くノ一ツボミは捕まりたい
「ううー……、お腹が空きました~……」
私の名前はツボミ・サルスベリ。
忍者の里で由緒正しきお花屋さんを営む家の娘です。
里の忍者学校に落第スレスレで通っていて、14歳になったので里の外にテレポートでランダムに飛ばされるという鬼畜な修行をさせられているのですが行き倒れ寸前です。
「うう~……、おかあさーん、おとうさーん……」
泣き言を言っても誰も助けてくれません。
大体何ですか忍者の修行って。
腹の足しにならない忍者飯と水筒だけ渡されサバイバルなんて時代錯誤です。
私はおウチでのんびりお花屋さんをしたいのに……
くノ一なので色仕掛けの知識を教わっているのですが、大人なお店で働こうにも年齢でダメです。そもそも知らない男の人となんて絶対無理です。イケメンさんならまだしもですが……
と、なると何か万引きをしたり無銭飲食をして捕まってご飯を食べさせてもらうくらいしか思い浮かばないのですがそんな事する度胸もありません。
そもそも悪い事はいけない事です。悪い事をしちゃいけません。
道ばたにあるサレン様の像にお供えしてあるパンやおまんじゅうを食べて生きてきました。
しかしそれも限界です。
「もう、ダメです……」
バタリ。私は山道の中で行き倒れます。
「オイ、くノ一がいるぞ」
「ホントだ。くノ一だな」
と、誰かが近づいてきます。
山賊さんのようです。山賊さんの男の人2人組が近づいてきました。
「レアジョブのくノ一ならきっと金やお宝を持ってるに違いねえ。アジトに連れてったらお頭が喜ぶぞ」
「へへ、そうだな。縛り上げてアジトに連れてくか」
山賊さん達が私の身体を起こして後ろ手に縛り始めますが抵抗する力もありません。
私はそのまま、意識を失いました。
………
……
…
「オイ起きろ、起きろよくノ一」
頬を軽く叩かれ、意識が覚醒します。
ぼろっちいあばら家です。山賊のアジトのようです。
その部屋の中に私は後ろ手に縛られ監禁されていました。
「随分ちっこいくノ一だな。まだガキじゃねえか?」
「バカ油断するな。くノ一はレアジョブだぞ。こう見えて高ステータスに違いねえ」
「縛ってるけど縄抜けの術とか使うかもしれねえぞ。油断すんなよ」
何だか警戒している山賊さん達。
私は彼らに向けて言います。
「……できません」
「何?」
「私、縄抜けの術ができないんです」
「「「……」」」
「里の忍者なら子供でもできる縄抜けの術が、私にはできないんです」
山賊さん達が大笑いし始めます。
爆笑です。
人に笑われるのは慣れているのですが、傷つきます。ショックです。
「そうか嬢ちゃん。縄抜けできねえのか。じゃあ大人しく金かお宝を渡しな」
山賊さんがそう呼びかけてきます。
荷物は漁ったようですが、服の中までは調べられなかったようです。
ですが……
「……持ってません」
「「「……」」」
「私、里でも落第寸前のへっぽこくノ一なので、お金もお宝も持ってません。今だって里からテレポートで飛ばされるっていう修行の途中で行き倒れてたんです」
「「「……」」」
「冒険者ブックを見て下さい」
「冒険者ブック?」
山賊さん達が、私の荷物に入ってる冒険者ブックを開きます。
「私、『こうげき』が1しかないんです」
私のレベルは25ですが、『こうげき』のステータスは1しかありません。
『すばやさ』のステータスだけは高いですが、へっぽこなんです。スライムひとつ倒せません。
これまでのレベルだって、私のへっぽこぶりを哀れに思った先生達が、魔道具でモンスターにとどめを刺させる接待プレイで上げてきました。
「テレポートで飛ばされた同い年の子達はモンスター退治でもして稼いでるでしょうが、私は何にもできずに拾い食いしてここまで歩いてきたんです。お金なんて1マニーもありません」
「「「……」」」
「大人なお店で働こうにもこの年ですしこの見た目ですし無理です。私は何にもできないんです。家の花屋でのんびり働きたいだけなのに、なんでこんな目に遭わないといけないんですか~。ふえ~ん」
今の状況が情けなくて泣けてきます。
「オイ、縄を解いてやれ」
そんな私を見て哀れに思ったらしい山賊の親分さんに指示され、子分さんが私の縄を解きます。
自由になった手で、涙を拭います。山賊さんが手ぬぐいを渡してきます。私のです。
