鏡の向こうの、さよなら:神崎優衣の独白
神崎優衣。この悲劇的なミラーワールドの物語における「心臓」であり、すべてのライダーが奪い合った「命」そのもの。
彼女の視点から、兄・士郎への切なる願いと、鏡の向こうで散っていった戦士たちへの祈りを描きます。
鏡の向こうの、さよなら:神崎優衣の独白
子供の頃、お兄ちゃんと二人で描いた絵。
モンスターがいて、魔法があって、私たちはその世界の王様と王女様だった。
でも、その幼い空想が、まさかこんなにも残酷な「現実」になってしまうなんて。
私は、知っていた。
鏡の中に映る赤い空が、誰かの血で染まっていることを。
私の命を繋ぎ止めるために、お兄ちゃんが13人の男たちを地獄へ突き落としていることを。
城戸真司という「温度」
真司くん。君は、この冷たい鏡の世界に、初めて「本当の温もり」を持ち込んでくれた人だった。
お人好しで、おっちょっちょいで……でも、誰かのためにボロボロになって戦う君の姿を見て、私は何度も心の中で叫んだ。
「もういいよ、真司くん。私のために、自分を傷つけないで」って。
でも、君は笑って言ったよね。「大丈夫だよ、優衣ちゃん」って。
その笑顔が、私の罪悪感を溶かしてくれた。同時に、この戦いを終わらせなきゃいけないって、私に勇気をくれたんだ。
蓮、そして消えていった人たちへ
秋山蓮。君の不器用な優しさを、私は忘れない。
恵里さんのために、鬼になろうとしていた君の横顔。
北岡さん、浅倉、手塚、東條……。
彼らはみんな、私という「命」のために戦っていたんじゃない。
自分の「願い」を叶えるために、この世界に囚われていた。
私が生きている限り、彼らの呪縛は解けない。……それが、私にとって一番の苦しみだった。
お兄ちゃん、神崎士郎へ
お兄ちゃん。私の大好きなお兄ちゃん。
私のために、世界を壊そうとした人。
私のために、神様になろうとした人。
「お兄ちゃん、もういいよ。……私、もう十分幸せだったよ」
お兄ちゃんがくれた20年という時間は、短いけれど、私にとっては永遠と同じくらい重いものだった。
だから、もう時計の針を戻さないで。
誰かの命を奪ってまで生きることを、私は望まない。
お兄ちゃんが描いたこの絵を、今度は私が消してあげる。
結末:黄金の羽が舞う場所で
光が溢れている。
お兄ちゃんの手から、オーディンのカードが滑り落ちるのが見えた。
ミラーワールドが、砂の城みたいに音を立てて崩れていく。
「お兄ちゃん、行こう。……一緒に行こう」
私はお兄ちゃんの手を握った。
実世界の私は消えてしまうけれど、心は自由になれる。
もう、誰も戦わなくていい。
誰も、鏡の中の自分を恐れなくていい。
最後に、私は真司くんたちのいる世界へ、願いを込めて羽を飛ばした。
どうか、新しい世界では、みんなが普通に笑い合えますように。
戦う理由なんてどこにもない、退屈で、平和な毎日を過ごせますように。
終幕:新しい朝の記憶
目が覚めると、窓の外では鳥が鳴いていた。
鏡を覗き込んでも、そこには普通の女の子が映っているだけ。
街を歩けば、どこかで見かけたような背中とすれ違う。
ジャーナリストの青年。黒いロングコートの男。派手なスーツの弁護士。
彼らと目が合っても、会釈することさえない。
それが、私とお兄ちゃんが選んだ、一番幸せな「結末」。
私は、喫茶店『花鶏』のカウンターで、お茶を淹れる。
「いらっしゃいませ!」
扉が開く音。
そこには、きっと今日も、騒がしくて温かい日常が待っている。
私はもう、何も覚えていない。
けれど、胸の奥に灯ったこの小さな温もりだけが、かつて誰かが私を守ってくれた「証」だと信じている。




