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姫巫子  作者: 春秋
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護の里

すみません。これを抜いて投稿していました。


ここは倭に数十ある忍の里のひとつ、護である。

民が分け入る事の出来ない山奥に木々に守られるようにひっそりと存在している小さな里だ。

老人とまだ見習いの子供達、合わせて40人程度が居残り組。下忍・中忍・上忍の合わせて50人程度がそれぞれの仕事に出ている。

見習いの子供たちは、手が空いている者に教えを受ける決まりとなっている。


里にある修練場の一画ではがっしりとした体格のいい壮年の男性が見習いの子供たちに指導を行っていた。

それぞれが男性の指示に従って真剣に取り組んでいる中に、一人だけ端の方で木に寄りかかっている少年がいた。

つんつんとした、短くかたい黒髪。よく日に焼けた肌。好奇心に満ちた黒い瞳はほんの少し吊り上っている。一人離れているよりも、積極的に修練を始めている方が似合いそうな負けん気の強そうな印象を受ける。

少年の様子を目にとめた男性が近づいてきても少年は動こうとしない。

「裕真、皆を見習って動かんか」

男性の叱責にはかなりの迫力があるが、少年―裕真は平然とした態度を取り続け、従おうとはしない。どこ吹く風といった裕真の様子に男性の声はますます大きくなっていく。それにも一切の恐れを見せず、態度に変化は見られない。

そんな二人の様子にほかの子供たちの手が一人又一人と止まり、怯えた様子で男性を窺っている。

「情けない、それでも名誉ある守護者の一人か、裕真!」

嘆かわしそうに首を振りながら、男性が『守護者』と口にした途端、それまでいくら怒鳴られても変わらなかった裕真が嫌悪の表情を浮かべた。

「好きで守護者になった訳じゃあないね」

苛立だしそうにそう言うと、さっきまでとは別人のような動きで、男性の怒鳴り声を無視して、裕真は姿を消した。



男性から逃げ出した裕真は、里外れにある、一際高い木の天辺近くの枝に飛び乗る。

そして、虚しさと怒りを含んだ目でどこまでも続く緑の山々を見つめた。

ふと、空を見あげると、自由に空を舞う鷹を羨ましげに見つめた。

しばらくそうしていた後、楽な姿勢で木に寄りかかると、目を閉じた。

いつもの夢を思い浮かべると、不思議と心が落ち着いていく。

あの時の少女がどんなふうになっただろうかと想像していくうちに、裕真はゆるゆると闇の中に沈んでいった。






「裕真」


声が掛る前に、近づいてきた気配に瞬時に裕真は覚醒した。見習いとはいえ気配を敏感に察知するのは里の者にしてみれば当り前のことだ。ましてや、隠されていない気配であればなおさらだ。

目をあけると、いつの間にか空は赤く染まり、日が沈みかけていた。

「紅」

けだるげに裕真は少女の名を呼んだ。

明るい笑顔のよく似合う快活そうなその少女は裕真の幼馴染みであり、見習いの子供達の中でも、特に将来を期待されていた。

紅は不機嫌そうな裕真の横顔を見た。

「もうすぐ誕生日だね、裕真」

羨ましげに、紅が小さくつぶやいた。

「あぁ」

紅とは対照的に嫌そうに裕真が答えた。

「裕真、何が嫌なの?13歳になったら、正式な守護者になれるんだよ!この倭でたった五人しかいない!何でそんなにやる気がないの!私がかわりたいぐらいだよ!」

「勝手に将来を決められているのがいいていうのかよ」

「当たり前でしょう。姫巫女様にお仕え出来るんだから!」

「ふん」

一瞬紅を睨むと、裕真は姿を消した。

「裕真のばか」

苛立つように小さくつぶやかれた紅の言葉は、風に溶け誰にも届くことはなかった。


守護者とは、何者であろうか?

守護者とは、忍の中からわずかに5人のみ選ばれ、社人か帝しか会うことの許されない姫巫女に仕える事が出来る者の事である。

生まれた時から、体のどこかに刻まれた刻印が守護者の証である。

優れた力を持つと言われる守護者は忍の尊敬と憧れの的であり、守護者を里から出すことは名誉なこととされている。

そのため、里の期待を一身に背負う事となる。

裕真も例外でなく、常に上を求められていた。

ただの裕真として見られることはなく、常に将来守護者になる裕真として見られ続けてきた。どこに出しても恥ずかしくないりっぱな忍であるようにと、未熟であることは許されず誰よりも厳しい修業が課せられてきた。

裕真にしてみれば、里の者から向けられる尊敬と嫉妬と憧れ、期待が重過ぎてしかたがなかった。期待に答えられない自分が情けなく、苛立ちのもとでもあった。



守護者に掛けられる期待と羨望の裏にあるものは?

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