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春の残香 〜汽車の窓に、なごりの桜〜

作者:陰東 紅祢
最新エピソード掲載日:2026/04/06
香川県・多度津町。
四国鉄道発祥の町で、多度津駅に勤める駅員・橋倉雅治は、春になるたび祖父のことを思い出す。 

祖父・勇もまた、かつてこの町で人々を送り出す仕事に就いていた。だがその胸には、生涯忘れることのない、ひとつの別れが残されている。

時は大正十四年。
勇と小春は、幼い頃からいつも共に過ごしてきた。
鉄道に夢を抱く勇と、商家の娘として育つ小春。二人にとって、隣にいることは当たり前だった。
しかし、この年、二十歳を迎える小春が変わりはじめる。
何を問うても本心を語らず、ただ曖昧に微笑むばかり。

「勇さん……私、遠くへ行くことになったの」

やがて春の日、小春は突然、町を離れることを告げる。
勇が「いつ?」と問えば「明日」と答えた。

「見送りは……いいから」

小春はそう言うと僅かに視線をそらした。

翌日――勇は駅員としての最初の仕事に就き、ホームに立つ。
押し寄せる人波の中、必死に小春の姿を探すが見つからない。
発車間際、ようやく視界の端に彼女の姿をとらえる。
窓を隔て、互いに気付く二人。
言葉を交わそうとしたその瞬間、汽笛がすべてを掻き消した。
動き出す汽車の窓に残されたのは、伝えられなかった想いと、散りゆく桜だけだった。
幼少期編
時待ち桜
2026/03/30 22:48
馴染みの友
2026/03/31 11:33
言わないで
2026/04/01 10:50
名前のない感情
2026/04/02 11:19
過ち
2026/04/03 12:12
捜索
2026/04/04 15:17
焦り
2026/04/05 11:17
苦い経験
2026/04/06 11:15
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