「行っていいぞ。嬢ちゃん、強く生きろよ」
山賊の親分さんに入り口の方を指さされます。
ですが……
「あ、あの……」
「何だ?」
「少しでいいので、何か食べ物をいただけないでしょうか……」
「……」
山賊の親分さんが、缶詰を渡してきます。
私はお礼を言って、缶詰を開けて忍者道具をお箸代わりにして食べ始めます。
3日ぶりの食事です。胃に染みます。
「ううっ、ぐすっ、おいじいでず~~~」
「「「……」」」
山賊さん達が哀れみの表情で見てきます。
私は缶詰を平らげ、山賊さん達に土下座でお礼します。
「ありがとうございました! このご恩は一生忘れません!」
「……いや、それほどのモンでもねえから。食ったら出て行けよ」
「あ、あの!」
「何だよ」
「お願いします! 何でもしますので私をここに置いて下さい!」
もうこの際贅沢言いません。生きてこその物種です。
山賊の手伝いでも何でもやります。えっちな事でも何でもします。
ホントはイケメンさんがいいのですが、男臭いこの人達でもお相手します。
その覚悟で山賊さん達に土下座したんですが……
「「「お引き取り下さい」」」
「……あ、はい」
こうして私は山賊さん達のアジトを後にしました。
余談ですが山賊さん達はこの後通りがかった第三王女さんの前に立ちはだかった所、ボッコボコに返り討ちにされた上、ブチ切れたお付きの闇魔法使いさんにブタ箱行きにされたそうです。
****************************
「や、やっと着きました~~~」
山賊さん達から解放されて3日。遠くから見えていた街にようやくたどり着きました。
レイフォード領という所らしいです。
冒険者ブックを見せて城門を通ります。
忍者の里と違い大きな建物がたくさんあります。
中でも目を引いたのは……
「公衆浴場? 利用無料ってホントですかっ!?」
利用無料と書かれてある公衆浴場に、私は興奮を覚えます。
お風呂なんてもう1週間も入れてません。乙女としてピンチです。
ですがホントに無料なのでしょうか?
世の中ウマい話ほど気をつけた方がいいというのがおじいちゃんおばあちゃんから教わった事です。
私はおそるおそる、公衆浴場に入ろうとしている女の人に声をかけました。
「あ、あの?」
「うん? ボクに何か用?」
ブロンドの髪をショートボブにした背の高い女の人です。
足がスラッと長くて素敵です。うらやましいです。
「このお風呂って、利用料無料ってホントですか?」
「もちろん無料だよ。この街の浴場は誰でも無料で使えるんだ」
「ホントですか!?」
ボクっ子のブロンドの髪のお姉さんがアハハと笑います。
「ホントだよ。前の前の領主様が作ってくれたものでね。この街の人は皆使ってるんだ」
「神です! その前の前の領主様は神様です!」
「アハハ、普通のおじいちゃんだけどね。君、この街に初めて来たの?」
「はい!」
「くノ一なんて珍しいねー。ボク冒険者ギルドで受付嬢してるけど初めて見たよ。レアジョブじゃん。一緒にお風呂入る? 無料で使える洗濯魔道具も乾燥魔道具もあるからその服も洗おうよ。ボク、使い方教えるからさ」
「ありがとうございますっ!」
親切なボクっ子お姉さんにお礼を言って、私は公衆浴場に入って行きました。
………
……
…
「あ~……生き返りました~……」
マッサージチェアに揺られながら、私は洗濯・乾燥したての忍者服に身を包み牛乳を飲みます。
1週間ぶりのお風呂に、涙が出そうな思いでした。
1本だけ無料の牛乳も、飲み放題のお水もありがたいです。
私をお風呂に連れて来たボクっ子お姉さんは、用事があるとかでどこかへ去って行きました。色々教えて下さりありがたいです。
ありがたいのですが……
ぐう~~~。
お腹の虫が盛大に鳴ります。
3日前に山賊さんの所で缶詰を食べてから、果物とかお供え物など大した物しか食べてません。
「何か無料で食べられる物も紹介していただきたかったですー……」
そんなものないでしょうが、お腹が空きました。
公衆浴場を出て、街を歩きます。
サレン様の像がいっぱいあります。お供え物も多いです。
しかしこう人目があると、それをいただくのは気が引けます。
「何か食べ物……、お金……」
