仮面ライダー龍騎、本編!香川英行教授(オルタナティブ・ゼロ)
香川英行教授の視点で、彼の合理性と、その裏に隠した家族への愛、そして「英雄」を目指した教え子への遺言を描きます。
零の算式:香川英行の回想
すべては、あの日目にした一枚の資料から始まった。
神崎士郎。彼が構築したミラーワールドというシステムは、物理学的にも論理学的にも、この世界の均衡を破綻させる劇薬だった。
私は科学者だ。未知の事象を解明し、予測される破綻を未然に防ぐ義務がある。
たとえ、そのためにどれほどの「犠牲」が必要だとしても。
閉ざされた理論
私の脳内には、常に数式が流れている。
ミラーワールドを閉じるための解は一つ。システムの根幹である神崎優衣を排除すること。
冷酷だと? 感情論など、迫りくる世界の破綻の前では無意味だ。一人の命と、全人類の未来。天秤にかけるまでもない、あまりに単純な算数だ。
だが……その算式を解くために、私は「人間」であることを捨てきれなかった。
東條悟という「誤算」
東條。私の愛した教え子よ。
君は私の「英雄」という言葉を、あまりに純粋に、そしてあまりに歪んだ形で受け取ってしまった。
大切なものを殺すことで、英雄になれると信じた君の狂気。それは、感情を排して正解を選ぼうとした私の姿、その鏡合わせだったのかもしれない。
君が私に牙を剥いた時、私は驚きよりも先に、奇妙な納得感を覚えていた。
「そうか、君もまた、私という犠牲を糧に数式を解こうとしているのだね」と。
城戸真司への「問い」
城戸くん。君は最後まで計算の外側にいた。
論理では説明できない行動、予測不能な善意。君のような存在は、私の設計した「オルタナティブ(代替)」という概念には存在しなかった。
だが、システムの穴を埋めるのは、いつだって君のような不確定要素なのかもしれない。科学では導き出せない「奇跡」という答えを、私はどこかで君に期待していたのかもしれないな。
結末:暗転する意識の中で
背中を貫いた衝撃が、私の思考回路を乱していく。
東條の手にかかった召喚機が、私の命をデジタルな塵へと変えていく。
不思議だ。死にゆく脳裏に浮かんだのは、複雑な数式ではなく、妻と息子の穏やかな寝顔だった。
「……計算が……違ったな……」
私は英雄になりたかったわけではない。
ただ、家族が明日も笑っていられる世界を、論理的に守りたかっただけだ。
東條。君に最期の講義を授けよう。
英雄とは、誰かを殺す者ではない。誰かの幸せのために、己の命という最期の変数を使い切る者のことだ。
ノイズが混ざり、視界が消えていく。
私は、私が作り出した「オルタナティブ(ゼロ)」という仮面と共に、鏡の奥底へと沈んでいく。
神崎士郎。君の計算式を止めるのは、もう私ではない。
愛する家族の待つ、光の射す世界へは、もう戻れない。
だが、私の遺した「意志」というデータが、誰かの未来を繋ぐプラグになることを……私は、科学者として願っている。




