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野原の小さな魔女  作者: 高菜あやめ
第二部 小さな魔女の願い事

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21/56

(11)

 カリンはテーブルの下で、うずくまるようにして縮こまっていたが、はっと我に返ると、肩に斜めにかけていた鞄を開いた。

 鞄の中には、いつも御守り代わりにしている数種類の薬草があった。その中に紛れていた一枚の葉を取り出すと、目の前に掲げてじっと見つめる。その葉は、王宮の薬草園で国王にもらった薬草だった。


(この葉の効きめは、たしか……)


 カリンは必死に記憶の糸をたぐり寄せた。その葉はたしか、母親の遺してくれた薬草図鑑で見たおぼえがあった。国王が説明してくれた通り、北方の山岳地帯に生息する。


(そうだ、煎じて飲むと不眠症に効くって書いてあったんだ)


 国王はきっと、元気の無いカリンが良く眠れるようと、この葉を分けてくれたのだろう。


(この葉っぱ、一枚だけど……何かに使えないかしら)


 カリンは最近の勉強の成果を試すべく、葉を床に置くと両手をかざし、口の中でたどたどしく呪文を唱える。すると葉は魔力の反応を受け、粉々の粒子へと変化した。


(この薬草の粉を船の上からまいたら、吸い込んだ人はきっと眠ってしまうはず)


 カリンは鞄の中から空の小瓶を取り出すと、薬草の粉を入れて、しっかりと栓をした。威力は強いが、ほんの一握りしかない……慎重に使わないと、と手の中でにぎりしめる。

 カリンは改めて部屋を見回したが、ホウキらしいものは何も見当たらない。カリンの乗ってきたホウキは、地下の貯蔵庫に置きっぱなしだった。何か代わりになりそうなものはないか、カリンは室内をしばらく探索していたが、やがて壁に立てかけられた数本の槍に目をとめた。


(ホウキじゃないけど、これで何とか飛べるかも)


 カリンは一番細くて軽そうな槍を選び、それを手に取ってテーブルによじ登った。

 霧はますます濃くなっていき、開いた丸窓から部屋の中へと入りこみそうな勢いである。もはや地平線どころか、窓からほんの数十メートル先も見えない有様だ。

 カリンは両足ではさんだ槍を、両手でしっかりつかむと、窓に向き直って頭を低くする。

 窓は小さいが、カリンが屈めばギリギリ通れそうだ。カリンはぐっと奥歯を噛みしめると、身体を小さく丸めたままテーブルを蹴った。






「わっ、なんだあれは!」


 微かに耳に届いたのは、甲板にいた兵士の声だろう……しかしそれも風の音で、一瞬の内にかき消されてしまう。

 カリンは弾丸のように霧の中へと突っ込み、そのスピードに息もつけないまま、視界ゼロの中で宙を切り裂くように飛び続けた。


(光はどこ……ほんの少しでも光があれば、見えるのに……!)


 カリンは目をこらしたが、白く濁った風が吹き付けてくるばかりで、飛んでいる方向すらつかめない。真っ直ぐ飛んできたつもりだが、だんだんと自信が無くなってきたその時。

 ガツッ、と大きな音が響き、カリンは衝撃で自分の身体がグラリと傾くのを感じた。

 遠のく意識を奮い立てて、無我夢中で腕を伸ばし、つかめた何かに必死でしがみつく。ここで落ちたら、海に投げ出されてしまう。


(なんだろう、これ……)


 しがみついたのは、がっしりとした太い柱のようだ。ズキズキと痛み出した頭をもたげると、眼下にたくさんの人影が見えた。


「何かが飛んできたぞ!」

「人間だ、人間が飛んできた!」

「棒みたいなモンに乗ってたぞ。ありゃ魔女じゃないか!?」


 どうやら下は甲板のようだ。そこでカリンははじめて、自分が船の甲板を見下ろしていた事に気がついた。どうやらマストの一部にぶつかって、そこに引っかかっているらしい。マストの下には、続々と人が集まってきた……皆、屈強そうな強面の男ばかりである。


(海賊……海賊船だわ!)


 カリンは夢中でマストにしがみつきながら、右手をしっかりと握りしめていた……その手の中あるのは、例の薬草の粉の入った小瓶。


(今、使わなくちゃ!)


 カリンは意を決して、小瓶のふたを親指でこじ開けると、大きく右腕を振って中身の粉を宙にばらまいた。






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