フラフラになりながら、街を歩きます。
もういっそ、何かやらかして警察のお世話になりましょうか。
できればイケメンさんの警察官がいいです。
そしてかつ丼でも頂いた後、お仕置きを身体に分からせてもらいたいです。イケメンさんに。
そんなアホな事を考えてると、ものすごくいい匂いがしてきました。
お肉の焼ける匂いです。
「ダ、ダメです……」
今の私は無一文。
忍者の里から0マニーで放り出された身です。払うお金がありません。
しかしおいしそうです。
おいしそうな匂いに逆らえません。
私は頭がボーッとしたままお店へ入っていきました。
………
……
…
「……」
空のお皿を前に、私は途方に暮れます。
やってしまいました。
お金がないのにご飯を食べてしまいました。無銭飲食です。
お金なんてありません。ノーマニーです。
「……」
どうしましょう。
素直に謝りましょうか。でも許してもらえるとは思えません。
今更ながら怖くなってきました。山賊さん達に捕まった時は怖くなかったのに。
「……」
私はそっと席を立ちます。
すぐにお店の人がお会計かと気づきこっちに寄ってきます。
気配を消しても気づかれる。だから私は落ちこぼれくノ一なのです。
ですが足の速さには自信があります。私の「すばやさ」は45です。
「スミマセンっ!」
私は脱兎のごとくお店の出口に向かって走り出します。
「ちょっと!? お勘定!?」
「スミマセンスミマセン、本当にスミマセン! いつか必ずお支払いに来ますので!」
こうなったら服を売ってもクナイを売っても身体を売っても何でもしてお金を稼ぐしかありません。それでお金を作ってからこのお店にお金を払いに来ましょう。
「食い逃げだー!!!」
道路に出て道を走ると、後ろからお店の人の声が追いかけてきます。
スミマセン! 本当にスミマセン!
しかし目の前に5人組の冒険者らしいパーティーがやって来ています。
大きな剣を背中に背負っている金髪の女騎士。
紅の髪を三つ編みにして肩に流している女魔法使い。
水色の髪の神官っぽい女の子。
前髪をパッツンに切りそろえている女魔法使い。
そしてくすんだ茶髪の何か弱っちそうな男の人です。
とっても強そうな女騎士の人は論外。
これまた高レベルっぽい赤髪の女魔法使いの人と、地味だけど実力がありそうな黒髪の女魔法使いさんも無理そうです。
そして水色の髪の可愛らしい神官の女の子も手練れの気配がプンプンします。
という事で一番弱そうな、シーフっぽいくすんだ茶髪の男の人の脇をすり抜けようと考えます。
「『バインド』!」
「んなっ!?」
しかし私は後ろ手に縛られ、足も縛られて無様に道に転がります。
今のって、バインドスキル?
私の足の速さは相当なもののはずなのに、何という緊縛術でしょう。
これまで縄抜けの術の授業などで散々縛られてきた私でも体験した事ない拘束です。
動けないのにきつくない。どこか思いやりすら感じる縄です。
私はこの人の縄を受けるために生まれてきたんじゃないかと錯覚してしまいそうなくらいです。
「食い逃げって、この子の事か?」
「らしいな。店主がこちらに近づいてきているし」
「この子、くノ一じゃない? あたし初めて見たわ」
「……ん、私も」
「どうしてレアジョブのくノ一が食い逃げなんてしたのでしょうか……?」
縛られ転がる私を見ながら、5人組がそんな話をし始めます。
私は、私にバインドをかけた男の人に声をかけます。
「あ、あの!」
「うん?」
「お願いします! 私をあなたの奴隷にしてください!」
私は縛られた身体で男の人に迫ります。
イケメンさんではありませんが、こんな凄腕ならお金持ちに違いありません。
もう何でもするんで養ってもらいたいです。
くすんだ茶髪の男の人が、死んだ目で私を見ます。
そして、金髪の女騎士の人に声をかけました。
「セイラ、この子の事任せていいか」
「心得た」
私は女騎士の人に米俵のように片手で担ぎ上げられます。
ちょっ!? すごい力!!!
そして私は、警察署まで連れて行かれました。
……この後領主代行という女騎士の人に事情を聞かれ、初犯という事で注意というだけで済み、レイフォード領のお花屋さんで住み込みで働いてご飯代を弁償し住み着くことになるのですがそれはまた別のお話です。




