子の上に立つと、レアスが指差す方角をながめた。そこには真珠色のドレス姿のシェリマが、仏頂面で立っているのが見えた。金色の髪は綺麗に結い上げられ、頭上には華奢なティアラが乗っている。

 シェリマの美しい姿に、カリンはすっかり見とれていたが、その隣に立つ人物に目をとめて「あ!」と声を上げた。


「なんだよ、急に耳元で大声出すなよ」

「見つけた、イシュがあそこにいる!」

「あ、ホントだ。しっかし、二人とも忙しそうだよなー」


 イシュとシェリマの前には、大勢の来賓客がズラリと列をなしており、一人一人順番に挨拶を交わしている。たしかにレアスの言う通り、二人ともとても忙しそうだ。


(パーティーって、本当に楽しいのかしら)


 しかし周囲には、笑い声を上げながらお酒を酌み交わしている人たちや、中にはクルクルと息もつかせぬぐらい回転をして楽しそうに踊る人たちであふれている。あんなに回ったら目を回しそう、とカリンが物珍しそうにながめていると、レアスがカリンの手を取った。


「俺たちも踊ろうよ」

「え、でも私、踊ったことないよ?」

「大丈夫、適当に音楽と合あわせりゃいいんだよ」


 レアスはカリンの両手をつかむと、跳ねるような足取りでステップを踏み出す。カリンもつられて、レアスのステップを真似てみた。

 二人の子どもが、はしゃぎながらダンスフロアを回る姿に、周囲の大人達は「まあ可愛らしいこと」と微笑を浮かべる。

 やがて二人が息を切らせて足を止め、顔を見合わせて笑い合っていると、ふいに横から伸ばされた手がレアスの肩をたたいた。

 そこには、金色の杖を手にしたイシュが立っていた。


「お楽しみのところ申し訳ないけど、次は僕に代わってもらえるかな?」






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